「新しい認知症ケア」の時代と労働・仕事・活動――認知症ケアの現在地点とその先

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3.「新しい認知症ケア」の時代

 

以上のように、認知症ケアが高齢者介護の中心的課題となってくることとは、コミュニケーションそのものがケアの意味を持つことが認知されるようになってきたことと等しい。このような大まかな流れの延長上に「現在」の認知症ケアがあるが、そうしたコミュニケーションとしてのケアが、2000年代に入った後、どのような文脈に置かれているのか、以下で確認してみよう。

 

 

(1)「地域」を舞台とした認知症ケア

 

コミュニケーションとしてのケアは、最初は施設の小規模化やグループホーム実践として論じられてきたが、2000年代に入って強調されてきているのは「地域」でのケアである。

 

2005年度における介護保険制度の一度目の改定の方向性を示した青写真である『2015年の高齢者介護』(高齢者介護研究会2003)という報告書で、介護政策の方向性として「寝たきりモデル」から「痴呆ケアモデル」への転換が強調された。

 

その「痴呆ケアモデル」に対応するのが「在宅」とも「施設」とも異なる「地域密着型」と呼ばれるサービス群であった。そこで示された象徴的なサービスモデルが、以前から草の根的に生まれてきた宅老所をモデルとした小規模多機能型居宅介護である。これは、通い、泊まり、訪問という在宅サービスすべての提供、居住する地域の事業所へ登録制という形をとるサービスで、認知症の人の生活全体を「面」で支えることを企図している。

 

この小規模多機能型に典型的に示される「地域密着型」とは、いわば在宅と施設との「あいだ」の拡充を目指した発想である。介護保険制度開始前後までにイメージされていた、自宅で高齢者自身がホームヘルプサービスなどを組み合わせて利用して生活する「自立支援」よりも、グループホームやデイサービスなど、共同で生活や時間を過ごす場の「効果」に注目が集まる。とくに「通い」は宅老所の中核的な機能であり、介護保険制度の在宅サービスとしても以前からデイサービスとして一般的に利用されてきた。そのサービスは、家族の介護負担の軽減だけでなく、介護を受ける者の生活を、自宅や施設で完結させるのではなく、他のさまざまな利用者などもいる場を含めて作っていくという意味も持っている。

 

フォーマルな介護サービス内においてはこうした「通い」を中心とした場が、「地域」として認知症ケアの「舞台」と位置付けられていく。そこにおけるコミュニケーション労働は、限られた空間や人の間で完結しがちな特別養護老人ホームや、家族の生活に一時点的に入って、その家族の生活時間に合わせて手助けをするホームヘルパーとは異なった状況で行われる。自分の「住まい」や、主たる介護家族といういわば私的領域を生活の中心に既に持つ「利用者」に対して、別の場所で日中6~7時間ともに過ごすことを中心とした仕事となるのである。また、その場は、他利用者を含め多くの人がかかわりを持つ場ともなり、利用者だけでなく、利用者の背後にいる家族などについても意識をしてケアを行うことも重要になってくる。

 

 

(2)「早期対応」という志向

 

また、「早期発見・早期対応」という予防的な発想の強まりにも注目する必要がある。医療において「予防」は、疾患の状態が悪化しないようにあらかじめ介入を行うことを意味している。65歳以上の健康診断における「特定高齢者」の割り出しと運動療法的な活動を中心とした介護予防事業に見られるように、高齢者介護全般において「予防」の発想が強まってきているが、認知症ケアでも例外ではない。むしろ脳の疾患であるため「医療」が深く関わりながら、そうした発想がケアの中に入ってくることになる。

 

これまでの認知症介護は、重度認知症の人の「問題行動」に周囲がいかに対処するか、本人の安全をいかに守るかなどを中心課題としたものだった。「医療」はこれまでも関与してきたが、その「医療」とは、主には、もう回復しようがないことを前提にした精神科病院への入院対応などであり、誤解を恐れずに言えば「放置」的なものであった。

 

それまでの「なってしまったら終わり」というイメージに対して、主流の医療から外れた介護などの現場で、環境の整備、コミュニケーションの改善などで、何らかの「効果」が見込めることが示されてきた。また、先に述べたように、医療の枠組みの中で、認知症の「中核症状」と「周辺症状(行動障害)」という区分が示され、適切な対応で後者を和らげられることが一般的な認識となってきた。そうした流れの先に、進行を遅らせる薬の使用や、薬を適切に使用して認知症の状態をうまくコントロールして生活を送っていくことを目指すような志向が現われてきている。場合によっては、本人に自覚がある内に「診断」を受け、その後「重度になること」を意識し、その進行と向き合っていく「療養」がなされるようになってきている。

 

このように、「進行」「変化」という時間の流れを示す概念が認知症の人への介護に現れることで、認知症の「軽度」段階から先を見越してケアを行うことの重要性が強調されるようになってきた。軽中度の段階から認知症について気にし、その進行を「予防」的に見越し関わっていくようなデイサービスが生まれたり、「進行」に何らかの影響を与える「効果」を既存のデイサービスが期待されるようになっていく。このような雰囲気の中で、認知症の人が利用者としてデイサービスなどの「地域」に現れ、そこでコミュニケーションを重視したケアが展開されていくことになるのである。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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