財政政策に関する政策的・思想的・理論的課題――藤井聡氏からの再コメントへのリプライ

藤井先生の再コメント(『乗数効果と公共事業の短期的効果への疑問──藤井聡先生へのリプライ』への追加コメント)において、土木・建設産業の供給制約問題についてはある程度賛同いただける部分があった点は非常に嬉しい限りです。そこで再度のリプライをさせていただければと思います。文中に読者の理解を助けるために、言わずもがなの説明が含まれている点、一部記号の変更・省略を行っている点は、公開議論と言うことでご容赦ください。

 

 

政策的課題

 

まずは、いただいた批判のメインの論点ではありませんが、実体経済にとっての重要度が高い(と私が考える)政策的な問題からお話をさせていただきます。

 

教科書的にも、

 

・十分に緩和的な金融政策姿勢、金利上昇を抑制するとの信頼ある中央銀行

 

の下では、マンデル=フレミング効果は観察されづらくなります。新しい日本銀行の下ではあまり心配する必要のある財政政策阻害要因とは言えないでしょう。そのなかで、財政政策の景気浮揚効果への足枷となるのが、

 

・土木建設業の供給制約問題

 

であるというのが私の懸念の中心です。その対応としての長期計画の必要性についてもある程度賛同いただける部分もあるかと存じますが、ここで問題になるのは、

 

・現在土木建設業が供給制約状態にあるなら、消費税増税による反動不況、より具体的には今年度から来年度にかけての緊急対応としては土木建設業への支出の有効性は低いのではないか

 

という点です。(長期的な土木・建設支出の拡大の是非はさておき)再び動き出した日本経済の芽吹きを摘んでしまわないための短期的な財政支出先としては、供給余力の大きい製造業・ソフトウェア産業への支出、サービス業への支出に結びつきやすい家計への直接給付の方が好ましいのではないでしょうか?

 

 

思想的課題?

 

財政政策、なかでもインフラ整備については思想的な隔たりの大きさを痛感すると共に、その結論部分についてはそれほどの距離がないのではないかと思う部分もあるというのが正直な感想です。コメントの「(4)終わりに」において、私の主張を

 

 

A)政府だけが無駄な投資をしているかのように論ずることは正当化し難いし、

B)民間が無駄な投資をしていないかのように論ずることも正当化し難いし、

C)「無駄な投資」が仮に(官民問わず)存在したとしても、それによって景況感にはもならない

 

 

とまとめられていますが、これは全くの誤解です。私は文中でこのような限定的な主張は全くしておりません。以下、まずはA)B)についてから説明したいと思います。コメント内の「(2)民間と政府の合理性についての論点」藤井先生は私の主張を、

 

 

(仮説1)民間企業は基本的に、合理的な投資を行う。

(仮説2)政府は基本的に、民間企業よりも非合理的な投資を行う。

 

 

とまとめられています。こちらは私が経済を考える際の出発点を適切にまとめていただいています。ただし、両仮説をもう少し正確を期した修正させていただくと、

 

 

(仮説1’)民間企業は平均的には、合理的な投資を行う。

(仮説2’)政府は平均的には、民間企業よりも非合理的な投資を行う。

 

 

となります。個々のプロジェクトをみれば、民間投資の失敗事例、公共投資の成功事例ともにいくらでも見つかるでしょう。問題は、その平均的なパフォーマンスです。仮説1’2’が成り立たないとしたならば、投資を社会的に管理すること、生産手段を公有化することによって経済のパフォーマンスが上昇することになってしまいます。

 

私は、自由主義経済が計画経済よりも優れた制度であるという事実に疑いをもっていません。政府のマネジメント(どれだけ正しい知識を現実の意思決定につなげられるかという問題)まで含めると、自由主義経済の優位性はさらに明確になるでしょう。

 

行動経済学的な知見から、個人の意思決定がファーストベストではないという指摘もありますが、それは個人の意思決定よりも集団的な意思決定が優れていることの証拠にはなりません。それが短期的なものであれ長期的なものであれ、個人・個別企業の便益を上昇させる方法を政府がよりよく知っているという仮説は立証困難でしょう。私は外部から明確に指摘・立証できるほど非合理的な個人が多いとは思いませんが……仮にそうだとして、その非合理的な個人から構成される組織が急に合理的になるというのも考えづらいのではないでしょうか。

 

このような状況で、政府支出を正当化するのは、

 

・民間にはやりたくてもできないことがある

 

という事実です。その典型例が社会インフラの整備です。政府によるインフラ整備が大きな重要性をもつのは、

 

・民間企業ではファイナンス出来ない大規模事業である

・消費の非排除性が強く、民間企業による供給は(対価の徴収面で)困難である

 

という公共財供給の場面でしょう。社会インフラ整備が未熟で、このような条件を満たす案件があふれていた高度成長期に較べると確かに減ってはいるでしょうが、現代の日本においてもこれらの条件が満たされる箇所は少なくないと考えています。東日本大震災を経てむしろ必要なものが明確になったと言っても良いでしょう。だからこそ、十分な費用便益分析をふまえ、長期的な(コミットメントのある)計画立案を行った上で社会資本の整備を行う必要があるという主張に繋がるわけです。

 

 

 

シノドスのサポーターになっていただけませんか?

無題

 

vol.230 日常の語りに耳を澄ます 

・荒井浩道氏インタビュー「隠された物語を紡ぎだす――『支援しない支援』としてのナラティヴ・アプローチ」

・【アメリカ白人至上主義 Q&A】浜本隆三(解説)「白人至上主義と秘密結社――K.K.K.の盛衰にみるトランプ現象」

・【今月のポジ出し!】吉川浩満「フィルターバブルを破る一番簡単な方法」

 

vol.229 平和への道を再考する 

・伊藤剛氏インタビュー「戦争を身近に捉えるために」

・【国際連合 Q&A】清水奈名子(解説)「21世紀、国連の展望を再考する」

・【あの事件・あの出来事を振り返る】桃井治郎「テロリズムに抗する思想――アルジェリア人質事件に学ぶ」

・末近 浩太「学び直しの5冊<中東>」

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.230 特集:日常の語りに耳を澄ます

・荒井浩道氏インタビュー「隠された物語を紡ぎだす――『支援しない支援』としてのナラティヴ・アプローチ」

・【アメリカ白人至上主義 Q&A】浜本隆三(解説)「白人至上主義と秘密結社――K.K.K.の盛衰にみるトランプ現象」

・【今月のポジ出し!】吉川浩満「フィルターバブルを破る一番簡単な方法」