2014.08.25

空き家率40%時代に備えよ! 田原総一朗が迫る、日本の空き家問題

『空き家が蝕む日本』著者・長嶋修氏に聞く

情報 #新刊インタビュー#空き家が蝕む日本#都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案

日本の空き家率は増加の一途――。7月に総務省発表によると、全国の「空き家率」は820万戸となり、総住宅数に占める割合が13・5%と過去最高を更新した。社会問題化しつつあるこの「空き家問題」に、どう対処すべきなのか。田原総一朗氏が、『「空き家」が蝕む日本』の著者・長嶋修氏にインタビューし、不透明な不動産取引の実態、「新築ありき」の政策や人口減少との関連など、「空き家問題」の本質に迫った。

都心部マンションの異様な空き家率、なぜ?

田原 まず、長嶋さんの『「空き家」が蝕む日本』を読んでびっくりしたのは、マンションの空き家率が、千代田区36%、中央区28%、荒川区19%。なんでこんなに高いんですか? 地方や東京の郊外ではね、古くなった公団住宅や都営住宅があって、空き家が相当あると聞いていたけど。

長嶋 はい。それは分譲マンションに限っての数字なのですが、都心のいい立地、千代田区とか中央区とかに、80年代後半から、ワンルームマンションがたくさん建ったんですね。

田原 ワンルームマンションというと何平米くらい?

長嶋 いま空き家になっているような当時の物件は、18平米から25平米くらいまででしょうか。いわゆる投資用のマンションです。買った方たちは、地方の公務員の方とか、遠方にいらっしゃるお医者さんとかで、自分は住まないで投資用として買っています。なので、不動産そのものにはあまり関心がありませんし、空き家になっても賃料を下げるようなこともしない方が多い。だんだん空き家になってしまうんですよね。

田原 最初から空き家なんですか?

長嶋 いえいえ。もちろん、新築のときは満室でスタートしているんですけど、建物が陳腐化し、老朽化していくなかで、本来は、お金をかけてきれいにするか、あるいは賃料を下げるか、なんらか経営努力をしないといけないのですが、そういうことをやらないわけですね。

田原 仮に千代田区のワンルームマンションで、20平米としますね、だいたい家賃はいくらくらいですか。

長嶋 6万円から8万円くらいでしょうか。

田原 空き家にしたままでは、一銭も入ってこないんでしょ。だったら家賃を下げるくらいはやればいいじゃないですか。4万だって3万だって、入ったほうがゼロよりはいい。

長嶋 そうなんですけども、これが不思議なんですね。あるアンケートによりますと、空き家にしている人たちの70%以上が「特に理由はなく空き家にしている」と回答しているんです。そもそも、投資用のマンションをお持ちの方は3万、4万円にこだわっていない人が多いんでしょうね。もうひとつは、マンションはあくまでも共有財産ですから、マンション全体の改修・補修などのリフレッシュをするには話し合いが必要です。でも、その話し合いがうまくいかないんですね。

田原 なぜ? 僕の知り合いのマンションでもやってますよ、20年、30年経つから新しくつくりかえる、補修しなきゃいけない、という話を。千代田区や中央区のマンションは、そういう話がうまくいかない?

長嶋 そもそも所有者全員がそこに住んでいるマンションでも、建て替えはすごく難しいですね。投資用マンションの場合は、所有者の皆さんが遠方に住んでいることも多く、なおさら難しくなりますね。

田原 なるほど。ただ、「空き家」の問題は、そういうマンションの話に限りませんね。これから人口が減ってきて、空き家はどんどん増える。この本に書いてあるんですが、「今年、小学校に入学したこどもが三〇歳を少しこえた頃に、三件に一件、三六%が空き家」になると。これはさっきの都心部のマンションの話ではないんですね?

長嶋 はい。これは一戸建てもマンションもひっくるめた日本全体の話で、野村総研の試算によりますと、2040年、26年後ですが、このままいくと36%から40%が空き家になる。「お隣は空き家」の時代です。

田原 大都市も地方の都市も関係なく?

