アラブ革命と詩――抵抗文化としての詩、歌、ラップ

二年前、

真昼の太陽のような大輪を咲かせた花

丘を失い、

枝すらも失った花

優しい手がその頬をなでることも

泉がその土を潤すこともない

だから、硝煙で汚された空気を吸って生きるしかなかった

(略)

あらゆる醜悪な可能性の前に扉を開け放った花

無力な花

通りに出ていった花

誰もそれを帰してやることはできない

母の腕の中へ/森へ

 

[イマードッディーン・ムーサー作『二年前からの花』より。レバノンのアル・ムスタクバル紙4634号(2013年3月17日)、シリア革命二周年特集ページ掲載]

 

2011年1月、チュニジアのベン・アリー元大統領を辞任に追い込んだ民衆デモは、短期間のうちに周辺アラブ諸国に広がり、「アラブの春」として世界の注目を集めた。あれから約3年、アラブの春が波及して反政府デモが始まったシリアは、出口の見えない泥沼の内戦状態に陥っている。

 

恐ろしい人道的災禍が日々報じられるシリアで、市民がどのような日常を送っているのか、ニュースからわかることは少ない。ましてや今のシリアでなお創作活動を続けているアーティスト達がいようなどとは、思いもよらないことかもしれない。

 

だが、たとえばこの夏にエジプトの出版社から新刊『この街の台所にナイフはない』を出した小説家のハーリド・ハリーファ。あるいはこの原稿の執筆現在(10月21日~11月24日)、ドバイのギャラリーで開催中の『Art Syria』という企画展に出品しているユースフ・アブダルキーをはじめとする画家たち。彼らは治安当局によって暴行や身柄の拘束を受けながらも、留まれるかぎりシリアに留まり、芸術表現を通じて強権支配に対する非暴力の抵抗の意思を示そうとしている。冒頭に抜粋を紹介した詩もその一例だ。作者は激しい戦場となったシリア第二の都市アレッポで、詩のウェブマガジンの発行を続けているという。

 

もちろん対立の構図が複雑に入り組んだシリアにあって、アーティスト達の政治的立場は一枚板ではありえない。また、ハリーファやアブダルキーのように、世界的な名声によって身を守られている者ばかりでもない。市民的抵抗を呼びかけた若いミュージシャンやグラフィティ・アーティストたちが、すでに何人も路上で命を落としている。

 

作品を通じて届けられる彼らの声は、吹き荒れる暴力の前では小さく無力であるかもしれない。だがそこからは確実に、ニュースからは伝わりきらない、現状に屈しまいとする生きた人間の存在を感じ取ることができるだろう。

 

 

革命の歌声

 

振り返って、2011年1月25日に始まり、2月11日にムバーラク元大統領を辞任に追い込んだエジプトの「1月25日革命」。18日間にわたってデモ隊が占拠した首都中心部のタハリール広場では、一体何が起きていたのか。日本の大手マスコミが、デモ隊と治安部隊との暴力的な衝突や流血の場面を断片的に伝える中、アルジャジーラをはじめとする国際的なニュースチャンネルやネットメディアは、解放区の様相を呈した広場に集まった多種多様な思想や階層、世代の市民たちが、旧体制への怒りと嘲り、犠牲者への哀悼、未来への希望、勝利への確信を、多様な身体的・言語的パフォーマンスを通じて表現する様を伝えていた。

 

シュプレヒコールやスローガン、歌、踊り、漫談、絵やオブジェの展示、装甲車の前での結婚式、集団礼拝するイスラーム教徒と彼らを取り囲んで防衛するキリスト教徒の輪。これらすべてが雄弁な革命勢力の声となり、広場に響き渡った。そして、それを象徴する『自由の声(http://youtu.be/Fgw_zfLLvh8)』という歌が生まれた。

 

 

「もう帰らないと言って僕は出てきた(…)夢だけが僕らの武器だった/目の前に明日は開けてる(…)この国のすべての通りから/自由の声がわきおこる」[nobuta氏による日本語訳(http://youtu.be/SJgjIsfPKmE)]。

 

 

若手ロックミュージシャンたちが共作したこの曲は、ムバーラク辞任の前日にユーチューブ上で発表され、ひと月ほどの間に世界中で100万回以上再生された。歌詞を書いたボードを実際のデモ参加者たちにプラカードのように持たせ、抗議行動の代表的な場面と組み合わせた映像を見ると、当時の広場の祝祭的な雰囲気がよみがえってくる。

 

この曲の後半には、その清々しいポップ・ロック調には少々不似合いな、だみ声での詩の朗読が挿入されている。声の主はアブドッラフマーン・アブヌーディ。齢70を超える、エジプトを代表する口語詩人だ。

 

 

「真偽を選り分ける エジプトの褐色の手たちが/雄叫びの中で掲げられ 枠を打ち壊す/群衆の声の輝き 陽光に照らされたエジプトを見よ/立ち去る時が来たのだ 老いぼれどもの国よ」。[『神奈川大学評論』69号(2011年7月)に山本による全訳掲載]

 

 

『広場』と題された100行以上にわたるこの詩は、ムバーラク辞任のおよそ一週間前、エジプトの衛星テレビ番組での電話中継で、詩人本人によって朗読された。国民的な大詩人がタハリール広場の若者たちを賞賛し、「立ち去る時が来たのだ 老いぼれどもの国よ」と大統領の辞任を呼びかけたことは大きな反響を呼び、それが『自由の声』における、若い世代の文化的創造力との融合に結実したのである。

 

 

 

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