『参院と連立』の政治に備えよ  

いうまでもなく、鳩山内閣退陣の直接的な理由は、「政治とカネ」問題、迷走した米軍基地移設問題にあった。しかし近年の日本政治のトレンドから敷衍してみるならば、参議院と連立政治が民主党政権にとっての大きな足かせとなっていたことが理解できる。そして、少なくともいまの民主党政権の姿勢が変わらないかぎり、それは今後とも大きな問題となりつづけるだろう。

 

 

参議院は「衆議院のカーボンコピー」ではない!

 

まず、よくいわれるようには、参議院は決して「衆議院のカーボンコピー」などではない。

 

同意がなければ政策変更が不可能になる機関やアクターのことを、政治学では「拒否権プレイヤー」などと称する。そして先進デモクラシー国のなかで日本の参院は、きわめて有力な「拒否権プレイヤー」なのである。

 

たしかに日本国憲法は衆院の優越を定めているが、参院の議決をオーバーライドするには、3分の2以上の多数決での再可決、さらにいわゆる「60日ルール」(法案送付から61日以上を経ないと再可決できない)の存在など、ハードルは極めて高い。

 

 

政権の帰趨を左右する参議院

 

参院選で、時の政権が苦しめられることも珍しくない。自民党は改選数の過半数獲得に89年、95年、98年、07年と立てつづけに失敗しており、1989年の参院選敗北を受けて当時の宇野内閣が退陣、その後も98年には橋本内閣、そして07年には安倍内閣退陣を帰結させたことは記憶に新しい。

 

自民党の下野は、07年の「ねじれ国会」の時からカウントダウンに入っていたとさえいえるかもしれない。

 

安倍内閣で生まれた「ねじれ国会」を引き継いだ福田内閣は、民主党との「大連立」に失敗すると、道路特定財源や、参院の同意が必要な日銀総裁人事で袋小路に追い込まれた。もちろん、最終的に退陣の引き金を引いたのは、インド洋での給油活動延長法案の衆院での再可決を渋った連立パートナーの公明党だった。

 

実際、93年の細川内閣以降、日本では「自社さ」「自自公」「自公」、そして「民社国」と、連立政権が常態化している。民主党が社民・国民新党と組まざるを得なかったのは、ひとえに参院での単独過半数に欠いたからである。

 

 

参院選と連立政治というファクター

 

ここに、参院選と連立政治という、日本政治での重要なファクターが出揃う。そして、鳩山内閣もまた、連立(社民の離脱)と参院選(選挙目前)というふたつのファクターによって退陣させられたとみることができる。

 

2010年の参院選の行方は、まだ確定的ではない。

 

そればかりか、本来的には有権者の選択に委ねられるべき争点は、各政党間で似通ったものになり(消費税論議も自民と民主で共有されるようになった)、選択肢を奪うような状況になっている。

 

しかし、これまでの経緯をみるかぎり、「二大政党制」にもとづく「多数派デモクラシー」のベクトルに逆らう、参院と連立政治の要素からなる「多党制」と「多元的デモクラシー」を踏まえなければ、現実政治での効率的な政策運用も、安定した政権基盤も望めないということは、少なくとも過去20年の政治が証明している。

 

仮に民主党が今夏の参院を制することができても、3年後の参院選で再び「ねじれ」が生じる可能性は否定しきれない。

 

 

アプリオリに批判される連立政治

 

問題は、政治の理念と運用との間に大きな齟齬があるために、連立政治や参院の意義が政治家や世論のなかで共有されていないことにある。

 

社民や国民新党などの小政党がそれぞれの政策に固執すること、あるいは参院が拒否権を発動することは、マスコミや世論からの批判を招きがちだが、これらは政治勢力の特定の配置や憲法規定から生じる結果であるのだから、アプリオリに批判されるべきものではない。

 

それにも係らず、政治家が十分な説明責任を果たさないために、本来、連立政治や参院のもつ正統性は脆弱なものとなり、これが理念と現実との距離をますます広げる悪循環を生んでいるのだ。

 

「大連立」を経験したドイツをはじめ、連立政治を恒常的に経験しているヨーロッパの国々においては、連立形成やその運営に際して、入念な交渉や準備を怠らず、有権者や党支持者に対するアカウンタビリティを確保しようとしている。こうした実態と比べればなおさらのこと、日本政治の貧しさが浮き彫りとなる。

 

 

政治的リーダーシップとは何か?

 

官僚組織や派閥・族議院の権力が削がれたことで、政治リーダーへの民主的圧力はますます強くなっている。世論調査政治がこれまで以上に幅を利かすようになったのもそのためだ。これに対する応答性を政治は備えなければならない。

 

他方で、政治的リーダーシップとは、党派や立場を超えて関係する人々の合意を可能な限り多く取り付けることで、政策の実効性を模索していくことでもある。

 

「政権交代」が持った可能性は、何も参院での安定多数を実現することだけでなく、この理念と現実とを粘り強く摺り合わせていくことでも開けることを、忘れてはならない。

 

 

推薦図書

 

 

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マスコミを含め、参議院の位置づけについては、なかなか明確にされない。その責任の一端は、日本政治の研究者にある。本書は、これまで長らく等閑に付されてきた参議院の歴史や機能について包括的な紹介と解説を施し、実践的な提言にも踏み込んだ労作。参院については、衆院の「カーボンコピー」であるとする立場と、反対に「強い参議院」であるとする対極的な立場とが交錯してきたが、ともに時代状況や現実政治の過程に強く影響されてきたとして、そのバイアスを訂正して正確な実態を描き出しているところが特徴だろう。一体何に対して一票を投じるのかを知らなければ、どのように投票したらよいのかは解らない。本書はそのための有用な手掛かりを提供してくれるはずである。

 

 

 

 

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