長嶋 すべての地域の平均ですね。なので、実際には地方ではほとんど誰も住まないような自治体も出てくると思うんです。人が都市部へ都市部へと集まる流れが続いていますから。東京23区でも空き家対策をしている時代です。人が集まるような地域でも、そのなかでの格差が大きくなる。場所によっては、空き家率が20、30%になるというのは、もはや現実的な未来なんですよね。

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売り物件の査定額、どんなふうに決まるか?

田原 どうすればいいのかは大問題ですが、その前に、長嶋さんの本によると、価格査定にインチキがあると。どういうことですか?

長嶋 インチキというわけではないんですが(笑)。とにかく日本の住宅というのは建てた時、買ったときがいちばん高いですよね。買って人が住んだ瞬間から、物件は中古住宅マーケットに移ってしまうので、いきなり2割くらい下がる。2000万円のものがいきなり1600万円になる。10年でだいたい半値ですから、1000万円も下がり、25年でほぼゼロ、と。そういうことをずっとやっているんですね。

田原 いや、そんなことないと思うな。僕の住んでるマンションは、建って20年以上たつけど、ゼロじゃないですよ。

長嶋 それは立地がいいからですね。立地のいいマンション、あるいは物件総額の高いマンションは、中古になっても価値が下がらない唯一の市場なんですよ。それだけが例外なんですね。買ったタイミングもあります。それ以外の、99パーセントの物件、ふつうの郊外のマンションとか、郊外にある一戸建などは、今いったような市場になっています。

宅地建物取引主任者という不思議な資格

田原 なるほど。それにしても、マンションでも一戸建でも、買うのは一生に一度か二度という大きな買い物ですね。僕は9回くらい買ってんだけど(笑)。そういう一生に一度か二度の大事なものなのに、この本によると、不動産業界は実にいい加減だって書いてある。何がどういいかげんなんですか?

長嶋 価格査定のやり方をいいましたが、建物を具体的にチェックする人は、建物の専門家じゃないんですよ。なんの資格もなくてもできる。いまこの不動産の世界は宅地建物取引主任者という資格がありますが、その資格がなくてもできるんです。非常におおざっぱで、最後は「勘」と「経験」と「度胸」で決めるというような。みんなで意見して、2000万、2300万、2400万、じゃあ中とって2200万でいくか、と、そんな感じです。この業界に私が入る前は、査定の仕方にしてもなんにしても、もう少しきちんとシステムがあると思っていたんですね。

田原 宅地建物取引主任者というのは国家試験ですよね。それがないと不動産屋はできない?

長嶋 5人にひとりいればいいことになっています。ひとつのお店に5人にひとりの有資格者がいればいいので、4人は無資格でもいいんですね。

田原 宅地建物取引主任者というのは、相当難しい試験なんですか?

長嶋 そんなには難しくないです。一生懸命勉強すれば、1年、2年で取れるレベルだと思います。

田原 そういう国家試験があるわけね。それが5人にひとりいればいい。誰かがいないとそういうお店はつくれないわけね。

長嶋 つくれないことにはなっていますが、実務上は、無資格の人がやっています。表向きは、5人にひとり有資格者が全体の管理をすることになっていますが、現実にはそんなことやってないですよね。

田原 そうかあ。僕も不動産屋さんを相当何件も歩きましたけど、不動産屋さんに行くと、店の窓に、いくらいくらって、張ってますね、こういう物件は、実はないんですね。中に入ってあれが欲しいんだというと、あれはないんですよといわれる。

長嶋 いわゆるオトリですね。

田原 オトリですか。

長嶋 ええ。まあ、それは悪気のあるケースと、ないケースとあると思うんですが。(笑)

田原 何軒もいってね、あ、そうか、窓に張ってあるのはみんな、ないんだと。(笑)

長嶋 30年前は物件情報のデータベースもありませんでしたから。みんな紙で交換し合うか、人脈で物件情報をやりとりするしかなかったので、その名残がまだあるのかもしれません。この業界は、一発あててやるというような雰囲気が長く続いていましたが、最近は不動産も金融商品化しましたし、若い優秀な人が入ってくるようになりました。

田原 だいぶ変わってはきているんですか?

