限られた財源で、多様な子育て支援を展開するには――時間・貧困・自由選択

2014年4月から消費税が8%になった。また、最終的な判断は下されていないが、2015年10月から消費税が10%に引き上げられる予定となっている。消費税増税は歳入の増加につながる一方で、消費税増収分から7,000億円は「子ども・子育て支援新制度」に充てられることになる。

 

民主党政権下で制度設計され、政権交代後も継続された「子ども・子育て支援新制度」は、小規模保育を含めた施設サービスへの給付や幼保一体化を目指した認定こども園制度の改善、社会全体による費用負担などを図るものである。2015年度から本格的に開始される予定であるが、一部は「待機児童解消加速化プラン」として2013年度から前倒しで実施されている。

 

今年度予算での「量的拡充」と「質の改善」は2014年3月28日に開催された子ども・子育て会議[*1]によって示されている。資料によれば、「量的拡大」は各市町村で見込みの算出作業中である一方で、「質の改善」は保育士等の処遇改善や小規模保育の先行実施、「小一の壁」を解消するための放課後児童クラブ事業への追加費用などが計上されている。

 

[*1] 子ども子育て会議(第14回)、子ども・子育て会議基準検討部会(第18回)合同会議、資料1「子ども・子育て支援新制度における「量的拡充」と「質の改善」について」

 

以上の子育て支援はすべての保育ニーズを充足するものではないものの、小規模保育所や家庭的保育事業(保育ママ)などのサービス給付を拡充していくための施策として位置づけられる。計画通りに進展すれば子どもを育てながら働き続ける環境の改善へと少しずつつながっていくだろう。

 

一方で、他の先進国の取り組みをみてみると、子どもを産み育てやすい環境の整備にサービス給付の拡充以外の手法が採用されていることがわかる。そのなかには、ワーク・ライフ・バランス(仕事と家族の調和)を促進するための施策や子どもの貧困に対処するための施策、現金給付によってサービス給付を支える施策など、時間・貧困・養育方法の多様性に対応するための幅広い子育て支援の展開がみられる。

 

ここでは、保育所などのサービス給付の拡充が今後の子育て支援のために重要であることを前提に、他の手段として時間や貧困、養育方法の多様性に対応するための子育て支援が他の先進国で行われていることを概観する。また、日本において多様な子育て支援を展開していくためには現在の財政状況に見合った合意や妥協を行っていく必要があることも指摘する。そして、フランスの「自由選択」による合意や妥協の事例から多様な子育て支援に向けた条件を考えたい。

 

 

子育て支援へ参加する時間

 

働きながら子どもを育てることを希望する人にとって、働いている時間に子どもを預けることができるサービス給付に加えて、子どもと一緒に過ごす時間の確保が重要な課題となるだろう。

 

こうした時間の確保に関して、ドイツでは「時間主権」の議論が出ている。労働時間の柔軟化というと企業の都合で進む印象があるかもしれない。しかし、ここでの「時間主権」は、労働時間だけではない自由な時間を配分できるよう労働者自らが時間の利用に対する決定権をもつことを意味する。

 

この「時間主権」を実現するために「労働時間口座」が一定の役割を果たした。1980年代、労働協約によって労働時間が厳しく決められている状況にあるなかで、企業が労働時間を柔軟に運用できるよう労働者が多く働いた労働時間を貯蓄する「労働時間口座」を導入した。ドイツ政府は1998年に「可動労働時間」キャンペーンで労働時間の大胆な自由化・柔軟化を推奨し、労働時間を長期的に貯蓄できるようにすることで、数年かけて貯蓄された労働時間を有給の長期休暇として振り分けることを可能にしていった[*2]。

 

[*2] 田中洋子 2006 「労働と時間を再編成する―ドイツにおける雇用労働相対化の試み」『思想』No.983、pp.108-109。

 

ドイツの事例は労働協約や労働時間規制のなかで企業側と労働者側の双方が合意し、労働時間を柔軟に運用することで自由時間を増やす試みであった。そのため、必ずしも子育て支援にのみ適用される施策ではなく、職業訓練や介護休業にも割り振ることができる。

 

「時間主権」の議論は家族政策において重要である。2012年に出された家族政策の方向性を提言する報告書(連邦政府第8家族報告書)はタイトルが「家族のための時間」となっており、時間主権の強化や多様な時間帯の調整、父母間や世代間での時間の分かち合い、よりよい時間管理のための両親への助言が家族時間政策の対象として掲げられた[*3]。

 

[*3] 倉田賀世 2013 「日本のワーク・ライフ・バランス施策に関する一考察―ドイツ法との比較法的見地から」本澤巳代子・ウタ、マイヤー=グレーヴェ編『家族のための総合政策III―家族と職業の両立』信山社、pp.62-65。

 

オランダでは「ライフサイクル規定」と呼ばれる長期休暇制度が2006年に施行された。これは、労働者が賃金の一部を金融機関に開設した特別口座に貯蓄し、無給の長期休暇を取得した際にその貯蓄の積立金から休暇中の生活費として払い戻しを受ける制度であった[*4]。ドイツと同様に休暇の目的は限定されていないが、オランダの育児休業が無給の制度であったため、ライフサイクル規定が実質的な育児休業給付としても利用できるようになった[*5]。

 

[*4] 水島治郎 2011 「ワーク・ライフ・バランス―「健康で豊かな生活のための時間」を目指して」齋藤純一・宮本太郎・近藤康史編『社会保障と福祉国家のゆくえ』ナカニシヤ出版、pp.196-200。

 

[*5] 権丈英子 2011 「オランダにおけるワーク・ライフ・バランス―労働時間と就業場所の柔軟性が高い社会」RIETI Discussion Paper Series 11-J-030、pp.20-21。

 

もちろん、子育てへの参加時間を確保するのであれば育児休業給付があるし、両配偶者の子育てへの参加機会を高めるものとしてドイツやスウェーデン、ノルウェーなどで実施されている「パパ・クオータ」が挙げられる。日本でも2009年から父母両方による育児休業の取得を支援するために「パパママ育休プラス制度」を創設した。日本では育児休業期間が原則で1年間となっているが、「パパママ育休プラス制度」を利用することによって育児休業期間が育児休業の対象となる子の年齢が原則1歳2ヶ月までに延長可能になっている。

 

ドイツやオランダで実施される超過労働時間の貯蓄という考え方は、育児休業給付期間を超えても子育てへの参加機会を高めるものとして評価でき、育児休業と両方で活用できれば多様な子育て支援の時間確保につながるだろう。ただし、労働時間の柔軟化は雇用環境の悪化につながる可能性もあるため、労働時間規制などとともに進めなければ子育て支援につながる施策にならず注意が必要である。

 

 

 

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