生活保護の水際作戦事例を検証する

「家族に養ってもらえ」

 

同じように水際作戦の典型的なものは「家族に養ってもらえ」だ。「まだ働ける」は65歳以下の方にたいしておもに使われるが、「家族に養ってもらえ」は全年齢的にもちいられる。

 

生活保護において「扶養義務」というものは、実際には制度利用のための「要件」ではない。「保護に優先して行われるもの」と定められてはいるが、必要な保護を妨げるものではないと解釈されている。

 

その方の状況によって家族との関係性や家族の扶養能力も違う。また、DVや虐待など、特別な事情で家族や親族と離れて暮らす必要がある場合など、生活保護の申請にかんして家族や親族への連絡を止めてもらうことができる。

 

しかし、実際はその「扶養義務」を違法に運用して、「水際作戦」にもちいることが多い。いくつか事例を紹介する。

 

事例1 20代 女性 Dさん

 

Dさんは派遣やアルバイトを転々として生計を立てていたが、ストレスから不眠に悩むようになる。仕事も難しくなり、役所に相談へ行くが、「親が健在なら養ってもらいなさい」の一点張り。そしていったんは遠方の父親が養うという方向性で話がまとまった。しかし、実家の家計も火の車で、約束の仕送りも一向に来ない。父親からは「生活保護は許さん」「仕事をしろ」「家の敷居をまたがせない」「恥知らず」と電話で怒鳴られる。

 

再度役所に電話するが「ご両親と相談してください」とろくに 取りあってもらえない。そこで、支援団体に相談し、生活保護申請し生活保護が決定した。

 

事例2 三郷市保護申請権侵害事件(2013年2月20日さいたま地裁判決)

 

埼玉県三郷市に住んでいたトラック運転手のEさんは、2004年に急性骨髄性白血病を発症し、勤め先の会社を退職。妻と長男、当時中学生の次女の4人暮らしだったが、入退院を繰り返す生活で収入はほとんどなくなった。

 

妻は生活保護を申請しようと、2005年3月~06年5月に市の福祉事務所を数回訪問。自身は夫の世話などで週の半分を病院通いしなければならず、アルバイトの長男の月収も約十万円しかないなどと、生活が苦しい状況を説明した。だが福祉事務所の職員は、妻に「働けるのであれば働いてほしい」「まず身内に相談してほしい」などと求めた。妻は、生活保護受給ができないと思い、申請にいたらなかった。

 

Eさんと妻らは市を相手に本来得られるはずだった生活保護費相当分などの損害賠償を求めて訴訟を起こした。なおEさんは提訴後に病死した。

 

2013年2月20日さいたま地裁判決(確定)によれば、「親族らに援助を求めなければ申請を受け付けない」などの誤解を与えた場合は「職務上の義務違反」にあたると指摘し、福祉事務所の職員の対応を「申請しても生活保護を受けられないとの誤解を妻に与え、生活保護の申請権を侵害した」と判断した。

 

その他、家族の「扶養」を理由におこなわれた水際事例を列挙する。

 

・北海道 40代 女性

 70代の母と同居。病気で倒れ、役所に申請に行くが、連絡の取れない弟に「連絡を取ってまず扶養してもらえ」の一点張りで申請させてもらえず。

 

・東北 40代 男性

 20年前に家族との不和で家を出たにもかかわらず「家族と和解しろ」と言われ、追い返された。

 

・関東 30代 女性

 親が持家に住んでいるということで「実家に帰れ」と言われ申請拒否。本人は父親の暴力を訴えるも「家族のことは話しあって決めろ」と言われた。

 

・関東 20代 女性

 精神疾患あり一人暮らし。両親もこれ以上面倒はみられない、一緒に住めないと言っているが、役所に行ったら「一緒に住むのが前提」「親が養うのが普通だ」と言われた。

 

・東海 30代 男性

 身体障害、精神障害あり。遠方の家族から仕送りを受け、障害年金で生活するも両親が経済的にもう限界。役所に行くも「家族からの援助があるならダメ」と断られた。

 

・北陸 80代 女性

 一人暮らしで年金生活しているが貯金がつきて生活困窮。子どもが4人いるが、独立していてやりとりもない。役所には「子どもにひきとってもらえ」と言われた。子どもは自分を引きとれるだけの経済的ゆとりはない。

 

・近畿 50代 男性

 80代の母を何とか兄弟で援助して生活を支えてきた。しかし、もう限界。このままでは自分たち兄弟も困窮してしまうと役所に相談したら、「何とかもう少し頑張ってください」と言われ追い返された。

 

・近畿 40代 女性

 離婚と失業が重なり生活困窮。役所に相談に行ったら「両親の年金があるからそれを頼れ」と言われて追い返された。両親とは離婚の経緯でトラブルになっていて援助を断られた。

 

・近畿 50代 女性

 病気になり働けなくなり生活困窮。役所に行ったら「20代の息子に養ってもらいなさい」と言われた。息子は住み込みの低賃金の仕事をしていて援助は無理だし、子どもの自立の足を引っ張ってしまうみたいで悲しい。

 

・九州 60代 男性

 姉が山林をもっているということで「それを処分して援助してもらえ」と言われた。姉の山林を勝手に処分はできないし、そもそも買い手がいないと売れない。

 

このように、「扶養」も非常によくもちいられる水際作戦の方法と言える。

 

「扶養」というものは本来当事者間で話しあい、可能な範囲で援助を行うものだ。そこに制度や価値観や人間関係がからむと、必要な話がされずに、生活に困った「その人」が置いてきぼりになってしまう。

 

福祉事務所としても「扶養義務」という概念にこだわりすぎて、実際の目の前の困っている「その人」に思いが寄せられなくなるのは問題だ。

 

生活保護の要件ではない「扶養義務」について、あくまで「必要な保護を妨げるもの」であってはならないし、「困っている」状況にそくした、そういった運用が行われなければならない。

 

しかし、今回の改正案では「扶養義務の強化」がかかげられている。こういった「水際作戦」を強化してしまったり、本人の申請意思をくじいたり、躊躇させてしまうのは間違いない。

 

 

 

 

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