日本が学べるアメリカ就労支援の創意と工夫

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アメリカの訪問調査で浮かび上がってきた日米の相違

 

アメリカの労使関係を専門とする山崎憲氏(労働政策研究・研修機構)をヘッドに、私たちはここ数年、アメリカのさまざまな労働組織を訪問してきた。繰り返し訪れているところもあり、延べで計算すれば優に50箇所を超すだろう。ここでいう「労働組織」は、労働組合だけを指すのではない。移民の権利擁護を中心に職業英語教育を実施しているNPOもあれば、地域の中小企業を組織化し、近隣の技術高校とインターンシップを続けている団体もある。コミュニティ・レストランを起こし、安くて速いが何が入っているか分からないファーストフードにかわって、安全で健康的な料理を提供し、同時にそこで職業訓練を行ない、雇用を増やし、都市農家の起業を促し、サプライチェーンを拡大しているNPOもある(遠藤・筒井・山崎2012;労働政策研究・研修機構2014)。

 

このような多彩な組織とその活動を調査してきたなかで「こういうところは日本とだいぶん違う」と思えたことがいくつかある。4点挙げよう。

 

第1に、就労支援対象者の受け皿となる労働組織の多様性である。多様なのは、最初は移民や貧困層などの生活支援をしていたのが、徐々に就労支援にも従事するようになった組織が少なくないからであろう。たとえば、ミシガン州東南部(デトロイト近郊)で就労支援事業を受託するACCESS(Arab Community Center for Economic and Social Services)は、1971年に設立され、住民のための通訳や翻訳、役所への帯同、医療支援、大気汚染反対運動など行なってきたが、1993年、就労支援事業に参入している(労働政策研究・研修機構2014)。

 

第2に、オーガナイザーの時間をかけた育成が、社会的になされている。オーガナイザーとは、事業やプロジェクトのまとめ役で、リーダーたちを育てていくのも、その最重要任務のひとつだ(だから、日本的な「オルグ」をイメージすると、実像を捉え損なうかもしれない)。オーガナイザーの育成は、彼/彼女がどこかの労働組織に入ってから、OJTやOff-JTなどによって始まるのではない。行政学部のNPO学科やロースクール、社会福祉学部や神学部などでは、比較的長期のインターンシップが必修単位であったりする。つまり高等教育機関が、オーガナイザーの人材育成・人材輩出という社会的機能を担っており、そのことが社会の共通認識となっている(遠藤・筒井・山崎2012)。

 

第3に、就労支援従事者の職能団体が存在し、アドヴォカシー(政策制度要求)を展開している。この団体はNAWDP(National Association for Workforce Development Professionals)というNPOであり(「ノードゥプ」と発音)、CWDP(認定労働力開発専門職)という資格認定証を発行している。資格認定だけなら、日本にもCDAなど類似の組織が存在するが、NAWDPは、就労支援予算を維持し増額するよう、連邦・州・ローカルの各レベルでアドヴォカシーを行なっている。なぜなら就労支援予算は、就労支援従事者の雇用と賃金に直結しているからである。因みに就労支援従事者の年収は、40,000~45,000ドル程度にすぎず、しかも1~3年程度の時限付事業で雇用されている。つまり、不安定な人びとが不安定な人びとを支援している。この点は日本でも同じだ(筒井2014)。

 

第4に、労働組合が、組合員以外の仕事と暮らしをも守ろうとするスタンスを強めてきた。たとえば、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)ミシガン州支部は、M-HRDIというNPOを設立し、州内の失業者・無業者に雇用・職業訓練を提供している。またAFL-CIO は、2013年9月の全国大会で、「団体交渉を基軸としない」とする方針転換を行なった。派遣や請負など、細切れ雇用あるいは雇われない働き方が増加し、労働組合組織率は低下の一途をたどるばかりである。だから、労働組合に入らない・入れない、だがれっきとして働いて(失業して)いる人びとに門戸を広げる、という歴史的な決断を下した。AFL-CIOの地域単位組織が中心となって、地域のさまざまな労働組織とともに活動していく、という方針決定を行なったのである(労働政策研究・研修機構2014)。

