参議院選挙を障害者政策の観点から考える ―― 各党の選挙公約をもとに

各政党の公約を概観してわかること

 

さて、以上のように概観してみると、障害者政策については、政党によってその力点の置き方にかなりの差があることがわかる。同じ与党であっても、公明党は、その公約で障害者基礎年金の拡充を明記しており、障害者の所得保障に力点を置き、インクルーシブ教育システムの構築を促進した上で権利条約の批准を推進するとしている。

 

一方自民党は具体的な障害者政策に関する記述はほとんどなく、持続可能な社会保障制度の確立の下、差別解消法の具体的推進、就労支援の充実を進めるとしており、おそらく年金制度のあり方、とくに障害者基礎年金の拡充に関しては、公明党とは大きく異なる政策方針であろう。

 

野党各党も、障害者に関して、公約全体においてまったく記述のない維新の会から、重要政策に位置付け、障害者福祉、医療制度の改正点を詳細に記述している共産党まで、障害者制度への取り組み姿勢には大きな温度差がみられる。

 

ここでは民主党の公約に着目したい。2009年の政権交代時点での公約では、明確に「障害者自立支援法を廃止して、障害者福祉制度を抜本的に見直す」とし、目標には「障がい者が当たり前に地域で暮らし、地域の一員としてともに生活できる社会をつくる」と掲げ、具体策として「制度の谷間がなく、サービス利用者負担を応能負担とする障がい者総合福祉法(仮称)を制定する」「わが国の障がい者施策を総合的かつ集中的に改革し、国連障害者権利条約の批准に必要な国内法の整備を行うために、内閣に障がい者制度改革推進本部を設置する」と明記し、そこに必要な予算として400億円程度を計上するとした。

 

この公約により、障害者制度改革推進本部を置き、その下に障害当事者やその家族が半数以上を占める推進会議(現在は障害者政策委員会となっている)を設置し、その議論が手話や字幕付き動画で中継され可視化されたことなどは、結果として公約実現という点で評価の低い民主党政権においては、特筆すべきことであった。

 

それが今回再び野党となった民主党の公約では、どうなったか。障害者制度改革において、与党時代に頓挫した課題を明らかにし、新たに公約に盛り込み再度挑戦する姿勢は、残念ながらみることができない。むしろ抽象的、理念的な記述にとどまり、民主党として今後障害者福祉制度の何に力を入れようとするのかはみえづらい。

 

このことは、与党の自民党にも言える。前回の参議院選挙の公約では、障害者施策については1項目を割き、具体的な障害者施策の改正点を挙げており、「障害者の所得保障を図るため、障害基礎年金を充実します」ということも明記されていた。しかし今回、政権与党としての公約では、かなり抽象的な理念的な表現にトーンダウンし、持続可能な社会保障の枠組み、すなわち自助、共助、公助のバランスによりそれを再構築していくなかで、障害者政策も同様なバランスにおいて検討していくことが打ち出されているようにもみえる。

 

 

自民党の日本障害者協議会アンケートへの回答

 

ところでここで注目したいのは、JD(日本障害者協議会:障害者関係団体の全国組織である)が今回の選挙にむけて、上記政党に向けて行ったアンケート結果である。http://www.jdnet.gr.jp/report/13_07/all2.pdf

 

これをみると、自民党は、JD側からの今後の制度改革にむけての具体的な質問項目に一切答えていない。アンケートの最後に「これまでと同様、関係の皆さまとともに検討を進めてまいりたいと考えております」というコメントとともに、総合政策集(Jファイル)に記された障害者施策の推進内容を記載しているのみである。

 

この記載も、これまでの障害者制度改革における自民党の成果について記されたものであり、新たな具体的な取り組みについてはほとんど触れられていない。少なくともほかの7政党(アンケートそのものに未回答の維新の会は除く)がそれぞれの項目について党の方針を明記しているのと比較すると、その制度改革に対する消極的な姿勢はかなり際だつものがある。

 

自民党は、政権を担う政党として、社会保障全体、とくに「限られた財源」「少子高齢社会」のなかで、障害者政策を検討せざるをえないという視点に立ち、その公約のトーンを低くしているのかもしれない。しかし、この国の障害者政策は、右肩上がりの経済成長の時代においても、重点的に取り組まれてきた歴史的事実はない。

 

障害児の義務教育全就学が形の上で保障されたのは1979年のことであるし、障害基礎年金が20歳前に受障した人にも支給されることとなったのは、ようやく1985年からである。また、在宅介護等の在宅福祉サービスが、国の義務的経費として制度化されたのは自立支援法以後(2006年)である。障害者が地域で当たり前に暮らす社会の実現ということでいえば、その取り組みがはじまって、いまだ半世紀もたっていない状況であり、それは他国と比較するまでもなく、戦後、障害の無い日本国民が受けてきた生活保障と比較して、障害者がこの国でどのような位置づけに置かれてきたかを物語っている。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.273 

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