教育政策のかなめ教員政策を考える――限られた予算で高い教育効果をあげるために

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1. はじめに

 

日本では近年、教員政策を巡ってさまざまな議論がなされている。

 

教員政策は幅の広い概念で、養成/採用/研修/報奨/解雇とさまざまな要素が含まれるが、議論の俎上に載っている代表的なものとして、(1)養成-教員養成の修士化、(2)採用-教員数(少人数学級)、(3)報奨-給与削減及び給与システムの変更、の3つを挙げることができる[*1]。

 

まず(1)の点については、昨年8月に「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」という答申が中央教育審議会で取りまとめられ、その中で教員養成の修士化が言及された。

 

(2)の点については、文部科学省が「『少人数学級の推進など計画的な教職員定数の改善について』~子どもと正面から向き合う教職員体制の整備~」といった報告書を出すとともに、向こう7年間で2万4千人の教職員の増加を求めていると昨年末に報道された。その一方で、財務省は財政制度等審議会で教職員数を同期間中に1万4千人削減することを求めており、二つの省庁間で対立が生じている。

 

(3)の点についても、財務省は来年度1.7%(年収で約10万円分) 教員給与を引き下げて一般行政職の地方公務員並の水準にすることを求めているが、文部科学省はこれに反発をしているという報道が昨年末にあり、ここでも二つの省庁間に対立がある。さらに、「今後の教員給与の在り方について」という答申が中央教育審議会から出され、教員の役割分担・評価・給与の在り方を見直していく必要性が指摘された。

 

このようにさまざまな議論が繰り広げられている教員政策であるが、教員政策は教育政策の要であり、この議論の趨勢が中期的な日本の教育政策の成否を決めると言っても過言ではない。なぜなら、優秀な教員は貧困の連鎖を断ち切れる程度には学習成果[*2]に影響を与え得る存在であり[*3]、かつ教員給与支出は教育支出の大半を占める要素だからである。

 

下記の表1・2(表1は公教育支出に占める経常支出の割合[*4]、表2は初等教育の公教育経常支出に占める人件費の割合である。完全に一致するデータが無かったが、表1と2の値を掛け合わせた値が、大体の公教育支出に占める教員給与支出の割合を示している)が示すように、教育支出の60%から90%は教員給与支出によって占められている。つまり、学習成果・教育支出の両面から、教員政策を考慮しない教育政策像は無意味に等しいし、教員政策を考える時に教育政策への影響を考慮に入れないと教育政策がバランスを失い崩壊する恐れがある。

 

 

スライド1

 

スライド2

 

 

しかし、現在行われている教員政策を巡る議論は、教育支出の水準とバランスが十分に考慮されているとは言い難いし、教員政策の学習成果へのインパクトについてもデータに基づいた議論からはややかけ離れている。さらに、教育政策のかなめである“早期に不利な背景を持つ子どもたちに介入する”、という視点も希薄である。

 

そこで本稿では、日本の教育支出の全体像と教員政策の特徴、教員政策の学習成果へのインパクトに関する諸外国の研究成果を踏まえた上で、日本の教員政策について考えていきたい。以下では、主にEducation at a Glanceの2013年版のデータを用いて2章で日本の教育支出の水準とバランスを、3章で日本の教員政策の特徴を、OECD諸国と比較することで考察する。4章では教員政策の学習成果へのインパクトについての諸外国での研究結果を紹介し、5章で日本の教員政策の在り方についてまとめの議論を行う。

 

[*1]非常勤教員の急増も喫緊な課題であるが、本文で挙げた3つの課題と異なり、やや応用的な分析を必要とするので、字数の都合で別の機会で取り扱う。

 

[*2]短期的な学力の向上から長期的な所得の上昇、治安の改善や医療費の削減と言った社会全体に及ぶ物までを含む。

[*3]優秀な教員がどれほど生徒の将来所得を向上させられるかは、Hanushek (2011)に詳しい。

 

[*4]教育支出は経常支出と資本支出の2種類に分けられる。前者は毎年支出する必要がある支出で、例えば教員給与・教科書代・水道光熱費、などが挙げられる。後者は一度支出すればそれが資本となり得るようなもので、学校建築がその代表的な支出である。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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