あらゆる人生に関係がある物語を

誰に向かって放送するのか

 

―― 視聴者にはどのような人を想定していますか。

 

「ハートネットTV」を新番組として開発する段階で、スタッフみんなで一番議論したのは、「誰に向かって放送するのか」ということでした。それは激論に激論を重ねて。たとえば、当事者の方のセーフティーネットになるべきだという意見もありましたし、「もっと初心者向きに…」という意見もありました。

 

そして、出した結論は、当事者の方だけではなく、一般の方にも見てもらえる番組にしようということでした。やはり限られた方だけに発信するとなると、社会を変えるのは難しい。そのためには、裾野を広げ、支援者を増やすことが大事だとおもっています。

 

 

―― 当事者ではない方に見てもらうため、どのような工夫をされていますか。

 

「おっ、なにやっているんだろう」と、チャンネルを止めて見ていただけるような番組にしたいですね。セットの雰囲気も明るい感じにしましたし、当事者や専門家ではないゲストもお呼びし、親しみやすさや広がりやすさを意識するようにしています。やはり、専門家や当事者の方だけだと、難しい専門用語などが出てきたときに「それってなに?」という質問が出ないんですよね。ですので、当事者や専門家ではないゲストを入れるというのは大事なんです。

 

ですが、あまりにも理解が無さ過ぎても困りますし、たんにリアクションがよければいいというわけでもありません。やはり、共感を示せるような人間性が問われると言いますか、ゲスト選びには気を使っていますね。

 

また、裾野を広げるために、ネットの世界を意識してキャスティングすることもあります。津田大介さんや、荻上チキさん、フォロワーの多い小島慶子さんなどにレギュラーをお願いしたりと、ネットと親和性の高い方に出ていただく。最初は小島さんのファンで見ていた方も、だんだんと自分や身近な人とつながっているかもしれないとか、良い話だなとおもっていただけるといいですよね。

 

 

ネットでつながるテレビ

 

―― 「ハートネットTV」は、番組ホームページがとても充実していますよね。

 

ありがとうございます。コツコツと地道な作業なので、そう言っていただけると嬉しいですね。ネットとの連動も番組の大きな柱のひとつです。もともと「ハートネットTV」という名前になったのは、福祉番組全体のホームページの名称が「ハートネット」というものだったからなんです。

 

リニューアルの際に、放送だけではなく、ネットを通じたつながりも大切にしようとおもい、ホームページの名称の「ハートネット」に「TV」をつけて「ハートネットTV」という名前にしました。ネットTVみたいでおもしろいかなともおもって。それと、「セーフティーネット」ともかけていますね。このホームページは、番組のPRをするだけではなくて、テーマに関する情報が蓄積できるようなものでありたい。情報を求めている方が見ても役に立つように、相談先のリンクなどを充実させようと考えています。

 

また、放送内でも、ホームページとの連携を意識しています。いままでは、「ご意見、感想を募集しています」と番組の一番最後に、テロップを出すだけだったんですが、いまはそれが番組の生命線になることもありますし、当事者の声を聞く窓口としても大切にしています。

 

ブログ(http://www.nhk.or.jp/hearttv-blog)やツイッター(@nhk_heart)もやっているのですが、番組を放送する前から、いまこんな番組をつくっていて、こういうことで悩んでいて、今日の取材でこういう重要なことに気が付きました! と、視聴者のみなさんにも「並走感」を感じてもらえるような情報発信を心がけていますね。

 

ディレクターが夜中に書き込んだりすると、「こんな夜中まで、お疲れ様です。温かい飲み物でも飲んで…」と書きこんでくれる方がいたりして、たんなる情報発信を超えて、つながりを持ち始めている部分もあるとおもいます。

 

 

―― とくに、アクセスが多いコンテンツはなんでしょうか。

 