 

 

おわりに

 

多様な労働組織の参入。高等教育を中心としたオーガナイザーの社会的育成。政策制度要求を展開する、就労支援従事者の職能団体の存在。労働組合のナショナルセンターが強めてきた、組合員以外の仕事と暮らしをも守ろうとするスタンス。前節で確認したこれら4点は、そのいずれも、日本ではまだまだ小さな存在や動きにすぎない。

 

就労支援政策の具体的実施内容がより良きものになるのかどうか。それは、労働組合や大学・大学院なども含めたさまざまな社会組織が、如何にして欠けている点を直視し、互いに補い合えるのか、また、必要だが後手にまわったままの物事や仕組みに、如何にして着手できるのかが左右するだろう。実は、こうした芽吹きは見られるのである。

 

たとえば、日本労働組合総連合会(連合)と法政大学大学院は、2015年4月より、新たな修士課程プログラムを開始する。このプログラムは、労働組合、協同組合、NPO、社会的企業など、公益を追求する非営利組織やサードセクターの形成・発展を担う創造的な人材を育成するとともに、専門的能力の高度化をはかることを目的としている[*4]。またたとえば、今年の1月には、「コミュニティオーガナイジングジャパン」(NPO法人申請中)が発足した。「……NPO業界の声を政策に反映させよう、生活困難に直面している人のくらしを改善しよう」といった目標の実現には、志をともにして行動する多くの仲間を得て、その仲間の力を使うさいに戦略が不可欠だ。だが、日本にはこうした戦略、つまり、コミュニティ・オーガナイジング(の手法)が決定的に欠けている。だからその種蒔きを地道に続けて、各地に花を咲かせていこうと決心した、というのである[*5]。

 

[*4] 連合のホームページを参照(2014年7月17日)。http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/rengonews/2013/20130529_1369822611.html

 

[*5] コミュニティオーガナイジングジャパンのホームページを参照(2014年7月17日)。http://communityorganizing.jp/about-us/prospectus

 

まだ他にもたくさんの芽吹きがあり、ここに紹介できないのが残念である。いずれにせよ、就労支援政策のゆくえを見据え方向性を定めるにあたっては、こうしたさまざまな組織の今後の動向を注視していくことが重要だと思う。

 

――と、私が愚考しているあいだにも、就労支援の実質をもっと良きものにしていきたい、就労支援をもっと社会的にパワフルなものにしていきたいと、汗をかいておられる方々がいる。私はほんの小さな応援団にすぎず恥ずかしいかぎりだが、そうした方々に、心からエールを送りたい。そしてまた、アメリカの人びとの創意と工夫を参照されてみてください、とお伝えしたい。

 

 

引用文献

 

遠藤公嗣・筒井美紀・山崎憲(2012)『仕事と暮らしを取りもどす――社会正義のアメリカ』岩波書店.

労働政策研究・研修機構(2014)『労働力開発とコミュニティ・オーガナイジング』JILPT海外労働情報(執筆者:遠藤公嗣・山崎憲・筒井美紀・米澤旦・岩田俊英).

筒井美紀(2008)「キャリアラダー戦略とは何か」J.フィッツジェラルド著、筒井美紀・阿部真大・居郷伸至訳『キャリアラダーとは何か――アメリカにおける地域と企業の戦略転換』勁草書房 pp.i-xx.(まえがき(解説論文))

筒井美紀(2014)「米国における公共労働力開発専門職の全国的組織化――NAWDPの活動と日本への示唆」『法政大学キャリアデザイン学部紀要』第11号, pp.109-131.

筒井美紀・櫻井純理・本田由紀編著(2014)『就労支援を問い直す――自治体と地域の取り組み』勁草書房.

 

サムネイル「Light bulb」Kevin Dooley

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