生活保護の水際作戦事例を検証する

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餓死・自殺にいたってしまった事例

 

ここからは、実際に餓死や自殺にいたってしまった事例を紹介する。正直、書いていて非常に心が痛い。しかし、実際にこのようなことが起こったことを忘れてはならないと思う。

 

事例1 北九州市餓死事件(2006年5月遺体発見)

 

2006年5月23日、北九州市門司区の市営住宅で一人暮らし、無職のIさん(56歳)のミイラ化した遺体が発見された。

 

Iさんは、下半身が不自由で身体障害者4級の手帳を所持しており、仕事をやめた2005年8月以来収入はなく、水道も止められ、市内で別居する二男のパン等のほそぼそとした差し入れによって生活していた。家賃も滞納するにいたり、同年9月末、市の水道局、住宅供給公社の職員が訪問したとき自宅内で衰弱し脱水状態となっていたIさんは、二男とともに福祉事務所を訪れ生活保護の申請意思をしめしたが、福祉事務所は二男らに援助を求め生活保護を受付しなかった。

 

ライフラインも止まったままのなか、二男の細々とした差し入れも困難となり、再度同年12月上旬に福祉事務所を訪れ生活保護の申請意思をしめしたが、このときも、福祉事務所は長男と話しあうように求め、またも生活保護を受付しなかった。

 

この事件は、北九州市が自ら設置した北九州市生活保護行政検証委員会の平成19年12月付最終報告書でも「いわゆる『入口』での不適切な対応で、『水際作戦』と呼ばれても仕方がないと言わざるを得ない」と認定されている。

 

事例2 札幌市白石区姉妹餓死事件(2012年1月遺体発見)

 

札幌市白石区に住む42歳と40歳の姉妹(妹は知的障害者)の姉が、就職活動をするも就職できなかったため、3回(2010年6月1日、2011年4月1日、2011年6月30日)にわたり福祉事務所に相談に行ったが、いずれも申請書の交付にいたらず死亡にいたった事件。

 

1回目は、求職活動中であったところ、面接員は「(姉が)仕事も決まっておらず、手持金も僅かとのことで、後日関係書類をもって再度相談したいとして、本日の申請意志はしめさず退室となった(関係書類教示済み)」として申請書交付にいたらず。

 

2回目は、「手持金が少なく、食料も少ないため、それまでの生活の相談に来た」「預貯金:1千円、ライフライン:滞納あり、国保:未加入」と記録されているにもかかわらず、保護申請にはいたらず、非常用パン14缶(7日×1食×2人)を支給。

 

3回目は、「求職活動しているが決まらず、手持金も少なくなり、生活していけない」、「……妹が体調を崩し、仕事に行けない状態になり、研修期間でやめる(給料なし)」「その後アルバイトするも続かず、現在求職中」とあるが、「保護の要件である懸命なる求職活動を伝え」「手持金も少なく、次回は関係書類をもって相談したいとのことで本日に申請意思はしめさず退室となった」と記録。

 

早期に福祉事務所側が積極的に生活保護申請をすすめ、その申請を受け付けて保護していれば二人とも亡くならずにすんだ。

 

事例3 小倉北区・申請拒否自殺事件(2011年3月29日判決)

 

北九州市小倉北区の61歳の男性Jさんが、就労を始めたことを理由に収入が保護基準以下であるにもかかわらず「辞退届」により保護が廃止となったが、その後ふたたび生活に困窮し、保護の申請をしたもの申請が受け付けられずに自殺した。

 

遺族が市を相手に慰謝料の支払いを求める国家賠償訴訟を提起した。

 

2011年3月29日福岡地裁小倉支部判決(確定)によると「生活保護申請をする者は、申請をする意思を「明確に」しめすことすらままできないことがある……。法は申請が口頭によって行われることを許容しているものと解されるし、場合によっては「申請する」という直接的な表現によらなくとも申請意思が表示され、申請意思があったと認められる場合がある」

 

「再申請の意思を口答で表明しているのに、さらに求職活動が必要とのあやまった説明をしていた」、「生活保護の実施機関は生活保護制度を利用できるかについて相談する者にたいし、その状況を把握したうえで、利用できる制度の仕組について十分な説明をし、適切な助言を行う助言・教示義務、必要に応じて保護申請の意思の確認の措置を取る申請意思確認義務、申請を援助指導する申請援助義務(助言・確認・援助義務)が存するにもかかわらず、再就職が困難である原告に就職活動を強く求め、申請意思を確認せず、保護の適用に向けた援助をせず、申請を断念させた」として、違法性を認め慰謝料の支払いを命じた。

 

 

「水際作戦」を止めるために

 

ここまで、「水際作戦」の事例を紹介してきた。

 

「水際作戦」はいずれも法的に違法であるばかりか、その方の生活や「いのち」に深刻な影響を与える非常に大きな社会的排除である。

 

ここで紹介したものは、あくまで氷山の一角だ。実際はこういった対応をされた場合に、それが違法であったり、不当であるとの認識をもてずに泣き寝入りをしてしまうことも多い。また、支援団体に相談して初めて発覚することも多い。

 

これらの「水際作戦」は、いまこの瞬間も全国のどこかで起きているかもしれない。

 

いま可決されようとしている改正案は、こういった「水際作戦」を助長させてしまうような大きな危険を孕んでいる。わたしたちが進むべき社会の方向性は、生活に困った方が制度にアクセスするのは拒んだり、排除したりする社会だろうか。個人や家族にその責を押しつけて、見ない振りをしようとする社会なのだろうか。

 

このままだと来週には改正案は参院で可決される。

 

わたしたちにできることはまだあるはずだ。「水際作戦」にNOと言いたい。生活保護法の改悪にNOと言いたい。また、その声が拡がっていくことを願っている。

 

実際に「水際作戦」にあったり、現在生活にお困りの方はぜひ相談してほしい。

 

NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい http://www.moyai.net/

 

また、以下のPDFから生活保護申請書もダウンロード可能なので、ぜひ活用してほしい。

http://moyai-files.sunnyday.jp/pdf/seiho-guide_2.0

 

来週には可決されようとするこの「改正案」について、何としてもストップさせたい。

一度失われた「いのち」は戻ってこないのだから。

 

サムネイル:Mustafa Khayat

http://www.flickr.com/photos/mustafakhayat/7319664884/

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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