長嶋 はい。最近はリート、ファンドとか不動産が金融商品化、高度化してきましたし。

DSC00716 田原さん背中+長嶋さん

物件情報の囲い込みは、どこでも行われている?

田原 この頃はね、街の不動産屋さんには頼まなくて、東急とか三井とか、そういう大手の企業のやっているところに頼むようにしてるんですけど、大手はどうですか?

長嶋 たとえば、物件情報の囲い込みですが、大手系は自分たちはやっていないといっていますが、実際はやっているところもあると思いますね。

田原 囲い込みとはどういうことですか?

長嶋 ひとつの売り物件、売りマンションを預かったとすると、物件情報をコンピューターに登録して誰もが見られるようしなければいけないと義務付けられています。でも、おそらく多くの業者さんがそれをやっていないと思います。

田原 なぜ?

長嶋 自分たちでその不動産の買い手もみつけたいからです。まず、依頼主である売主さんから3%の手数料をもらいますいよね。自分たちで買う人もみつけることができれば、買い主からも3%もらえます。両方から3パーセントずつで手数料が6%になる。これを業界では「両手」というんですが、この両手取引をするために、他社が買い主をみつけてこないように、情報をネットワークに登録せず、囲い込むわけです。物件情報を隠し、自分の目の前に買いたい人が現れるまで待つんですね。

田原 囲い込むとどういう問題があるんですか?

長嶋 情報が広くいきわたりませんから、早く売れない。高く売れない。コンピューターのネットワークに登録すれば、他の業者さんのお客さんもみますし、競争倍率が急に高まるわけです。早く売れる可能性が高くなり、早く売れるということは、高く売れる可能性も出てくるんですよね。

田原 そうか。客がいっぱいいれば競合になるから、価格が上がる可能性が高いわけだ。

長嶋 ええ。その競争を回避しようとしているんですね。宅建業法で、こういうことはやってはいけないことになっています。

売りたいとき、買いたいとき、どこへ頼めばいいか?

田原 そうすると、たとえばマンションなり、住宅を売りたい、買いたいというときにはどこへ頼めばいいんですか?

長嶋 価格査定の見積もりは、2社か3社にお願いするのがいいと思います。

田原 ああ、数社にね。

長嶋 はい。そのなかで高すぎる価格査定をいうところはだめですね。

田原 ああ、だめですか。

長嶋 やはり相場というものがありますから。たとえば東京のマンションの場合ですと、相場価格よりも7%以上高くなると売りにくい。高すぎる査定を出すところは、自分たちに売り物件の依頼がほしいから、そういう査定をするんですね。それで、一回自分たちのものにしてしまったら、「いや売れません」、「売れません」と……。

田原 どんどん値をさげていくんだ?

長嶋 はい。けっきょく元の数字に戻ると。

田原 そこが問題。つまり素人が、売るのはだいたい素人ですからね、持っているものを売りたいというときに、物件のもとの値段や平均がどれくらいかとか、まったくわからないですよね。どうすればいいですか?

長嶋 相場を調べるには、国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営している土地総合情報システム(http://www.land.mlit.go.jp/webland/)というデータベースがあり、これが便利です。そのなかにお住まいの地域で、過去にどのマンションがいくらで売れたというのが入っています。

田原 そういうのがあるんですか。

長嶋 はい。これをみると相場はだいたい4000万円から4300万円だなというのが、ざっくりわかります。とくに東京あたりだと、売買物件の事例が多いので、だいたいどのエリアでも何十件も、あるいは3桁の情報が入ってるんですね。

田原 それをまずみる。

長嶋 その上で、複数の不動産屋さんに査定を出してもらい、高すぎるところは外し、あとは自分の気に入ったところを選べばいい。そのときに、「物件情報の囲い込みはしませんよね」と念をおして、それを聞いてくれる業者さんだったらいいですね。

田原 そのデータベースは、買うときもそれをみればいいんですね。それをみれば、この地域の、これくらいの広さのマンションはいくらくらいと、わかりますか。

長嶋 わかります。

不動産取引にも求められる、セカンドオピニオン

田原 相場はわかったとして、不動産業者の信用度はどうやって見分ければいい?

