参議院選挙を障害者政策の観点から考える ―― 各党の選挙公約をもとに

共生社会の実現のために必要なこと

 

障害の有無を超えて共に生きる社会の実現はそう簡単なことではない。我々は障害の無いことを前提としたハード、ソフトの社会システムに生きている。自立しているといっても、健常者は社会的支援をまったく受けないで生きているわけではない。交通機関、公共建築物、公共サービス等のとどまらず、無数の支援を享受して、生活を成り立たせていることにほかならない。

 

しかし障害のある人は、健常者を想定したそのような支援方法では生活が成り立たない人たちである。公共交通機関を使うにはさまざまな困難があるし、職場でも障害に応じた配慮が無ければ働くことは難しい。また生まれたときからずっと排泄や食事などの身の回りの動作すべてに支援が必要な人は、そのことに対する社会的な支援システムがなければ地域で生きていくことすらできない。

 

障害者の権利を保障する公的制度を整備していくことは、共生社会のもっとも基本的な政策課題である。だからこそ、参議院解散直前、ほとんど成立が困難と言われた「障害者差別解消法」の国会通過を目指して、多くの障害者団体が、政党を超えて国会議員たちに粘り強く働きかけ、また地域ごとに法律の成立をアピールする活動を活発に展開し、地方議員から政党への働きかけを喚起するなどのロビー活動を行い、共生社会実現の一歩となる「障害者差別解消法」の成立にこぎつけたのだ。そのことをどれほどの「健常者」が知っているだろうか。

 

私自身は、2010年から障害者制度改革推進会議の下にある障害者総合福祉部会の委員の一人として、障害者自立支援法に代わる新しい障害者総合福祉法の内容について1年半にわたり議論し、骨格提言として提言するプロセスに関わった。

 

障害のある人、その家族といっても、それぞれの障害の種別、立場によってその主張は多様であり、個別に政策課題をあげていくと、その具体的な内容は必ずしも一致しない部分も多かった。しかし、障害のある人が、地域社会で障害の無い人と同様に暮らし続けられる社会を実現すること、そのための地域支援システムの整備が必要であることについては一致していた。

 

しかし1日24時間の介護時間が必要な人への国庫補助の保障はいまだ実現をみていない。国庫負担上限以上に支給時間が必要な人は、後は自治体の上乗せや(つまり自治体格差が大きい)、家族介護で対応するしかない状況は続いている。

 

ところで自立支援法施行以前から、障害者の自立生活運動では、重度の身体障害のために日常生活全般に介助が必要な人たちが、家族介護から独立して、地域で社会的な介助を受けながらの暮らしをスタートする際に、自治体独自の障害者介助制度が整備されていない地域では、最後の砦としてきたのが生活保護の他人介助料制度であった。

 

障害のある仲間たちが、親御さんに「成人した障害者については、もうあなたたちの責任は果たしたのだから、生活保護を受けて彼が地域で暮らしをスタートさせることについて認めてほしい」という説得をし、その結果、地域で一人暮らしを始める障害者たちが増えていった歴史がある。そうして自立した障害者たちが、それぞれの地域で仲間を支える当事者活動を展開したことで、各地の介助保障制度など、障害者の地域生活支援が生まれていったことも事実である。

 

しかし現在、生活保護の扶養義務の強化が叫ばれるなか、障害者の地域生活を支える最後の砦も危うい状況にある。さらに与党である自民党の憲法改正案では、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は互いに助け合わなければならない」と家族単位の相互扶助を明記している。

 

家族介護をこえて、一人の成人として社会参加するために、この半世紀以上、障害当事者が主張してきた「自立」生活の基盤が大きく揺らぐような事態が迫っているようにもみえる。障害者の親は一生、障害者の親として生き、成人した障害のある子を支え続けなければならないとしたら、将来この国では、希望を持って子どもを産み育てることができるだろうか。

 

 

「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱くもろい社会である」

 

 

これは、1979 年の国際障害者年行動計画の一文である。障害のある人のみに関わらず、マイノリティーと言われるすべての人に対して、いまこの国はこういった社会に向かってはいないだろうか。本当に強い社会とは何か、有権者の一人ひとりが、この国のあり方について、選挙を通して向き合うことが求められているように思う。

 

サムネイル:「Tybee Twilight」Poppet Maulding

http://www.flickr.com/photos/charmedhour/5757160434/

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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