米大統領候補トランプの発言から学ぶべきこと

まともなエジプト人が、あのシルクのような声を持つライラ・ムラード(訳注:1995年没、エジプトを代表する大物の女優かつ歌手)を嫌うなどということがあり得ようか。ただ彼女がユダヤ教徒として生まれたというだけの理由で。それはあり得ない。

 

アメリカの大統領候補であるドナルド・トランプは選挙戦において、最近、イスラム教徒に対するおぞましい発言をしたが、彼を非難する前に、我々は正直に、こう自問し、率直に答えなければならない。この地上に存在する一人のユダヤ教徒の人間を、ユダヤ教徒であるというだけの理由で嫌うことはあるか。それともパレスチナ人の土地を奪い、さらにわれらの同胞であるパレスチナ人を世界各地に離散させたシオニストのイスラエル人を嫌うのか。

 

もしもあなたの答えが、「はい、私はユダヤ教を信じているという理由だけで、あらゆるユダヤ教徒(そのなかにはライラ・ムラードがいる!)を嫌悪します」であるとすれば、すなわちそれはトランプと大して変わらないということだ。それどころか、実際、イデオロギーとしては同じ船に乗っていることになる。

 

もし答えが、「私はユダヤ教徒一切を嫌っているのではない。そうではなく、パレスチナ人を抑圧し彼らの権利を奪う者を嫌うのだ」であるとすれば、その時あなたは、トランプ、彼に倣う者、そして彼の取り巻きを非難する権利を持つことになる。

 

トランプは非難を浴びせられるような、いったい何を語ったのか。彼はこう言った。アメリカ人は、イスラム教徒のアメリカ人(アメリカ人、という点に注意しよう!)を警戒しなければならない。アメリカ合衆国から追放しなければならない。ほかの国からいかなるイスラム教徒が入ることも禁止すると。

 

トランプの発言に対して、ユダヤ教徒たちはどう反応したのだろうか。(訳注:ユダヤ教徒である)フェイスブックの開設者であるマーク・ザッカーバーグはトランプに猛攻撃を仕掛け、激しい非難の言葉を浴びせた。

 

その重要性をかんがみ、ザッカーバーグが語ったことばを一つ一つ見ていくことにしよう。彼はこう語った。私たちの社会(つまりアメリカのことだ)のなかのイスラム教徒をサポートするすべての声に私の声を加える。イスラム教徒たちが、他人が犯した仕業のせいで、今経験している迫害のためにどれほどの恐怖を覚えているか、それは想像することすらできない。さらに、彼は自分のフェイスブック上でこう付け加えた。(ユダヤ教徒として)私の両親は、いかなるコミュニティーに対する攻撃であっても、そうした攻撃に対して抵抗するよう私に教えた。今日、その攻撃はあなたに向けられていなくても、あなたは安全ではない。明日には、それはあなたに向けられる。なぜなら一人の人間に対する攻撃はすべての人間を傷つけることになるからだと。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

・荒木啓史「遺伝か環境か?――ゲノム科学と社会科学の融合(Sociogenomics)が教育界にもたらすイノベーション」
・神代健彦「道徳を「教える」とはどのようなことか――「押しつけ」と「育つにまかせる」の狭間を往く教育学」
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