長嶋 ひとつは都道府県庁にいきますと、その業者さんがいままでに罰金を払うようなことをしたとか、宅建業法に違反したことがあるかどうかという履歴は見せてもらえます。ただ、問題はそこまでの犯罪的なことというよりも、もうちょっといい加減なレベルの仕事っていうのがたくさんあって……

田原 そうですよね。

長嶋 そこはもう、口コミとか紹介とかで探していくしかないですよね。過去に不動産の売り買いをして、実際によかったか悪かったか、そういう経験のある人……。

田原 知り合いですね。そういう人に聞く。あるいは、それがまさに長嶋さんがやっていらっしゃる仕事?

長嶋 はい。私たちさくら事務所では、業者さんとの利害関係のないところで、その人にとってのベストの選択肢を提案させていただく、ということですね。

田原 そういう不動産コンサルタントは、たとえば東京にはどれくらいいるんですか?

長嶋 東京で、10人いるか、いないかくらいでしょうか。

田原 それじゃ、だめだ。とてもみつけられない。(笑)

長嶋 まだまだ少ないですね。わたしがやりはじめたのは15年くらい前です。個人にとっては大きい売り買いをするわけですから、お医者さんの世界と同じで、セカンドオピニオン、第三者の相談やアドバイスがぜったい必要だと思ったんですよ。でも、当初三年くらいは、まったくだめでした。最近でこそ、うまくいくようになりましたが。

田原 最初はお客さん、いなかった?

長嶋 ほぼゼロですね。一年目の売り上げが70万、2年目が150万でした。(笑)

仲介手数料は値引きできるか?

田原 もうひとつね。不動産屋さんは大手と街の不動産やさんとどちらに頼むのがいいですか。

長嶋 それはどちらにもメリット、デメリットがあります。大手の仲介業者さんは、契約書類や社内のコンプライアンス、あるいは人材の質も、ある程度、一定のレベルでそろっているというのはありますね。ただ、それでも情報の囲い込みはゼロではありませんが。デメリットとしては仲介手数料は値引きはしてくれないですね。

田原 値引きしない。

長嶋 しないところが多いです。一方で中小の不動産業者さんは、これはもう、本当にぴんきりです。なかには大手顔負けの優秀な人、非常に優れたエージェントが、ときどきいたりします。ただ、やはりばらつきが大きいですね。手数料については値引きに応じてくれる可能性はこちらのほうが大きいです。

田原 中小のほうがね。

長嶋 はい。仲介手数料は物件価格の3%ですが、3%というのは上限が3%ですよと、通達で決まっているだけで、本当は2%でも1%でもいいんです。

田原 そういうもんなんですか。

長嶋 はい。ですから本来は、値引きの交渉ができるんですけどね。

空き家を用途移転し、活用する方法

田原 なるほど。「空き家」の話にもどります。ふたつお聞きしたい。まずは都心のマンションの空き家対策、これはどうすればいい?

長嶋 ひとつは、民間のNPOのような組織を、行政がバックアップするなどして、空き家を用途転換して活用してもらう、ということですね。

田原 どういうこと?

長嶋 すでに始まっていますが、たとえば、世田谷区。世田谷もいま、空き家がけっこうあるんですね。その空き家を民間のNPOのようなところが借り上げて、高齢者の方が集う場にしたり、あるいは子どもを預かる場所をつくったりとか、そういう取り組みですね。

田原 空き家保育園とか、ね。駒崎弘樹さんなんかが、やってますね。空き家をみつけてそこで保育園、あれは「おうち保育」っていうのかな。

長嶋 そういう取り組みに自治体が補助金を出して支援するとという動きが最近、少しずつ出てきました。もうひとつは、空き家というのは、結果じゃないですか。空き家が増えていく、その原因に対処しないといけないですね。

DSC00734 長嶋さん正面

増え続ける空き家、最大の元凶とは?

