2014.03.23

『死にたくないんですけど iPS細胞で死を克服できるのか』(ソフトバンク新書)/八代嘉美・海猫沢めろん

小説家・海猫沢めろん氏は気付いた。髪が減り、肌が衰え、眠りも浅い。体も常にどこかが痛い……明らかに死に近づいている。これはヤバい。

「死にたくない!」

そして彼は思いつく――生物学の最先端研究技術で不老不死も実現できるのでは……? 海猫沢氏はこのあまりに素朴な疑問を、たまたま近所に住んでいた生物学博士・八代嘉美氏のもとにストレートにぶつける――死にたくないんですけど。

京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞発見の功績を讃えられ、ノーベル生物学・医学賞を受賞して2年が経つ。いろいろな意味で世間を騒がせているSTAP細胞をきっかけに、実はiPS細胞はどのようなものなのか、ES細胞とは何が違うのか。いったい何ができて、何ができないのか、漠然とした印象しか持っていないことに気付かされた人も多いのではないか。場合によっては、「細胞」とは何か、「遺伝子」と「DNA」の違いすら、よくわかっていない人もいるだろう。そうした基礎的な知識を、八代氏はわかりやすく教えてくれる。

それだけではない。そもそも「生命」とは(例えば「ドラえもんは、なぜ生物なのか」)、あるいは「死」とは、いったいどういうものなのか。肉体を持たずに、電子の世界で生きることは可能なのか。そして電子となった「わたし」は、いまのわたしと同じ存在と言えるのだろうか……ワクワクする疑問についても考える。

作家と研究者という立場の異なるふたりの対話は、異なるイマジネーションで、私たちに「生きること」を考えさせてくれる。本書に詰まっている様々な問いは、もはや遠い未来の空想ではない。いまこそ切実な思いを胸に一杯にしながら読んでほしい、そんな一冊だ。

著者・八代嘉美氏記事一覧はこちら → https://synodos.jp/authorcategory/yashiroyoshimi

『百合のリアル』(星海社新書)/牧村朝子

レズビアンって結婚できるの? どうやってセックスしているの? いつカミングアウトはいつするの? そんな率直すぎる疑問に、真っ向から向き合った本がある。牧村朝子『百合のリアル』だ。著者の牧村さんはフランスで国際同性婚をし、タレント・レズビアンライフサポータとして活躍している。彼女個人の経験と、「レズビアン」という概念を切り口に、「本当のモテ」、「自分らしさ」といった、普遍的なテーマにも正面から踏み込んでいく。

「レズビアン」や「ゲイ」にならなくても、あなたはあなたの愛する人を愛せます。人が人をカテゴリーという器に押し込めても、それぞれのアイデンティティは、それぞれが選び身に付けるものです。(本文より)

自らが「レズビアンかどうか」を悩みぬいてきた、著者だからこそ書ける、強く優しい言葉だ。「同性愛なんて自分には関係ない」と思っている方も、ぜひ一度は手に取って読んでほしい。

著者・牧村朝子氏記事一覧はこちら → https://synodos.jp/authorcategory/makimuraasako

『比較福祉国家』(ミネルヴァ書房)/鎮目真人、近藤正基

福祉国家。すなわち、所得保障や社会サービスを通じて、生まれてから死ぬまでに立ち現れるさまざまな生活上のリスクに対処し、わたしたち国民の生活を安定させるために資源の再配分を行おうとする国家のあり方。

現在、国家のこの振る舞いほど、議論が紛糾するものはない。年金、医療保険、生活保護などをめぐって、世代間の対立から怠け者へのバッシングまで、財政上の制約から個人のモラルにいたるまで、日々、軋轢が生まれ非難の応酬が行われ、けっして健全とはいえない風景がすっかり出来上がってしまっている。そしてそれは多かれ少なかれ、先進国に共通したものである。

とはいえ問題は、わたしたち一人ひとりの生活や生命だ。たんなる直感や印象、一時の激情などで議論がなされていいわけはない。ましてや政策立案や制度設計をしていいわけがない。多様なアプローチや分析視角から世界の福祉国家を比較した本書には、冷静に福祉国家について考えるための理論やデータ、各国事例がバランスよくつまっている。しかも簡明にして平易だ。まず手に取るべき一冊としてお勧めする。

