税金は有効に使われているか?――政策評価の現状と課題

消費税の増税をはじめ、税の負担が重く感じられる機会が多くなるのと同時に、その納めた税金が有効に活用されているのか、今まで以上に敏感になっておられる方も少なくないと思われる。視点を変えれば、税金を用いた「政策」がその費用にみあう効果を得られているのか、「評価」することの重要性がより一層増しているともいえる。

 

わが国の「政策評価」は、政策の必要性については定性的な評価が多く、アウトプット(結果)・アウトカム(成果)の指標についても、「それが経済的にどれくらいの価値があるのか(貨幣価値に直してどの程度の額になるのか)」という評価をしているものが少ないのが現状である。政策の効果を貨幣換算して、政策に伴う費用と比較する手法は「費用便益分析」と呼ばれているが、その普及が十分に進んでいない。また、政策担当者が評価も担当しているが、適切な動機づけや客観性の担保がなければ、評価することの効果が表れにくく、膨大な労力が無駄になりかねない。

 

本稿では、わが国の政策評価が何をするものなのか、何が行われているのかといった現状を簡単にご紹介するとともに、費用便益分析の概略を解説する。多くの方に政策評価や費用便益分析に興味を持っていただき、公共部門の「外部」の目が肥える(そのことを通じて政策評価そのものの質が向上する)ことを願っている。

 

 

わが国の政策評価の現状

 

わが国における政策評価は、「各府省が、自らその政策の効果を把握・分析し、評価を行うことにより、次の企画立案や実施に役立てるもの(総務省、政策評価Q&A)」と定義されている。こう聞くと、例えば道路を造ったら、その建設費用に見合うメリットがあるのか否か、といったことを各省庁の政策ごとに検討して、費用に見合う政策が選択・実施されているかのようにも読めるが、必ずしもそうではない。「政策評価」はもう少し広い意味を持っている。

 

政策評価制度における「政策」は、「特定の行政課題に対応するための基本的な方針の実現を目的とする行政活動の大きなまとまり」のことであり、「政策」を実現するための具体的な方策や対策を「施策」という。「施策」を具現化するための個々の行政手段の基礎的な単位となるものを、「事務事業」と呼び、「政策」、「施策」、「事務事業」全体で「政策体系」と呼んでいる(総務省、政策評価Q&A)。したがって、われわれの多くがイメージするであろう、個別具体的な「政策」はここでは「事務事業」のことを指している。

 

これを踏まえつつ、わが国の政策評価の方式を見てみると、主に、「事業評価」、「実績評価」、「総合評価」の3つに分類される(言葉づかいの話が続いて恐縮だが、ここを整理しておかないと話がかみ合わないことになるので、もうしばらくご辛抱願いたい)。

 

「事業評価」は、主に個々の「事務事業」を対象として、その事業を採択するか否かの判断材料とするためのものである。その事業によって期待される政策の効果や、事業の実施に伴う費用を計測、推定するのが主な作業になる。

 

「実績評価」は主として「施策」や「政策」を対象とし、あらかじめ設定しておいた達成目標や業績指標が達成できているかを評価するものである。

 

「総合評価」は、「政策」について、政策の決定後一定期間経過した段階で、政策の効果や問題点について、「さまざまな観点から」「総合的に」評価するものである。

 

総務省の「政策評価ポータルサイト」からリンクをたどっていくと、各府省が行っている政策体系の一覧と、政策評価の結果を見ることができる。一覧表には、当該省庁が担当する分野の政策目標、施策目標、施策の事前の分析、「施策」の評価書、行政事業のレビュー、政策評価の調書といった項目別に膨大な情報が掲載されている。

 

一番細かいレベルの行政事業のレビューを見てみると、一定のフォーマットに従って、事業名、目的、概要、予算額、アウトプット・アウトカムの指標、資金の流れ等が記述されている。また、国費投入の必要性、事業の効率性、事業の有効性、重複排除等のチェック項目についての評価もなされているが、その多くは定性的な評価にとどまっている。

 

そもそも、「必要性がある」と思って立案している政策・施策・事業なのだから、その担当者に必要性を言葉で記述させても(説明責任を果たそうとする姿勢としてはよいのかもしれないが)、「必要でない」という結論は出てこないであろう。事業の特性によってはやむを得ないものもあるが、本来であれば、アウトカムが政策の有無でどの程度変わってくるのか、またそのことは貨幣の価値に直してどの程度なのか(「便益」がいくらか)、といったことを数値で定量的に示さないと、「投入した税金に見合っているか」はなかなか見えてこない。

 

例えば、「地球温暖化対策として××を実施すれば、二酸化炭素(CO2)排出量を○%削減できる」というだけではなく、「二酸化炭素(CO2)排出量を○%削減でき、××億円の便益が生じる」といったことを示すことができれば、「それに対して投入した税金が△△億円で、炭素1トンを削減するのに■■円の費用がかかっている」、といったことを示すことができ、よりクリアな評価になる。また、同種の施策・事業どうしの比較も、貨幣換算にしておけば、容易に可能になる。

 