田原 何が原因ですか。

長嶋 そもそも空き家がどんどん増えていくのは、新築をつくりすぎているからですよね。戦後から高度成長へ、新築をたくさんつくって買ってもらおうという政策だったわけですが、それがいまだに続いているんですよ。

田原 マンションなんて、あっちこっち、どんどん建ってますね。

長嶋 いまや、一戸もつくらなくたって、人口が減少しているわけですから、空き家は増えます。なのに、まだ新築をどんどんつくっている。この過剰な新築建設がとまらないのは、日本が無計画だからですね。

田原 どういうことですか?

長嶋 OECDに加盟しているような国は、世帯数がこのくらいで住宅数がこれくらいある。だから、十年間でこのくらいの新築をつくりましょうという住宅供給計画、建設計画をつくっているんですよね。日本はそれがありません。

田原 ない?

長嶋 はい。高度成長のときに、とにかくいっぱいつくれと、その延長線上でやっています。「去年100万戸つくった、今年も100万戸より多くつくれればいいねえ」という感じで。

田原 それについては、国土交通省はどういう方針なんですか?

長嶋 もちろん国土交通省でも、こういった状況はわかっているんですが、ただ彼らも組織人としては難しいところです。新築の業界団体に先輩がいますし。

田原 天下っているわけだ。

長嶋 彼らともうまくやりつつ、自分たちのやりたい仕事をやろうとすると、今すぐ新築は減らしましょうとは、なかなか、いえない。いまは中古住宅とリフォーム市場を伸ばしましょう、そういう段階ですね。

田原 どういうことですか?

長嶋 新築住宅の着工件数を一気に減らせれば、それがいちばんいい。でも、すぐには難しいので、新築のほうはそのままにしておき、まずは未整備な中古市場を整備することからやりましょう、ということです。すでにある住宅、中古住宅の価値を見直し、空き家もうまく活用していこう。そういうことを一生懸命やっています。これは今、官僚が本当にがんばっていまして、2013年、14年、15年くらいで、かなり大きい改革が行われあることになっています。いま、やっています。

田原 さきほどの、中央区や千代田区のワンルームマンションの問題は?

長嶋 そこはまだ、手つかずですね。国土交通省が、いまいちばん問題視しているのは、団塊世代の方が60代、70代となって、さらに十年、二〇年すると、いなくなってしまう。主に都心から30キロ、40キロの、いわゆる郊外のベッドタウンが空き家だらけになってしまう、ということです。

田原 いまもうすでになってますよね

長嶋 はい、ますます加速度的に空き家が増えるのをどうしようかと。これについては、空き家の活用方策として、高齢者の方の介護とか看護のステーションとして活用できないかという案は、いまひとつ出ています。

田原 具体的にどういうことですか?

存続をかけ、街の選別が始まる時代

長嶋 サポートが必要な高齢者の方がたのための場として、そこで効率よく介護とか看護ができるよう、運営組織などがそこを借り上げる、国がそれを支援するという案ですね。それ以外には、これといったものはまだ見当たりません。

いずれにせよ、中長期的には、すべての郊外住宅地が従来の形で生き残ることは無理なので、人の住む環境を整える街とそうではない街を、もう、はっきり分けましょうと。それができるようにする法案が通ったたんですよ。「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」というもので、自治体が居住調整地域を都市計画に定めることができるようにする。要するに、居住誘導を可能にしたわけですね。

田原 どういうことですか?

長嶋 この地域は税金も投入するし、場合によっては容積率もあげる。人が住むように快適な状況をつくるけど、この道路一本はさんでむこうは何もしません、と。

田原 その区分けは、誰がどうやってやるんですか?

長嶋 決めるのは各基礎自治体です。いままでのような、だだっ広い街づくりはもうできない。人が住むところと住まいないところ、その線引きをして、この道路のどこまでなんだというのをそれぞれの自治体で決めてくださいということです。道路のこちら側は、容積率もあげますし、上下水道のインフラもちゃんと整備します、税制も優遇しますよ、と。

田原 だけど、そういうことを自治体が決めるときにね、「何もしない」側に住んでいる人がOKしますか?