『「社会を変える」のはじめかた』(産学社)/横尾俊成

クラフト調のかわいらしい表紙であるが、本書は政治を扱っている。

著者の横尾氏は、1980年代生まれ。博報堂の元広告マンで、現在東京都港区議会議員を務めている。

なぜ、政治家を目指すようになったのか語る「博報堂を辞めました。政治をはじめました」、山崎亮氏・駒崎弘樹氏などとの対談を収録した「欲しい未来を手にする6つの方法」など、「社会を変えたい」と思っている人が、どのような政治的アプローチができるのか。若手議員からみた、「社会を変える政治の使い方」が綴られている。

『アフリカ社会を学ぶ人のために』(世界思想社)/松田素二編

等身大のアフリカ。しかしながら、これを描くのがとても難しい。

まずは本書がいうところの「500年のひずみ、200年のゆがみ」がある。それは15世紀以降のヨーロッパとの接触の結果、推し進められた奴隷貿易と、19世紀以降の植民地支配とがアフリカにもたらし、いまなお清算されていない暴力によるものだ。独立後、このゆがみに強く規定され、民族紛争や貧困、低開発に苦しめられたアフリカは絶望の大陸であった。

ところが近年のアフリカは打って変わって、希望の大陸として語られるようになった。石油や天然ガス、鉄鉱石やボーキサイト、ウランといった豊富な天然資源を獲得するために、欧米や中国、インドなどが大量の資本を投下した結果、世界経済のなかでもっとも高い成長を遂げるようになったからだ。

かくしてアフリカは、「国際社会のお荷物」から「世界経済成長の牽引車」へと劇的に変化した。だが、と本書はいう。かつて絶望の時代にアフリカ社会を未開視していたまなざしと、今日の希望の時代に豊富な資源に向けられているまなざしは、いずれも植民地時代のそれと深層においては変わらないのではないか、と。

本書が目指すのは、「同情や救済の対象」でも「資源の供給減」でもない新しいアフリカ像だ。そのために人類学、社会学、霊長類学、歴史学、言語学、文学、政治学、経済学、医学、農学などをベースに活躍するフィールドワーカーたちが大動員されている。彼らが描き出す“いま”のアフリカの姿を読み、その潜在力がもたらす希望をぜひ感じてほしい。

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足を運びたいオススメイベント

■~3月24日(月)※平日のみ 写真展2014「東北がおしえてくれたこと」

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安田菜津紀さん、佐藤慧さん他、一般からの写真も含めた展示会。

会期:3月17日~3月24日(平日のみ)

時間:10:00~19:30

会場:トッパン・フォームズ株式会社 汐留本社ビル1階ホワイエ

安田菜津紀さん記事一覧 → https://synodos.jp/authorcategory/yasudanatsuki

佐藤慧さん記事一覧 → https://synodos.jp/authorcategory/satokei

■3月26日放送予定 ニコニコ生放送&トーク「まきむぅ&こゆたんのレズビアンチャンネル」

「まきむぅ」こと牧村朝子がニコ生でこつこつ頑張る番組よ。あと、「こゆたん」こと東小雪ちゃんも登場するのよ。あなたたち、しっかり応援しなさいね。

主にレズビアン・百合周辺の話題について、意見交換会をするわ。ちなみに、男も女もそうでない人もコミュ参加大歓迎よ。「レズビアンのためのチャンネル」じゃなくて、「レズビアンがやってるチャンネル」だからね!

★ あなたの投稿が番組をつくります!

ニコニコ生放送&ニコニコチャンネルで放送中のトーク番組、「まきむぅ&こゆたんのレズビアンチャンネル」の視聴者投稿募集です。投稿はすべて匿名OK、メールアドレス不要。テーマに合わせて下記フォームからコメントをくださいね。必ずすべてを読み上げることはできませんが、一部の投稿を番組内で読み上げさせていただきます!

★ 3/26放送予定「レズビアンと元カレ」

「レズビアンと元カレ」と聞いて、思うことをなんでもお聞かせください。

・レズビアンと元カレ、と聞いて浮かぶ疑問はある?

・自分の彼女に、自分の元カレのことを話すことはある?

・元カノに「自分はレズビアンだ」と言われた経験はある?

