世界経済フォーラム グローバル・リスク報告書2017の衝撃――危機管理の経営力が問われる時代

本日、1月17日から20日まで開催される今年のダボス会議。本体会議の討議のための素材として活用されている報告書が「グローバル・リスク報告書」だ。経済界のみならず、各国政府、国際機関らの長期戦略策定にも大きな影響を与えている、世界経済フォーラムの「グローバル・リスク研究」の最新動向を概説する。

 

 

どうしたら地球を滅ぼすことができるか?

 

「我々が宇宙人だとして、どうやって地球人を滅ぼすか?」という問いに皆の関心が一気に向いた。それぞれの専門知や想像力で、人類そして地球崩壊の戦略論とそのシナリオを語る中、私は「このまま静観していれば良いのではないか。ガン細胞が自己目的のために増殖して人間とともに朽ちるように、人類もまた地球とともに自滅するのでは。経済格差、気候変動、テロ、パンデミック、生物多様性、エネルギー、貧困、自然災害、格差、サイバー……など、地球が抱える問題をいまの人類は解決できない。ジョン・レノンは嘆き悲しむだろうけど……。」と答えた。

 

このような議論ができる場が、世界経済フォーラムのグローバル・リスク研究である。私は2012年の東日本大震災特集から参画し、2013年の国家の危機管理力を評価するナショナル・レジリエンス研究(≠国土強靭化)などに携わってきた(参考:「レジリエンス」〜ビジネスパーソンが押さえておくべきキーワード〜)。

 

グローバル・リスク研究は、ダボス会議に参加する世界のリーダー達へのアンケートを基に、今後10-20年先の未来予測を行う壮大なものである。その成果は、毎年1月中旬に「グローバル・リスク報告書」として公表され、世界経済フォーラム年次総会(通称 ダボス会議)の討議のための素材として活用されているほか、各国政府、国際機関、企業らの長期戦略策定にも具体的な影響を与えている。「Crisis is the new normal.(危機の常態化)」が、このチームの共通認識だ。

 

 

グローバル・リスク報告書2017サマリー

 

グローバル・リスクは5つのカテゴリー(経済、環境、地政学、社会、技術)から構成されている。これまで、各カテゴリーから10個のリスクを同定し、計50のグローバルリスクを研究対象としていたが、近年は対象とするリスクを限定しており、2017年は30リスク(経済:9、環境:5、地政学:6、社会:6、技術:4)を評価対象としている。

 

同報告書の重要な成果物は、「グローバル・リスクランドスケープ」(図1)である。定義された30のグローバルリスクを、今後10年での発生可能性(横軸:Likelihood)と、顕在化した時の影響度(縦軸:Impact)を相対的に可視化している。また、発生可能性と影響度の認識が、過去からどのように変遷してきたのかという情報が「リスク・トレンド情報」(図2)として公開されている。(評価手法やグローバルリスク30の内訳は原典参照)

 

 

図1 グローバル・リスク・ランドスケープ2017  出典:"The Global Risks Report 2017",p.5 http://www3.weforum.org/docs/GRR17_Report_web.pdf

図1 グローバル・リスク・ランドスケープ2017
出典:“The Global Risks Report 2017”,p.5

GRR17_Report_web02

図2 グローバル・リスク・トレンド(2007―2017)
出典:“The Global Risks Report 2017”,p.4

 

(定義)グローバル・リスク:今後 10 年間において、発生した場合には複数の国や産業に多大な悪影響 を及ぼす可能性のある、不確実な事象または状況のこと。

 

(参考)グローバル・リスク報告書2017の目次の抜粋

Introduction

Part1     Global Risks 2017

Part2     Social and Political Challenges

Part3     Emerging Technologies

Conclusion

 

 

注目すべきトップリスク:異常気象・自然災害と新技術の台頭

 

グローバル・リスク2017のなかでも注目すべきグローバル・リスク(ランドスケープの右上領域)は、異常気象、自然災害、大規模な移民、テロ、サイバー攻撃、水資源危機、気候変動対応となった。本報告書は、世界“経済”フォーラムが調査したものだが、経済リスクよりも環境、社会、技術のリスクが脅威と評価されている点が興味深い。これらの脅威に対して、1:経済の成長と再生、2:コミュニティの再構築、3:新技術の管理、4:国際的な協調関係の強化、5:気候変動への迅速な対応、というテーマを設定した議論が展開されている。