長嶋 そこは民度が問われるところだと思いますね。実はドイツが、もう30年くらいまえからこの「線引き」をやっているんです。

田原 やっているんですか。

東西ドイツ統合後の「空き家対策」に学ぶ

長嶋 はい。東西ドイツが統一したときに、東から西に大量に人が移っているんですよね。旧東ドイツの都市部が空き家率、30%、40%、50%になりました。これはもうどうしようもないので、さっき言ったような線引きをして、この線のなかに住んでくださいということやったんですね。30年前にこの取り組みを実現させた地域は、いますごくよくなっています。反対にできなかった地域は、だらだらと衰退してしまっているというのが実情です。

田原 区画の外、居住エリアから外れた地域はどうなったんですか?

長嶋 しばらくは我慢して住んでいても、やがてだんだん指定された区域内に移っていきます。

田原 そうすると、そこは無人区になる?

長嶋 長期的にはほぼ無人になります。もちろん居住は自由なので、何人かは住んでいます。でも、基本的にはエリア内に住んでいるほうが便利ですし、不動産の価値も維持されやすい。路面電車が通っていたり、ショッピングセンターなどもぜんぶこのなかにある。わざわざ不便な生活をすることはない、そういう状況をつくっているんですね。

田原 なるほど。ドイツは、わりあい皆が白か黒か、イエスかノーか、はっきりする国民だからできるでしょう。でも、日本は難しいでしょう。

長嶋 はい。ただやっぱりドイツでも、決まらずに線引きができなくてという地域もありました。

田原 日本ではいつから始まるんですか?

長嶋 この改正法は、8月中に施行されます。

田原 今年の8月?

長嶋 そう、今月です。これを受けて各市区町村で議論が始まる。線引きをするのか、しないのか、するとしたら、いつごろどこにするのか、という話し合いですね。まあ、……たぶん、1年や2年じゃ決まらないと思いますが。

田原 何年くらいでやるんですか?

長嶋 自治体次第で、何年とは決まっていません。早ければ3年くらいで決まるところもあるでしょうし、決まらないところは10年経っても決まらないと思うんですよね。

でも、この問題がすでに切実になっている、たとえば夕張市などは、若い市長が事実上の線引きをして、がんばっています。同じことがこれから全国で行われる、ということなんですね。

DSC00722 田原さん正面

空き家対策のための、新たな議員立法

田原 さてふたたびお聞きしたい。これから人口減少の時代ですね。長嶋さんの本に書かれていますが、このままいけば、2040年には約40%が空き家になる――。どうすればいいんですか?

長嶋 日本にはいま、6063万戸の住宅があるんですね。その住宅のなかで、もう壊したほうがいいものと、直せば住めるものと、どんどん切り分けていったほうがいい。今年の秋に提出される予定の議員立法があるんですが、それは、たとえば建物が傾きかけて危ないとか、あるいは街の景観を著しく損なうようなものについては、補修するように、あるいは解体するように、自治体が勧告や命令ができるようにする、というものです。従わない場合には、各自治体で建物を壊すことも可能になり、その取り壊し費用をあとから請求することもできる。そういう法案を、自民党の議員立法で通そうとしているんですね。

田原 野党はどういう態度ですか

長嶋 野党も、これに反対することはまずないと思いますね。

それともうひとつの対策は、やっぱり、5年間なり10年間なりの間につくる新築の数をどのくらいにするか、目安を決めるということですね。そうでないと止まらないですから。

田原 でも、国土交通省の先輩たちが新築業界に天下っているから、制限するのはむつかしいっておっしゃいましたよね。

長嶋 そういう事情もあります。とにかく新築業界団体が、政治的に、とにかく強いのは確かです。ですから、国会議員にしても、あんまり新築抑制しろとはいえない……。

新築を抑制するには、もはや外圧が必要?

田原 自治体の議員って、だいたい土建業とか不動産業者が多いじゃないですか、市会議員とか、県会議員とか、区会議員とか。

長嶋 おっしゃるとおりです。ですから、自分たちで業界をシュリンクさせる方向へ舵を切るということは難しいでしょうし、なかなか進まないですよね。外圧が必要なのかもしれません。

田原 その場合の外圧って、何ですか?

