枠組み外しの旅 ―― 「個性化」が変える福祉社会 

常識を問い直す

 

ぼくが関わってきた障害者福祉の領域でも、実際に何かを変えたのは、世間の常識に抗して枠組みを外し、自らの使命を追求する形で個性化を果たした人々だった。

 

たとえば「ノーマライゼーションの原理」を産みだし、入所施設中心主義の論理を木っ端みじんに打ち砕いたスウェーデン人のベンクト・ニィリエ。彼は、入所施設で障害者を支援することが最高のやり方だ、とされた1960年代から、入所施設が難民収容所と構造的類同性を持っていること、社会から離れた場に隔離収容することが「アブノーマル」であることに気づき始めた。そして、当時の常識に反して、「地域の中で他の人の暮らしと同じような生活環境を整えることこそが支援である」というノーマライゼーションの原理を提唱した。

これは、この当時の「常識」と大きく異なるものであり、その価値観が受け入れられず、自らも関わったスウェーデンでの改革から結果的に追い出される憂き目にもあった。だが、彼の「個性化」の結晶としてのノーマライゼーションの原理は、その後、入所施設中心主義から地域生活支援へのパラダイムシフトをもたらす理論として世界中に伝播し、スウェーデンでの制度改革にも用いられることになった。

 

あるいは入所施設から飛び出し、健常者中心主義の抑圧性を鋭く追求した、我が国の「青い芝の会」の重度障害者たち。1970年代、重度の障害を持つ子どもの母親が、子どもと無理心中をする事件が多発し、その際、母親の減刑を求める嘆願書や署名活動が広まった。その動きに対して、地域で暮らす重度障害者の当事者組織は、「母よ!殺すな」のメッセージと共に、「減刑反対運動」を繰り広げた。

いくら国の支援体制の不十分さが理由であったとしても、「障害児殺し」が減刑・無罪にされるということは、「障害のある人の価値は低い」と社会が認めることになる。このような健常者中心の考え方、つまりは「かわいそうな障害者に恵んであげる」という支配-被支配の関係に強烈な異議申し立てをし、重度障害を持っている人も、人間として同じ価値がある、ということを強く訴えた。この訴えや運動の中から、障害者の地域自立生活支援の実態が作り上げられてきた。

 

 

「学びの渦」から生まれる創発

 

国を越え、時代を超え、現場から社会を変えてきた人々に共通するのは、管理・支配的な「反-対話」の論理そのものへの異議申し立てであり、「枠組み外し」だった。利用者の声との「対話」を求める論理とは、現在の支援の論理から見れば至極当たり前の、でもその当時の常識からはずいぶんとかけ離れた、非常識・あるいは「反社会的」とさえ言われかねない問いであった。だが、このような個々人の実存に直結する問いの中からこそ、「反-対話」の枠組みを外す論理が生まれてきた。個々人が抱いてしまった使命を、文字通り命がけで追求するという「個性化」が、結果的に社会を変える原動力につながった。そこには、その問いを抱えた個人の変革が、社会を変える前に存在していた。

 

ぼくの本が追いかけ、整理してきたことは、この枠組み外しの論理を明らかにし、その方法論を、先達の実践の分析から導き出す、ということであった。それは「学びの渦」というキーワードとして導かれた。何かがおかしい、と感じた個人が、自らや社会を覆う常識という名の「枠組み」へも疑問を抱き、その枠組みを外す学習プロセスに身を置き始める。その学びは、自らの抱いた使命を徹底的に追求する、という意味での「個性化」に至るプロセスであり、その中から「学びの渦」が産まれる。やがてその渦に共鳴する仲間が生まれ、そこから渦が社会化し始める。

その渦が少しずつ拡大するなかで、「どうせ」「しかたない」とされていた現実の強固な岩盤が、地すべり的に崩落し始め、やがて別の可能世界が開き始める。このプロセスを、福祉現場のリアリティに基づき、描いてきた。そして、書き終わってみると、これは福祉に限定しない、まちづくりや教育、環境保護など様々な社会的課題に対しても応用可能な「渦」なのではないか、と予感している。

 

ぼく自身は、自分も知らなかったこと、思いも寄らなかったことが、本の執筆を通じて産まれてきたので、ワクワクしながら本を書き続けた。そして今、このワクワクが、読者である「あなた」に届けばもっと嬉しい、と感じている。よろしければ、あなた自身の「枠組み外しの旅」に、この本と共に、漕ぎ出して頂ければ幸いである。

 

*この本の「はじめに」と「目次」は、ぼくのブログでも公開しています。ご関心のある方は、そちらもご覧下さい。

 

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

 

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.3.15 

・中西啓喜「学力格差と家庭背景」
・竹端寛「対話を実りあるものにするために」
・佐々木葉月「日本のテロ対策の展開」

・小野寺研太「「市民」再考――小田実にみる「市民」の哲学」
・久保田さゆり「学びなおしの5冊〈動物〉」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(5)――設立準備期、郵政民営化選挙前」
・山本宏樹「これからの校則の話をしよう」