一番アクセス数が高いのが「カキコミ板」(http://www.nhk.or.jp/heart-net/voice)で、誰でも書き込める掲示板のようなものです。書き込む方だけでなく、読むだけという方もたくさんいらっしゃいます。やはり、つづけていくと、体験談の集合体ができ上がります。それって、専門書を探しても、そうそう読めるものではありません。生活などの細かいことにもわたって体験談や悩みが語られています。そこを共有することで、同じような悩みを抱えている方に、有益な情報を提供できているのではとおもいます。

 

さらに、そうしたカキコミをもとに取材をし、番組をつくることもあります。たとえば、去年一年間は「カキコミ!深層リサーチ」というシリーズをつくりました。一か月前から書き込みを集めて、それをもとに番組をつくっていく。カキコミ板をもとに番組をつくると、ページビューも上がって、WEB上も盛りあがっていきました。もっとウェブを視聴者参加のツールとして活用して、大々的な取り組みをしている番組もありますが、福祉の番組なんで、そういう声に真正面からきちんと向き合い、大切にすべきと考えています。「正直を旨とし」というか。そう言うと、なんだか固いですが(笑)。

 

 

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―― 今後、ネットでやってみたいことなどはありますか。

 

発信しているわれわれと、視聴者のみなさんとのつながりだけでなく、今度は、視聴者の方同士のつながりがもっと増えていけばいいなとおもっています。横のつながりが増えて、面になっていったらおもしろいですよね。

 

また、番組をつくっていく上でも、もっと大胆にネットの反応を組みこんでいけたらとおもっています。4月末には、「送りっ放しにしない放送」をコンセプトに、トライアルで「ハートnet Beyond」という企画をやりました。Twitterなどで盛り上がった番組をもう一度取り上げ、深掘りするというものです。番組を丸ごと動画配信して、WEB経由で評判を聞いた人が後から見られる仕組みもつくりました。

 

たとえば、「大学生の発達障害」という番組で、ゲストの専門家が番組の最後に「とにかくつながって下さい」と。これに対して「周りとうまくつながれないから発達障害なんだ!」という声が次々寄せられました。普通の番組だと「うまく意図が伝わらなかったね」で終わりなんですが、そこを徹底検証し、ゲストの意図はなにだったのか?「伝えられなかった」ことはなにかを考えました。

 

また、清掃員画家・ガタロさんという方を取材した回では、Twitterで「ガタロさんはルオー(フランスの画家)だ」と盛り上がった。わたしたちが想定していたのと違うところで盛り上がることもあるわけで、それを生かしていく番組づくりをおもしろがってやっていきたいと考えています。

 

 

―― 最後に、読者の方にメッセージを。

 

とにかく、番組やホームページを一回見ていただきたいですね。「もしかして、自分や周囲の人の問題かもしれない……」と関心を持っていただけたら、なにか役にたてることはあるとおもいます。わたしたちは、本気でネットと向きあう福祉番組というのを標榜しているんです。地味なんですけど(笑)。でも、当事者とどうつながっていくのか、どうやって情報をだしていくのかということに関しては日本のどのテレビ番組よりも本気です。

 

視聴者の方に伝えたいのは、みなさんの声は無駄にならないということです。みんなが勇気を出して伝えて下さったことやそのアクションは、いつか社会をかたちづくっていくということをわたしたちは信じています。すぐには変わらないかもしれないけど、それが積み重なって大きな声となって発信されることで、他の方を勇気づけたり、行政関係者が制度を変えていこうと動き出すきっかけになるとおもうんです。

 

いまの時代って、行政やお上がなにかをしてくれることを望むというのがすごく難しい。そのなかで、自分たちが社会や地域をどう変えていけるのか、その行動が問われる時代になってきています。ハートネットTVもできることをやっていきたいですね。

 

 

●ハートネットTV

Eテレにて毎週月曜から木曜の午後8時~8時29分に放送中。再放送は翌週午後1時5分~1時34分。

ホームページ:「NHK福祉ポータル ハートネット」(http://nhk.jp/heart-net

 

 

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