長嶋 うーん……。具体的に空き家が増えすぎて、問題がもうあちこちで頻発して、社会問題化するとか、そういうことでしょうか。

田原 たとえばね、TPP、つまり農業の自由化、農業の国際化、競争を入れるということに対して、農協が大反対している。だから政治家が、これでOKしないとアメリカがまともにとりあってくれない、しょうがないんだといっているわけですね。外圧だということで、やる。だけど、実はその多くは、「霞ヶ関発ワシントン経由の外圧」だという。つまり外圧という形にして、農協やなんかを押さえ込む、と。不動産の場合はどうすればいい?

長嶋 まさにまったく同じことを今、やっています。霞ヶ関発ワシントン経由の……。

田原 やってるんですか。たとえばどういう?

長嶋 日米不動産協力機構というのがあってですね。表向きは学識経験者が議論する場になっているんですけど、事実上、あの……ええ、「外圧が欲しいよね」ということでつくられた組織なんですね。

田原 なるほど、ああ、そういうもんなんだ。

長嶋 それ、できたのは去年ですね。

田原 へえ。去年、それは自民党がつくったんですか?

長嶋 自民党というよりも、国交省の官僚が導いた感じですね。

田原 ああ、外圧をつくったんだ。(笑)

長嶋 まったくおなじです。(笑)

人口減少時代の新しい日本の姿

田原 ところで将来の日本の姿ですけどね。とにかく人口が減って、1億を切り、9000万、8000万になる。そのときの日本列島、日本をどんなふうにイメージしてますか?

長嶋 元岩手県知事の増田寛也さんが日本創成会議というのをやっていますね。これから人口がどうなるのという問題についても……。

田原 ああ、こないだ報告が出ていましたね。要するに2040年には日本の市区町村の約半分がなくなるってやつね。

長嶋 はい。なぜならそれは若い女性がいなくなってしまうから。地方だけではなく、23区内でも東京の豊島区なんかは、「消滅可能性」があるといわれていますね。豊島区ではこの前、区長が記者会見をして、若い人たちを呼び込む仕掛けをつくる、と。

田原 どうやって呼び込むの?

長嶋 補助金を入れて、いまある空き家を魅力的にして、若い人に住んでもらおう、古い建物をリノベーションして利用してもらおうとか。そういう町おこしをやりますと。

田原 増田寛也さんの話によると、たとえば秋田県なんて秋田市自体がなくなるといっている。県庁所在地もなくなっちゃう。

長嶋 へたするとそこまで行くと思うんですね。そうならないためには、人がまばらに住んでいるのを集中させ、そこに住んでもらう。これを国交省はコンパクトシティ政策といっていますが。

東京への人口移動、止めるには何が必要か?

田原 とにかく、みんな東京や大阪へいっちゃう。人が出て行かないようにする、あるいは帰ってきてもらう、そのためにどういうことをすればいいんですか。

長嶋 仕事がないとダメなんですね。いくらいま、東京で働いている人が地元で暮らしたいといっても、仕事がなければ話にならない。

田原 そうなんですよね。雇用をどうやってもってくるか。

長嶋 難しいですよね。ただ、ドイツの例でいいますと、凝縮度の高いコンパクトな街に集まって住むことで、たとえばマンション一階がぜんぶ店舗になっている。ここに店舗を出すと、そこでみんな日用品の買い物をします。人が集まることで生まれる仕事もあるわけですね。とにかく不動産業界、住宅業界、わたしたちにできることは、人が集まる仕掛けです。ドイツや北欧、あるいは富山県富山市でもやっていますが、まんなかに人を集めて路面電車を敷き、高齢者の方は一日中乗っても100円ですよとか、ここに家を建ててくれたら100万円の補助金を出しますとか、家賃補助をしますとか。そんな政策をつくっているんですよね。

