的外れな無年金・低年金対策――貧困を防止するのか、保険原理を固持するのか

最近の年金制度改革のなかで、新たな2つの低年金・無年金対策(2015年9月末までの期間限定の保険料後納期間を10年に延長する措置、年金を受給するための加入期間を25年から10年に短縮)がつくられた。

 

しかし受給期間の短縮措置によって必要となる新たな支出は、消費税増税分を財源とすることになっている。つまり2015年10月に消費税が10%に引き上げられなければ、短縮措置は取られることがない。そのため無年金者は、無年金を脱するために、消費税が10%に引き上げられることに運命を賭けて、2015年9月末まで保険料を後納することができるものの、もし同年10月に消費税増税が実現しなければ、後納した保険料はまったくの無駄になるというリスクを負わなければならない。こうした問題点については、すでに前稿でより詳細に述べた[*1]。

 

[*1] 年金制度改革から生まれた低年金・無年金者の「ばくち」

 

このようなとんでもない事態が引き起こされているのは、2つの制度改正が相互に無関係につくられてしまったためだ。この、連続性・整合性に欠ける無計画な2つの政策が進行しつつある事体は、いかに年金制度改革の中で無年金・低年金対策が重要視されていないかを示している。

 

こうした事態を収拾し、実効性のある無年金者対策とするためには、時限措置付きで実施された保険料後納期間の延長を3年間に限定せずに一定期間継続し、あわせて、消費税の増税を前提とせずに加入期間の短縮を実施すべきだ。このままでは、2015年10月から年金を受給するための加入期間が10年に短縮されるかもしれないのに、後納期間の延長措置はその1日前に終了してしまう。

 

以上が前稿で指摘したことだが、本稿では、基礎年金の国庫負担引き上げと年金加算という方法での無年金・低年金対策をみていきたい。

 

 

基礎年金の国庫負担分引き上げ

 

高齢化が進むなかで抑制基調にあるといえども、ある程度の年金は受け取りたい、というのであれば、保険料を引き上げて年金全体の収入を増やす方法がある。あるいは、年金給付の財源として税金を投入したり、税金の割合を高めることによって給付水準を改善する方法もあり得る。

 

先の社会保障・税一体改革では、消費税の増税分(5%から8%)を財源にして、基礎年金の国庫負担分を年金給付の3分の1から2分の1に引き上げることが決まった。基礎年金の給付水準を維持すると同時に、これ以上保険料が上がりすぎないようにしたい、というねらいだ。

 

公的年金制度の財源として、保険料だけでなく税金をどう使うかの議論は今に始まった事ではない。過去にさかのぼっておさらいしておこう。

 

1985年に基礎年金制度が創設される以前は、国民年金、厚生年金、共済年金それぞれに、異なる割合で税金が入っていた。かつて国民年金、厚生年金、共済年金がそれぞれ分立していたものを、85年改正では、共通の土台をもつ制度に統合した。全ての人が国民年金に入り、基礎年金を受給する、現在の仕組みだ。

 

老齢基礎年金の3分の1に固定された税金の投入分について、もっと多くを税財源で、という主張は各方面から根強くあった。高齢化が進展するなかで、給付水準を維持するために何か手段を講じねばならないが、保険料の引き上げは人気がない。保険料を支払っている市民のみならず、企業側からも歓迎されない。企業は労働者の保険料の半分を負担しているから、保険料率が上がればその分企業側の負担も上昇するためだ。そこで、税金の割合を高めれば、保険料の上昇は抑えることができる。国庫負担の引き上げは企業側も歓迎してきた政策手段であった。

 

国庫負担の3分の1から2分の1への引き上げは、2000年改革で約束された。ただし、2004年までに安定財源を確保することが条件だった。2004年以降、2分の1に向けて段階的に引き上げが開始したものの、必要な財源は臨時的なものでなんとかまかなうという不安定な状態にあった。それが2012年の社会保障・税一体改革では、消費税を8%に上げることで得られる税収を恒久的な財源にすることとし、財源論に決着がつく形となった。

 

このように、基礎年金の国庫負担の引き上げは、保険料の上昇を抑制するための方策であったが、同時に重要なのは、これが、保険料免除者の年金額の引き上げにもつながるということだ。

 

第1号被保険者については、所得が低い場合には保険料が免除される仕組みがあることは前稿でも述べた。将来年金を受給する際に、この保険料免除期間に関する国庫負担分については年金額に反映される。そのため、国庫負担が3分の1から2分の1に引き上げられることで、免除期間に関して保障される年金額も増加することになる。その意味で、国庫負担の引き上げは低年金者対策の効果も持っている。

 

 

 

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