誰が電気を止めたのか――カメルーン東南部国境地域における妖術をめぐって

シリーズ「等身大のアフリカ/最前線のアフリカ」では、マスメディアが伝えてこなかったアフリカ、とくに等身大の日常生活や最前線の現地情報を気鋭の研究者、 熟練のフィールドワーカーがお伝えします。今月は「等身大のアフリカ」(協力:NPO法人アフリック・アフリカ)です。

 

 

はじめに

 

2014年夏、カメルーンのとある町、M市に関する情報を収集していた筆者は、衝撃的なネットの記事に行き当たった。

 

カメルーン:不満を持った妖術者たちが、開発プロジェクトを妨害」という見出しの記事には、電力会社が設置した発電施設を妖術者が「不思議な力」で停止させてしまい、M市街が長期の停電に見舞われたと書かれていた。このような出来事は、実はそれほど驚くことではない。噂として現地ではしばしば耳にするためである。人間関係のもつれが呪った/呪われたの妖術騒動に発展することも多々あり、当事者同士の話し合いや、村長や長老などの権威者の仲介により、内々で解決されることがほとんどである。

 

しかし、筆者が衝撃を受けたのは、ある行政書類のコピー画像が添付されていたからである。この地域を統括する郡長の名前で発行されたその書類には、彼が催した妖術者たちに対する事情聴取の結果と、電力会社に対する要求が記されており、ご丁寧に公印とサインまで入った正式な行政書類の体裁がとられていた。つまり、妖術者たちが発電施設に対して妨害を行ったという疑いが、単なる噂や人間関係のもつれを越えて、郡の行政のレベルで対処されたのである。いったい何故、そのような大事になってしまったのだろうか。

 

本稿では、ネット上にも公開された問題の行政書類の内容と、筆者がその確認のために行った現地調査の結果をもとに、M市街の停電事件がどのように対処されたのかについて検討する。それを通じて、カメルーン東南部地域における開発と妖術をめぐる言説と実践の一端を明らかにしたい。

 

アフリカの妖術、もう少し範囲を広げて呪術やまじないなどに対して、アフリカの後進性――ときには「未開」性――を想起して、「遅れたアフリカ社会」という偏見をもつ方がいるかもしれない。教育が行き届いていないために、開発が進んでいないために、呪術などと言う「迷信」を信じるのだ、という見方である。

 

ところが、少し考えてみれば、これが大きな誤解であることは明白である。例えば、日本においても、呪術やまじないはいたるところに存在している。正月には、初詣のついでにおみくじをひき、交通安全、学業成就、航空安全などのお守りを買い求める方は多いのではないだろうか。そしてこれらのお守りは、自家用車の普及、受験戦争、飛行機での移動の一般化といった社会状況やその変化と分かちがたく結びついている。アフリカの妖術や呪術も、これと同じことがいえる。では、以下でみていく停電事件と妖術をめぐる言説と実践は、いかなる現代的な状況から立ち現れてきたのだろうか。

 

 

熱帯林の田舎町

 

筆者が2008年より調査を行っているカメルーン東南部国境地帯は、コンゴ盆地の熱帯林の西北端に位置しており、鬱蒼とした森が広がる。この地域は、カメルーン国内においても「森しかない田舎」と見なされており、ネットのニュース記事で取り上げられることは珍しい。まれに、国立公園内におけるゾウ密猟や象牙取引の取り締まりが報じられる程度である[大石 2016b]。

 

本稿の舞台となるM市は、カメルーンとその南のコンゴ共和国の国境沿いに位置しており、首都ヤウンデから東へ向かう国道を800kmあまり行った終端に位置している。市役所のほかに郡を統括する郡庁も設置されており、それを司るのが上述の郡長である。かつては野生ゴムの生産で栄えたが[Geschiere 2005; 大石 2016a]、現在ではカカオが主な換金作物として栽培されている。

 

インフラの整備状況は2014年の時点においても十分でない。上下水道はなく、飲み水はポンプでくみ上げている。電力は、電力会社が街の外れに設置した大型の発電機によってまかなわれているが、この発電機がしばしば故障し、そのたびに500km以上離れた州都から技術者を呼び寄せるため、停電が数日間続くことも珍しくない。

 

通信は、電話会社のアンテナが立っているため、携帯電話が使用可能である。他の地域の例に漏れず、カメルーン東南部でもこの数年のあいだにスマートフォンが瞬く間に普及し、携帯電話網を介してSNSを利用する者も少なくない。

 

 

東部州の道路。未舗装の道路は、雨季になると粘土のようになり、車両の通行を阻む。

東部州の道路。未舗装の道路は、雨季になると粘土のようになり、車両の通行を阻む。

天日干しされるカカオ。この地域の主要な換金作物である。

天日干しされるカカオ。この地域の主要な換金作物である。

 

 

停電事件の概要――郡長の報告書より

 

本稿で取り上げる停電事件が発生したのは、2014年の3月末から4月初頭であったようだ。郡長の名前で作成された報告書の作成日は2014年4月8日、事情聴取が行われたのは4月4日のことであったと記載されている。報告書の宛名は、電力会社の最高責任者となっている。以下では、ネット上にアップロードされている報告書の内容を紹介する。