 

とくに、「3:新技術の管理」については、工業のデジタル化・情報化による第4の産業革命「Industry 4.0」を進めるために注目すべき技術が11個提示された。例えば、3Dプリンティング、新素材、AI、バイオ、ブロックチェーン、地球工学、宇宙関連技術などだ。ただ、これらの新技術群の導入や社会への浸透は、もちろん限られた時間や資源を効率的に活用し地球益に貢献するものであるが、一方で既存の雇用を奪い、既に構築された世界規模でのバリューチェーンを創造的に破壊していくことから、この急激な事業環境の変化に対応できない個人、企業、国は、現在の経済的な優位性を失う。このことが、既に顕在化している事例をもって説明されている。さらに、その間接的影響として、所得格差が拡大し、社会不安に繋がり、今以上にDIYテロ(後述)が乱発するシナリオも提示されている。

 

近時は技術の到来を歓迎するとともに、その正負の影響を考察する情報も日本で流通しはじめたが、同報告書が暗示する世界や想像力の豊かさは、それをはるかに超えている。原子力技術の事例を出すまでもなく、新技術・巨大技術と我々人類は共存できるのか、という問いを暗示している。このパートは、是非一読されたい。

 

 

アジェンダ設定を間違えた日本が迎える最悪のシナリオ

 

「グローバル・アジェンダとメガトレンドの把握」が全ての個人や組織、とくに企業経営のなかで欠かせないキーワードだ。長期的(10-20年)に起きている社会の潮流や変化、何が確実で何が不確実なのかを含め理解し、足元の中期的(3-5年)な経営計画を組み立てる。何よりリスク管理をビジネスで捉えるマインドセットも重要だ(参考:Forbes JAPAN、2016/2/11、日本の技術は難題解決の切り札)。いつの時代も、企業経営を取り巻く外野からの声は多くある。Briexit後の欧州ガバナンス、米国トランプ大統領期における不確実な世界情勢と米国内政、これらを睨んだロシア、中国の外交戦略などは当然ながら、以下の状況はご存知だろうか。これらは全て経営者、とくにCRO(チーフ・リスク・オフィサー)が認識すべきグローバル・リスクであり、かつ経営の責務である。

 

 

新卒年俸3,500万円 の人材獲得合戦

 

私のインドの友人は、ここ数年、学生時代からヘッドハンティングされ就職している。インドでは、いわゆる就活に要する時間は、最短1日。多くの場合、会社説明会、エントリー受付、筆記や面談の試験、そして専門試験の全てを1-2日で行うという。彼はインド工科大学の大学院生だ。現在、インドには約3億人の学生が存在する(米国の総人口と同規模)が、その理科系の頂点とも言えるのがインド工科大学だ。上位100人ともなれば、天才的な理数知能を有していることは想像がつくだろう。

 

彼らは口々に「日本企業からのオファーはない」と言う。ビッグデータ、AI人工知能、プログラミングなど、世界を一新する新技術(先述)のスキルをもつ学生の多くは、いまやインドにおり、世界が注目している。インテル、Google、オラクル、マイクロソフト、ウーバー、ゴールドマンサックスなどの大企業は、インドには優秀な学生が多いこと、専門性の質も高いことを評価している。日本企業のように新卒給料が300万円/年、入社後に会社が人材育成をしていくシステムが一般的だったり、なにより組織人としての振る舞いを強制されるようでは、彼らには全く響かない。

 

ご案内のとおり、シリコンバレーで次々とイノベーションを生み出している企業の幹部の半数はインド人である。米国流の経営学、マネジメントで彼らとの共存共生を図ってきたのは、米国の上手さ、賢さである。日本で企業が、働き方改革、女性活躍推進、ダイバーシティやCSR経営へのシフトに手こずっている間――敢えて言えばローカル・アジェンダとしての雇用政策しか見ていない間に、かつてないほどの人材争奪戦が始まっている。世界で戦う組織になるためには、世界から人材を集めなければならない。人的資本をどのように獲得するかの採用戦略が、中長期の経営力として試されている。【次ページにつづく】

 

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