道路投資のような公共事業については、事業費が10億円以上であれば、事前の評価が政策評価法(行政機関が行う政策の評価に関する法律)によって義務付けられている。公共事業の評価では、必要な事業費と事業によってもたらされる便益(貨幣換算できない時は効果)とを比較している。これらは、「費用便益分析」あるいは「費用対効果分析」と呼ばれ、先に挙げた「政策評価ポータルサイト」では、「公共事業に関する評価実施要領・費用対効果分析マニュアル等の策定状況」として、各種公共事業のマニュアルが作成・公表されている。

 

道路の場合には、工事費、用地費、補償費といった道路整備に要する事業費と維持管理費を「費用(Cost)」とし、「走行時間短縮」、「走行経費減少」、「交通事故減少」の効果を貨幣換算したものを「便益(Benefit)」として[*1]費用便益分析を行っている。便益を費用で割った値(費用便益比、B/C)が1以上であるかを、費用に見合う道路かどうかの基準としている。

 

[*1] 経済学的観点からは、これを便益とするには問題がある。その点については、城所(2008)を参照されたい。

 

こういったマニュアルに基づいてどのようなことが行われているのか、評価結果が妥当かどうか、といったことを知るためには、費用便益分析の基礎に関する理解が必要である。以下ではその概略についてごく簡単に紹介する。詳細については、金本他(2006)やBoardman et al. (2010)、長峯(2014)などを参考にされたい。

 

 

費用便益分析

 

■便益と費用

 

費用便益分析でいう「費用」は、「いくら予算を使うか」、「いくらお金がかかるか」という、会計上の費用ではなく、「金銭評価していくらに相当する資源を使うか」という経済学的な費用である。また、政策実施主体が費やす費用だけではなく、社会全体でどの程度の費用が必要かという「社会的費用」である。ただし、経済学的な費用は計測するのが困難な場合が多いことや、広く一般に理解されるのがなかなか難しいこともあって、実務上では使用する予算を「費用」とすることが大半である。

 

会計上の費用と、経済学的な費用、社会的費用の違いについて、身近(?)な例で考えてみよう。ある会社が、週1回朝の1時間、全社員を動員して、会社周辺の清掃活動を行うことを義務化したとする。このことに伴う「費用」は何であろうか?

 

会計上の費用に着目すると、清掃道具やごみ袋を買い揃える費用が挙げられる。清掃活動キャンペーン用の幟を作ったりすれば、その費用も含まれる。一方、経済学的な費用はそれにとどまらない。勤務時間内に清掃活動を行えば、新たな人件費は発生しないので、会計上の費用はゼロである。しかし、全社員が通常業務を1時間行えば、どの程度の生産活動を行えたのであろうか。ごく単純に考えて、少なくとも

 

(1時間当たりの人件費)×(社員数)

 

だけの成果は生み出せたはずだ。清掃活動を行うことによってその分の成果が失われるので、これも清掃活動の費用(機会費用)とみなすのである。

 

清掃活動によって周辺環境が改善されるので、実施主体以外の人には費用は発生せず、むしろ「便益」が生まれている。もし、ある活動によって(市場取引を経由しない形で)周辺に負の影響があれば、それを金銭換算したもの(「外部費用」)を含め、「社会的費用」とよぶ。

 

われわれがガソリンを購入して車を利用する場合を例に外部費用を考えてみよう。ガソリン価格には、売り手側の費用(「私的費用」)が反映されているが、ガソリンの燃焼に伴って発生するCO2がもたらす地球温暖化の費用(被害額や対策費用)、排気ガスによる大気汚染の費用などは、ガソリン価格には反映されていない(一部は税金として政府が徴収し、それらの費用の支払いなどに充てている)。つまり、ガソリン市場での取引が、ガソリンの売り手ではない人にも費用を発生させていて、買い手はその人に対して直接何かを支払っているわけではない。この場合に、ガソリンの売り手ではない人が被っている費用が外部費用である。

 

費用便益分析では、費用に見合う便益が政策によってもたらされるか、を判定するものであるから、社会全体にとっての費用すなわち社会的費用と、社会全体にとっての便益とを比較する必要がある。したがって、「会計上の費用」では不十分である。

 

一方、「便益」に関しては、会計上の「収入」との違いが誤解されやすい。「便益」は、「この政策には意味がある」というときの「意味」を貨幣換算したものであり、道路であれば、「みんなが便利になった」ことの価値を金額表示したものになる。したがって、道路料金収入が費用を上回るか否か、といった採算性と、費用が便益を上回るかどうか、といった政策の効率性とは全く意味が異なる。さらに言えば、政策を行うかどうかは費用と便益を比較すればよく、採算がとれるかどうかは関係がない。採算が取れるなら民間主体がやればよく、政策として行う必要はない。採算がとれないと「もったいない」とか「無駄だ」と感じがちであるが、それが本当に「もったいない」のか、「無駄」なのかを判断するのが費用便益分析である。

 

もう一点、よく誤解されるのは、費用便益分析はあくまでも「効率性」を測る指標に過ぎないということである。したがって、政策を実施するかどうかを自動的に判定する道具ではない。また、便益に地域間の格差是正といった項目を入れ込むなど、「衡平性」あるいは「公平性」といった考え方を混ぜると、何を評価しているのかわからなくなってしまう。【次ページにつづく】

 

 

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