2014.05.25
ゴーストライター制度が素人談義をまき散らす?――『ビジネス書の9割はゴーストライター』(吉田典史)ほか
『ビジネス書の9割はゴーストライター』(青弓社)/吉田典史
ある大手出版社の編集長はこう語ったという。
「著者は、誰でもいいの。書くのはライターだから。著者に求められるのは、一日五十部のペースで本を売りまくるブランド力、営業力、ネットワーク力……。」
本書はゴーストライター経験を豊富にもつ著者が、ゴーストライターの仕事や収入、トラブルや業界の裏話を赤裸々に記したものである。
ビジネス書の世界では昨今、ひとりの編集者が年間、十二冊から二十冊前後の本をつくる。もし経営者や芸能人、政治家、コンサルタントなど、著者としてクレジットされる人たちが本当に書いたなら、こうしたハイペースを維持することはとうてい不可能。締め切りを守ることも疑わしいし、そもそもまともな日本語をを書いてくることすら期待できないからだ。そこでゴーストライターの出番となる。
だがなぜ、力量のない人間に本など書かせようとするのか。もちろん「売れる」と見込まれるからだ。本は増刷がかからないと利益が出ない。件の編集長は「一日五十部のペース」というが、書店に(平積み)で置いてくれる三カ月くらいの間にそのペースで売れなければ、増刷がかからない。となると求められるのは「初速」であり、したがって文章力などより、「ブランド力、営業力、ネットワーク力」が重要になるというわけである。
さて、ゴーストライターの名前もクレジットするだとか、資本主義以前ともいえるような地位や待遇を改善するだとか、やるべきことは多々あるのだろうが、著者にとって本は名刺代わりになるし、売れれば出版社に利益が出るし、読者も自ら好んで購買するわけだから、ビジネスとしての持続可能性は怪しいにしても、こうしたやり方が絶対的に間違っているわけではないだろう。
ただ問題は、社会にとっての害悪だ。芸能人やスポーツ選手はともかくとして、ゴーストライターを使って本を出版した人間が営業力やネットワーク力で本を売り、あるいはときに自ら大量に購入することで大型書店やアマゾンの売上ランキングを押し上げ、「売れている」という演出によって現実の売れ行きを後押しする。そして、「この著者は売れる」と群がる出版社からゴーストライターを使って次々と本を出し、著作多数の識者としてマスメディアで素人談義をまき散らす。
素人談義が異様に幅を利かせているという、この社会に巣くっている害悪の存続に、ゴーストライターという制度(と、それに寄りかかり粗製乱造する出版ビジネス)が手を貸しているように思えてならない。(評者・芹沢一也)
『孤独死のリアル』(講談社現代新書)/結城康博
「現代は、「死」を全面的に社会が受け止めなければならない時代になってきているのではないだろうか。」
「シノドス」にも度々ご寄稿いただいている著者・結城康博氏は、地方自治体で介護員やケアマネージャーを務めた後に、研究者になったという経歴を持つ。そうした現場での経験、そして研究者として、「孤独死」の実態について書いたのが『孤独死のリアル』だ。
死因を問わず、自宅で亡くなる人は年間おおよそ15万人。そして、孤独死で亡くなる人は年間約3万人。つまり5人に1人が孤独死で亡くなっている。「孤独死」という言葉は、「死後、2~3週間経ち、腐敗が始まっていた」といった報道もあいまって、「寂しい人生だった」といった負の印象を受けがちだ。それは「孤独死」を考える際に、いかに防ぐかのみに意識を持たせてしまう。
もちろん本書で紹介されているように、各自治体の見守り活動、ITを活用した診療所の見守りシステムの運用、あるいは日本独自とも言える新聞の宅配制度を使った見守りなどで、「孤独死」を避けることは重要だ。しかし超高齢化社会の日本で、長期にわたる入院を是正し、縮小化しようとする流れのあるなかで、そして人々が「最後は自宅で死を迎えたい」という願いを持つなかで、いっそう「孤独死」は避けることのできない現実となっていくだろう。
このような現実を受けて、著者は「(孤独死で亡くなった)遺体が遅くとも2~3日以内で発見されるような社会にしていくこと」が本書におけるミッションとする。それは、つまり、社会が死をどのように受け止めていくかを考えていくということだ。
死は必ずしも私的なものとは限らない。なぜ孤独死対策の必要があるのか、そして死をいかに社会化するか。これからの議論のためにも、本書で孤独死のリアルに触れていただきたい。(評者・金子昂)
『台湾ジャニーズファン研究』(青弓社)/陳怡禎
紅顔の美少年たちが空港に降り立つと、女性の黄色い声援が響く。ジャニーズのグループがコンサートをするため台湾へ向かい、熱狂的なファンが出迎える――そんなニュースを一度は観たことがあるだろう。
1990年代以降、台湾では「哈日族」と呼ばれる「日本が大好きな若ものたち」があらわれた。ジャニーズも2000年代から台湾に積極的に進出し、今では多くのファンを得るようになっている。
今回紹介する『台湾ジャニーズファン研究』の作者である陳怡禎さんは、台湾出身で自身もジャニーズのファンであるようだ。20代・30代の女性ファン13人にインタビューをし、ファンの活動やファン同士の交流について調査をしている。
第二章「ジャニーズファンの日常」では、13人のファンの一週間のライフサイクルを調べ、彼女たちの日常生活に迫る。特に興味深いのは、台湾ジャニーズファンが独特の時間感覚を持っている点である。
彼女たちは「日本のテレビ番組表」をもとに自身の生活を調整する。ファンの女性の一人は、ジャニーズの番組がある日は、残業や上司の誘いを断り、一目散に家に帰りパソコンの前に座る。インターネットで日本の番組を「生」で観るためだ。
台湾と日本の時差は1時間違う。彼女たちは、台湾時間という公的な時計と、ジャニーズファンとしての私的な時計の両方を持っている。「生」で番組を視聴し、インターネットを通じて、ファンコミュニティー内の友人たちとリアルタイムでコメントの交換を楽しむ。
そこでは、日本語が分かるかどうかや、番組が面白いかどうかではなく「時差なくアイドルに接近できること」「友達と即時性を確認し合えること」が重要視されている。また、共通の時間感覚を共有することで、ファン同士の親密さを深めているのだ。
本書では加えて、なぜファンはアイドル同士の「仲の良さ」に注目するのか、女性ファン同士の友情がどのように形成されているのかについても分析しているので、興味がある方はぜひご一読を。熱気にあふれた台湾ジャニーズファンの最前線を垣間見ることができる。(評者・山本菜々子)
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シノドス編集部
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