田原 大前研一さんがね、中央集権はやめるべきだといっています。このままじゃ大企業がみんな東京へ来ちゃう。大阪までだめになっている。地方分権にして、それぞれの特徴を生かして、大阪は大阪、九州は九州でやろう、州をつくろうと、アメリカみたいにね。

長嶋 道州制ですね。

田原 それから、橋本さんのいった大阪都とかね。あるいは東北六県で、とか。そこでどういう産業をつくるか、思い切って中央集権という形を変えないと、将来、どうしようもないんだっていってるんですがね。

長嶋 ドイツなんかも、地方の官僚がすごく優秀なんですね。なんで優秀かっていうと、地方分権が進んでいるので、自分の地元で仕事をすることが楽しいからなんですね。

田原 そうなんだよね。ドイツはね、地方分権が進んでいますね。

大前さんがいっているのは、たとえば九州にはハブ空港がない。板付(空港)は市街地に近いけれども、ハブじゃないから、けっきょく九州の人がヨーロッパにいこうとすると、韓国のインチョン(仁川国際空港)まで行く。だから、九州にハブ空港やハブ港をつくろうと。あるいは北海道は、雪が降ってスキーができて、温泉がある。しかも便利、こんなところは世界にない、と。だから北海道にハブ空港やハブ港をつくろうというわけです。さらに、北海道に観光に来てくれたら、長く滞在してもらえるようにしようというんですね。今の日本の旅館とかホテルは、みんな一泊二食なんですよ。するとねえ、ホテルに3日間いるとね、おんなじもん食わされるわけだ。だから、5日とか一週間いられるような、観光計画をつくろうじゃないか、そういうことをいってますね。

長嶋 ハブ空港をつくるのは大賛成です。

全体像のなかで「空き家問題」をとらえなおす

田原 そう考えていくと、長嶋さんの商売は面白いじゃないですか。設計図をいろいろ描いていけばいいんだから。これからどうするか。

長嶋 そうですね。けっきょく不動産や住宅の問題は、たとえば移民をどうするか、労働力をどう確保するか、成熟経済をどうするかといった、国の形をどう描くのかという全体像の中で決まっていくことなので、「空き家」ばかりに対処していてもだめなんですよね。新築をつくり続けるなら移民を受け入れるのかとか、そういう議論をすべきだし、いえ議論というよりも、それを具体的に実行する時期に、とっくにきているんですよね。

田原 ところで、長嶋さんみたいな不動産コンサルタントの協会はあるんですか?

長嶋 まだ協会ができるほどの業界にはなっていないです。

田原 日本に何人くらいいる?

長嶋 日本に100人いないと思います。

田原 100人いりゃあ、協会できるじゃないですか。

長嶋 そうですか。(笑)そうですかね。

田原 きのう大阪にいきましてね、井岡っていうね、元のボクシングの世界チャンピオンと会って、ガッツ石松もいっしょだったんだけど、世界チャンピオンの協会があるっていってましたよ、日本に。

長嶋 へえ、そうですか。

田原 何人いるんだって聞いたら、77人いるんだって。77人でできるんだから、100人いればできるでしょ。

長嶋 そうですか……。不動産コンサルタント協会、ですね。

田原 ねえ、面白いと思うんだ。そういうところでね。新しい動き、運動を起こしていかないと。がんばってください。

長嶋 ありがとうございます。

プロフィール

田原総一朗ジャーナリスト

1934年滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒。岩波映画製作所、テレビ東京での勤務を経て、77年、フリーのジャーナリストに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ』、『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。著書に『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』、『日本政治のウラのウラ 証言・政界50年』(講談社)、『誰もが書かなかった日本の戦争』、『私が伝えたい日本現代史 1934-1960』、『私が伝えたい日本現代史 1960-2014』(ポプラ社)などがある。

この執筆者の記事

長嶋修不動産コンサルタント

不動産コンサルタント。さくら事務所会長(創業者)。不動産デベロッパーの支店長を経て、1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社である、株式会社さくら事務所を設立。現会長。国土交通省、経済産業省などの委員を歴任。2008年、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度をめざし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長。他の著書に『「マイホームの常識」にだまされるな! 知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年 不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)などがある。

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