 などなど、自由にコメントをお寄せください! レズビアンの方も、ご自身をレズビアンでないと思う方もコメントお待ちしています。

【放送を観る方法】http://koyuki-higashi.tumblr.com/post/25642429245
【ニコニコチャンネル版】http://ch.nicovideo.jp/Akibappara-TV 

【コメントはこちらから】 http://yurikure.girlfriend.jp/yrkr/?page_id=183

※牧村朝子さんオフィシャルサイトなどより → http://yurikure.girlfriend.jp/yrkr/?page_id=183

■3月24日(月)午後6時30分~シンポジウム「国家秘密と情報公開」第5弾 アメリカ・イギリスの秘密保護制度と情報公開―アメリカ・イギリス調査報告―

秘密の指定や解除の基準、監視・監察機能など、多くの問題を先送りにして成立した「特定秘密保護法」。1年以内の施行が予定されています。

基準作り等のために有識者による情報保全諮問会議が設置されるなど、政府内で準備が進められています。特定秘密法以前から、政府はさまざまな形で「秘密」を持ってきました。

しかし、秘密を持つ政府自身をどのように民主的にコントロールするのかという議論を欠いたまま、今に至っています。

世界各国でも機密指定制度の導入が、さまざまな形態で行われています。アメリカ、イギリスともに異なる仕組みの中で機密指定が行われていますが、過剰な秘密指定、秘密で行われている政府活動への監視機能の問題から、さまざまな問題を抱えつつ、仕組みや制度を変えたり作ったりしてきています。

日本での議論を進めるため、アメリカ、イギリスでの聴き取り調査の結果を報告します。

日時:2014年3月24日(月)午後6時30分~

場所:日比谷図書文化館コンベンションホール http://hibiyal.jp/hibiya/access.html

報告:三木由希子(NPO情報公開クリアリングハウス理事長)

   山田健太(専修大学文学部教授、自由人権協会理事)

資料代:1000円

主催:自由人権協会×日本ペンクラブ×情報公開クリアリングハウス

※事前申込優先 お申し込みはこちら⇒https://ssl.kokucheese.com/event/entry/154295/

※ちらしをダウンロード http://bit.ly/1kAqgwZ

※情報公開にまつわる日々の出来事-情報公開クリアリングハウス理事長日誌さんより → http://johokokai.exblog.jp/21867164/

■~5月11日(日) 101年目のロバート・キャパ 誰もがボブに憧れた

40年の生涯の中でスペイン戦争など5つの戦場を写した写真家として知られるキャパですが、約7万点とも言われる作品の中には、同時代を生きる人びとや友人たちへの思いをこめて写されたカットが数多く存在します。本展は、キャパの真骨頂ともいえるユーモアや生きる喜びが表れた作品を中心に構成し、編集者としてキャパの盟友であり続けたジョン・モリス氏へのインタビュー映像などを通して、次の100年に向けた新たなキャパを見ていただく機会になります。「伝説のカメラマン、キャパ」ではなく、挫折や失意を味わいながらも、笑顔を忘れず多くの友人と友情を深め、女性たちと恋に落ちたボブ(キャパの愛称)の等身大の魅力をこの機会にご覧ください。

会期: 2014年3月22日 ( 土 ) ~ 5月11日 ( 日 )
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館)
料金:一般 1100(880)円/学生 900(720)円/中高生・65歳以上 700(560)円
( )は20名以上団体および東京都写真美術館友の会、当館の映画鑑賞券ご提示者、上記カード会員割引(トワイライトカードは除く)/ 小学生以下および障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料/第3水曜日は65歳以上無料

※東京都写真美術館さんウェブサイトより → http://syabi.com/contents/exhibition/index-2149.html

※オフィシャルページはこちら → http://capa101.jp/index.html

プロフィール

シノドス編集部

シノドスは、ニュースサイトの運営、電子マガジンの配信、各種イベントの開催、出版活動や取材・研究活動、メディア・コンテンツ制作などを通じ、専門知に裏打ちされた言論を発信しています。気鋭の論者たちによる寄稿。研究者たちによる対話。第一線で活躍する起業家・活動家とのコラボレーション。政策を打ち出した政治家へのインタビュー。さまざまな当事者への取材。理性と信念のささやき声を拡大し、社会に届けるのがわたしたちの使命です。専門性と倫理に裏づけられた提案あふれるこの場に、そしていっときの遭遇から多くの触発を得られるこの場に、ぜひご参加ください。

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