 

報告書によると、事情聴取は郡長のオフィスで行われた。同席した人びとの役職がリストアップされている。主立った行政の責任者たちや憲兵隊の隊長、警察幹部、M市の市長、「伝統首長」の代表として、近隣の村長たちの代表者、そして村の一つ上の行政単位である「カントン」の長が招集された。

 

カントン長と村長が行政によって定められた役職でありながら「伝統」の名を冠して呼ばれるのは、彼らが慣習に基づいた住民間のもめ事の処理を任されていることと、その役職は地元住民の特定の家系で実質的に世襲されているためである。上記の人びとに加えて電力会社の代表者2名が同席の元で、妖術者であるとされた高齢女性たちからの事情聴取が行われた。

 

この会合の趣旨は以下の二つであったと明記されている。1.一連の発電機の故障と爆発について終止符を打つこと、2.全ての部品が正常であるにもかかわらず、二日間も電気が戻らない現状を早急に回復させることである。1は、上述のように発電機が頻繁に故障していたことに言及していると思われる。故障しがちな発電機を修理しながら使用していたが、何らかの不具合が発生し、ついに爆発を起こしたのだろう。しかし、爆発は大規模なものではなかったようだ。2にあるように、事情聴取が行われた時点で、すでに発電機の修理は完了していたことが窺える。この時点で問題となっていたのは、修理が完了した後も発電機が作動しなかったことである。

 

この会合で女性たちからの事情聴取を行ったのは、市長と伝統首長たちであった。彼らによる執拗な追求が行われた結果、妖術者であるとされた高齢女性たちは電気が直ちに戻るように手配したと書かれている。彼女たちは、もう二度とこのようなことをしないと誓ったという記載が続く。そして、事情聴取にあたった市長と伝統首長たちの電力会社への意見として、妖術者として名前をあげられた人びとが満足するように、贈り物は確実に行われるべきだという主張が記されている。

 

贈り物とは、妖術者たちからの電力会社に対する要求としてリストアップされた、諸々の物品のことである。大量の食料品、調味料、アルコール飲料、それにウシ一頭など、パーティーでも開催するかのような品々の他に、山刀などの日用品や現金も含まれており、総額で100万FCFA(日本円で約20万円程度)はくだらない物品の要求が13項目にわたってあげられていた。

 

妖術者とされた高齢女性たちは、この要求の根拠について二点に言及している。A.発電施設の導入にあたって、何らの正式な除幕式も行われなかったこと、B.高圧(線)があるために、彼女たちの「妖術の飛行機」をM市街から17kmも離れたN町に着陸させなければならず、そのため、バイクをレンタルしてM市街へ戻る必要があり、無駄な出費がかさんでいることである。

 

 

バイクは、住民の足として重要。未舗装路の長距離移動には欠かせない。

バイクは、住民の足として重要。未舗装路の長距離移動には欠かせない。

 

 

「妖術の飛行機」とは、妖術者が妖術の力で作り出す「飛行機」のことである。妖術を持たないものには乗ることはもちろん、目で見ることさえできないとされている。かつての妖術使いはフクロウやヤシの葉に乗って移動したというが、近頃の妖術使いは、「飛行機」に乗って、他の妖術者との会合に向かったり、フランスのパリまで観光に行ったりするといわれる。妖術業界にも、近代化と国際化の波が押し寄せているのだろうか。

 

これらの、いわば妖術者の言い分を記載した直後に、「格別なる敬意を表して」と結びの言葉が入り、報告書は終わっている。その下には、郡長の公印と自筆のサインが入れられており、これが正式な行政書類であることがわかる。

 

郡長の報告書からわかった停電事件の概要をまとめる。電力を止めたとされるのは、妖術者とされる高齢女性たちであった。彼女たちに対して、郡長は市長をはじめとする行政関係者や警察、憲兵、さらには伝統首長たちをまねいて、事情聴取の場を設けた。市長と伝統首長たちによる聞き取りの後、高齢女性たちは電気を回復させ、二度とこのようなことをしないと誓約しつつ、電力会社に対して多くの物品の要求を行った。これに対して、市長と伝統首長らはそれが確実に実行されることを電力会社に求めている。

 

しかし、報告書を読んだだけでは分からない点がいくつかある。一つ目は、事情聴取の対象であった高齢女性たちがいったい何者なのか、そして、なぜ妖術者として彼女たちの名前があげられたのかという点である。二つ目は、なぜ事情聴取を主に行ったのが市長と伝統首長たちであったのかという点だ。この会議に招集されたメンバーの中には、警察や憲兵の幹部もいたにも関わらず、彼らが事情聴取に関わったという記述はない。三つ目に、郡長がしたことについて何も書かれていない点である。報告書の記述を素直に読めば、郡長は参加者を招集し、自らのオフィスを会場として提供したということ以外には何もやっていないということになる。彼はこの会議の間、何をやっていたのだろうか。【次ページにつづく】

 

 

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