生活保護の水際作戦事例を検証する

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その他、実際に起きた「水際事例」

 

つぎに、その人の状況にあった対応ではなく、福祉行政のあやまった対応や、差別的な対応がおこなわれた事案を列挙する。

 

・北海道 60代 男性

 車上生活している。役所に行ったら「車をまず処分してアパートにはいってからきてください」と言われた。アパートを借りるお金があったら借りている。

 

・東北 60代 男性

 病気で倒れ入院中に生活保護申請にいったら「入院中は申請できない。施設を自分でみつけて決まったら相談を」と言われた。

 

・関東 30代 女性

 生活保護利用中の男性と同居することになり役所に世帯変更の相談に。すると「生活保護中は1年以上一緒に住まないと同居できない」などとあやまった説明をされたり、「実家に帰りなさい」などと言われた。

 

・関東 60代 男性

 役所に相談に行ったら「まずここに行け」と、食糧支援をしてくれるというNPOを紹介され、生活保護申請をさせてもらえなかった。

 

・関東 20代 女性

 生活保護申請に行ったら「まだ若い」「本当に困った人のために生活保護はあるんだ」と言われ、家に帰ってショックでリストカットしてしまった。翌日再度役所に行ったら担当者は心配するそぶりもなく「僕はズバズバ言いますよ」と言われた。

 

・関東 40代 男性

 路上生活をしていて生活保護申請。役所には「まず自分で宿泊施設を見つけて。そうしたら受理するよ」と言われた。自分でどうやってみつけるのか。

 

・関東 50代 男性

 路上生活をしていて生活保護申請に行ったら宿泊施設の人を紹介され、「ここに入所しないと生活保護はダメ」と言われた。自分はアパートにはいりたいが2年もその施設にいる。

 

・関東 70代 男性

 路上生活中に倒れて救急搬送されたが点滴だけで帰された。翌日、役所に相談に行ったら「入院しなかったってことは治療が終わったんだからあとは自分で何とかして」と言われた。

 

・東海 20代 女性

 DV被害にあり他県から逃げて生活保護申請した。しかし、本当にDVがあったかどうか夫(DV加害者)に確認したいと言い張り、弁護士が間にはいってやっとやめてもらえた。

 

・近畿 30代 母子家庭

 生活保護申請に訪れた母子家庭の母親にたいし「異性との生活は禁止」「妊娠出産した場合は生活保護には頼らない」などの誓約書を担当した職員に書かされた。

 

・近畿 20代 女性 妊娠中

 生活困窮になり役所に相談。子どもの父親とはすでに音信不通であるにもかかわらず「胎児の父親の連絡先が必要だ」との理由で申請を拒否された。

 

・四国 50代 男性

 車を所有しておりそれを理由に申請書を渡してもらえず。支援団体が同行したら申請書を出してきた。

 

・九州 60代 男性

 居住しているアパートの賃貸借契約書をもってこないと申請できないと言われた。

 

・九州 30代 女性

 夫は負債があり拘留中。3人の子どもを抱えて生活困窮。役所に行ったら「子どもを施設に預けて働け」「離婚して児童扶養手当をもらえ」と一時間あまり説教された。

 

これ以外にもよくある水際作戦としては、「住民票がないとダメ」「借金がある人は利用できません」「うちでは対応できないから隣の自治体に行って(住所不定の人にたいして)」「今日は担当者がいないので受け付けません」「過去に生活保護を受けていたことがある人はダメです」「申請してもどうせ却下するので意味がない」などが有名だ。

 

法的にはわたしたちは誰しもが生活保護申請をする権利をもっていて、福祉事務所はそれを受理しなければならないと決められている。

 

しかし、実際の窓口の「現場」ではそれがあまりにも軽視されている。

 

 

生活保護利用中の方への問題ある対応

 

生活保護を利用することができても、本来その人が必要とする支援につながれずに困ってしまう方は多い。制度の運用の部分で、あやまった対応や、知識不足、人手不足による問題のある対応がなされてしまうこともある。

 

ここからは、とくに病気や障害をおもちの方の事例を紹介したい。

 

事例1 Fさん 50代男性 聴覚障害あり

 

東北の障害者支援施設で生活しているFさんは、ある日、住宅扶助や冬季加算の過払いが生じたという理由で約8万円の費用返還決定通知書を受け取った。困ったFさんはメールでケースワーカーへ説明を求めたが、1ヶ月以上返信がなく、面会もできなかったため支援団体に相談。その後、支援団体が間にはいり、担当者から説明を受け、分割で返還することになった。しかし、支援団体がはいらなければ十分な説明が受けられず、また本来認められた「審査請求」の権利も失いかねなかった。

 

事例2 Gさん 30代女性 精神障害

 

九州のアパートで1人暮らしをしているGさんは、病気が悪化して起きられなくなり、郵便物の確認や通院もできなくなったことから障害者手帳の更新手続きができなかった。その後、手帳が更新されないまま障害者加算を受給したという理由で約6万円の費用返還決定通知書を受け取った。通院の支援や返還についての協議はまったくなく、いきなりの決定だった。不服申し立ての期限に間にあわなかったため現在は法律相談を受けている。

 

事例3 Hさん 20代女性 知的障害

 

知的障害のために金銭管理が苦手なHさんは関東のアパートで1人暮らしをしている。しかし、家賃や光熱費の滞納が重なり、お米も買えなくなってしまった。生活福祉課や障害福祉課の担当者へ相談しても「自分でやりなさい」と追い返されることから支援団体に相談。相談当日の所持金は200円で、家賃は3ヶ月分を滞納し、ガスと電話は止まっていた。その後、支援団体が間にはいることで、本人の必要とする支援について協議。ケースワーカーがおもな金銭管理を行い、作業所の職員が日々のお金の使い方を手伝うという支援体制が作られ、ライフラインが復旧した。

 

このように、病気や障害をおもちの方にたいしては、本来、福祉事務所側がその方の状況に応じてその方が必要とする「合理的配慮」をおこなうべきだ。

 

返還請求にしても一括でなく実際に支払えるように分割を認めたり、生活保護利用者の権利である不服申し立て(不服審査請求)についてきちんと説明したり、また、病気や障害にあわせた支援計画、体制を整えたりなど、一緒になって生活の再建を考えていくことが求められる。

 

しかし、実際はこれらの事例のように、福祉事務所側のマンパワー不足もあって、その方にあった支援や、その方の状況にあわせた対応がおろそかになってしまっている。それらは、とくに病気や障害をおもちの、本来より「合理的な配慮」を必要とする方にとっては、死活問題となってくる。

 

また、改正案が提起する扶養義務の強化は、それらの方により顕著に襲いかかる。たとえば、昨年10月、障害者虐待防止法が施行された。2013年5月9日付読売新聞の報道によると、虐待として認定された1033件のうち、家族からの虐待が81%を占めている。

 

このように、家族からの「虐待」が病気や障害をおもちの方にとって大きな問題であることが、最近やっと社会化されてきた。もし生活保護の扶養義務が強化されれば、家族への連絡を恐れて申請できない障害者が増えることが予想される。また、生活保護の電算システムの導入が進められていることから、家庭の事情や病気・障害の特性をふまえない、乱暴なケースワークが増えることも懸念される。

 

病気や障害をおもちの方にとって生活保護制度は地域で生活していくための命綱でもある。

そういった方たちの制度利用を抑制し、「地域」ではなく「家族」のなかに閉じ込めようとする発想は大きな問題がある。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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