日銀がいかに仕事をしていないかが分かる、たったひとつのグラフ

シノドスジャーナル上で、「アベノミクスでバブルが起きるは本当か?」という筆者の記事(https://synodos.jp/economy/551)に対して、池田信夫さんより、「村上尚己氏の古代マネタリズム」というタイトルで次のような反論をいただいた(http://blogos.com/article/55259/)。

 

この反論記事への再反論はいずれまた書かせていただくとして、池田さんが、筆者への反論記事の冒頭で、次のようにお書きになっていることに注目したい(今回の筆者(村上)のこの記事は、池田さんから寄せられた筆者への反論への反論ではないのでご注意を)。

 

 

間違いを何回指摘されても同じバカな話を繰り返すのは、反原発派とリフレ派の共通点だ。村上尚己氏は、またいつもの変な図を出してアゴラの私の記事を批判しているが、こんな図は起点を変えれば何とでも描ける。対GDP比で描けば、次のように日銀のマネタリーベースはいまだに世界最大で、FRBの1.5倍である。

 

 

これは一言で言えば、「日銀は十分に(いや、どころかFRB以上に)金融緩和を行っている」という主張である。しかしそれは本当か。この問題について考えていきたい。

 

とはいえ筆者はちょうど、1月31日に上梓した拙著『日本人はなぜ貧乏になったか?』(中経出版)の「Chapter 4 日本人を貧乏にした「ウソ」にダマされるな!」の中で、「日本は大規模な金融緩和をしたが、ほとんど効果がなかった」という通説に対し、次のような反論を行っている。

 

この該当箇所を公開することで、読者の方には、今回の記事のコアになる「日銀は十分に金融緩和を行っているか?」という問題について考えるヒントにしていただきたい。

 

※重ね重ね、今回の筆者のこの記事は、池田さんからの反論への反論ではないためご注意いただきたし。また以下に掲載している文章は、書籍になる前に、筆者が出版社に入稿した文章。文中の「◯◯ページ」という記述は、『日本人はなぜ貧乏になったか?』の該当ページを指すものである。

 

*  *  *

 

×[通説]日本は大規模な金融緩和をしたが、ほとんど効果がなかった。

○[真相]→否。緩和の金額が決定的に足りない。アメリカを見よ。

 

 

金融緩和の規模を明確に測ることのできるある計算方法

 

日銀に追加の大規模金融緩和を求める私のような意見に対しては、「日本でインフレ目標を含む大規模な金融緩和政策をとった場合、ハイパーインフレが起こる」という反論とは逆に、「日本銀行はかつて果敢な金融緩和を行ったが、デフレの鎮圧に効果はなかったので、これ以上の緩和を行なっても焼け石に水で意味がない(=インフレは起こせない)」という反論を寄せる「識者」もいる。

 

これがいかに誤っているかは91ページ以降で触れた通りだが、ここでは、厳密に金融緩和の“規模の観点”から、なぜこの反論が誤りであるかを見ていきたい。

 

日本の報道では、日銀の金融緩和について述べる場合、圧倒的に「それはどの規模での話をしているか?」の観点が決定的に不足してしまっている。だからこそ、時には「ハイパーインフレが起こる」と言ったり、同じ「識者やマスコミ」がその一方で、「インフレは起こせない」という真逆のことを言うような不可思議な現象が起こっていて嘆かわしい限りだ。この「金融緩和で必要な規模」について見る場合、必要になってくる知識は、米カーネギーメロン大学の著名な経済学者ベネット・T・マッカラムが考案した「マッカラムルール」という計算方法である。

 

 

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マッカラムルールとは、目標とする経済成長(=名目成長=名目GDP成長率)を実現するためには、どの程度の規模、中央銀行が金融緩和政策(=ベースマネーの拡大政策)を行えばいいか? がわかる計算方法である。上のグラフは、そのマッカラムルールから算出される結果を可視化したものである。このグラフこそが、いかに日銀が仕事をしてこなかったかが一目でわかるグラフになっている。

 

このグラフを見れば、「日本が3.5%の名目経済成長を達成しようとした場合に、実際に日銀の金融緩和がどれだけ足りていなかった?」かが如実にわかる。この計算方式がいかに正しいかは、実際の日本の名目経済成長率と、日銀のこれまでのベースマネー拡大の実績値が、「-0.5%成長を名目経済成長を想定した場合の」マッカラムルールから算出される理論値のとおりに推移していることからわかるだろう。

 

このグラフからわかることは、「日本が3.5%の名目成長を達成するには、日銀が“追加で”あと100兆円のベースマネーを供給しなければいけない(=日銀の金融緩和の規模はあと100兆円も(!)足りていない)」ということである(これ実は、これまでの日銀の政策が、実際に日本を-0.5%の名目成長に陥らせる程度のベースマネー拡大しか行なっていなかったということもわかるグラフになっているから驚きだ)。

 

では、リーマンショック後の2009年にデフレ一歩手前までの危機に陥ったアメリカのFRBは、どれだけの“規模”の金融緩和政策を実際には行っていたのか? それがわかるのが次のグラフである。

 

 

murakami02

 

 

このグラフでは、リーマンショック後のアメリカの金融緩和(=ベースマネー拡大)の規模があまりにも大きいため、「もしアメリカが4%の名目経済成長を目標とした場合はどうか?」という数字で計算しているが、FRBは実際、まさに4%の名目成長に本来必要なはずの金融緩和の“規模”を、大きく超える形で金融緩和政策を行っているのである(そして、リーマンショック前までのFRBは、名目4%の名目成長を目指して、果敢な金融政策運営を行なっていたことが見て取れるグラフだ)。

 

そして、リーマンショックという大きな危機を経験して以降も、アメリカがまた経済成長を取り戻しているというのは、50ページ以降で示した事実の通りなのである。ここからわかることは、いかに日銀の金融緩和の“規模“が足りていなくて、逆にFRBの金融緩和の“規模”があまりにも大きかったか? ということである(具体的には140兆円の“追加の“金融緩和を行った)。

 

 

 

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