なぜ人は疑似科学にはまるのか?その心理的メカニズムと対策を考える

水素水、性格診断、EM菌――。科学的根拠がないにもかかわらず、あたかも科学的に正しいと実証されたように見せかける疑似科学。なぜ人々は疑似科学にはまってしまうのか? 疑似科学にはまらないためには、どのような心構えが必要なのか。明治大学教授・石川幹人氏にお話を伺う。2016年05月20日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「なぜ人は疑似科学にハマるのか?」より抄録。(構成/大谷佳名)

 

■ 荻上チキ・Session22とは
TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

疑似科学とは何なのか?

 

荻上 今日のゲストは、『なぜ疑似科学が社会を動かすのか ヒトはあやしげな理論に騙されたがる』の著者で、明治大学教授の石川幹人さんです。よろしくお願いします。

 

石川 よろしくお願いします。

 

荻上 石川さんは、2014年に「疑似科学とされるものの科学性評定サイト」を立ち上げられました。これはどのようなサイトなのでしょうか。

 

石川 最近ではEM菌や血液型性格診断など、科学者の目から見ると科学とは言えないようなものが市民の間にたくさん広まっています。そうした疑似科学と疑われるものを評定し、それらの「科学性」を推し量ろうという試みを行っています。

 

一般の方々には、疑似科学と科学の区別がよく理解されていない現状があります。研究者としてもその線引きは難しいのです。ですから、どれくらい科学性があるのかという観点で評定することが重要になります。現在では一般市民の方々からリクエストがあった34項目について、いくつかの条件で評価し、「科学」「発展途上の科学」「未科学」「疑似科学」という四段階で判定しています。

 

荻上 ホメオパシーやハンドヒーリング、牛乳有害説などは「疑似科学」と判定されている一方で、温泉やアニマルセラピーは「発展途上の科学」とされているなど、読むだけで楽しめるサイトですね。サプリメントについて検証しているコーナーでは、コエンザイムQ10を「未科学」とされています。これらの判定にはどういう意味があるのでしょうか。

 

石川 「疑似科学」は、実際のところ科学とは言えない上、過度に効果を謳って商品を売るなどの社会的な問題をもはらむので、「科学でない」と明言するほうがよい、というものです。「発展途上の科学」とは、暫定的には科学と言えるが、今後の研究によってはそうではなくなる可能性もあるということ。「未科学」とは、今のところ科学とは言えないが、将来にわたって研究を積み重ねた結果、科学と言える段階に進む可能性があるということです。

 

荻上 私たちはどういったものを科学的だと考えれば良いのでしょうか。

 

石川 まず理論があり、それを確かなものにするデータが存在することが重要です。さらに、その理論とデータが科学者の間で一定の評価を得ていることが必要です。

 

荻上 なるほど。まずは効果がきちんと示されているかどうかを検証することになるわけですね。今日は、疑似科学とはどういうものなのか、実例を挙げながらお話を伺っていきたいと思います。

 

 

怪しげな水ビジネス

 

荻上 最近は「水素水」がブームになっていますよね。

 

石川 はい。私が集中的に調べてサイトに公開しているのは、「活性水素水」と呼ばれるものです。これは、水を電気分解して陰極側に発生する水の成分を集めたものです。抗酸化作用があり老廃物を排斥してくれるなどの効果を謳って売られています。しかし、その効果を示すデータは十分ではなく、私たちは「疑似科学」と判定しています。

 

ちなみに水素水は、「電解還元水」「アルカリイオン水」などの名前で過去に売られていたものと基本的には同じものです。

 

荻上 名前を変えてより新しい商品として販売しているわけですか。

 

石川 「水素」という言葉が旬だということもあると思います。燃料電池など、水素が新しいエネルギー源になると言われると、水素は良いものなんだというイメージが先行しますよね。

 

荻上 さきほどの抗酸化作用とはどういうものなのですか。

 

石川 体の中で酸素に関わる悪さをする物質をブロックする働きです。水素に抗酸化作用がありそうだという研究は実際にあります。たとえば試験管の中で実験をすると、水素の作用で細胞内の抗酸化物質が減らせたというデータはある。しかし、細胞レベルで現象がつかめたとしても、人間の体ではどうでしょうか。まだそのレベルでは研究が積めていないので、一般の市民の方に応用する段階ではないと言えます。

 

荻上 そうした段階で、これだけ水素水ブームが起きてしまっているのはなぜなのでしょう。

 

石川 人間の体の多くの部分が水であるということで人々の直感が働き、水を大事にすると健康に良いはずだという気持ちになるのだと思います。

 

しかし科学者から見ると、水道水は浄化機能がしっかりしているのに対し、適当なところから取ってきたような天然水は、そもそも管理面での懸念があるのではという意見さえあります。

 

しかも、水道水と同じくらいの値段であればそれほど問題にはならないのですが、非常に高価な値段で売られている場合も多いです。水素水以外でも、「○○水」と名付けていろいろな水ビジネスがありますよね。

 

荻上 水に関わる疑似科学としては、「水からの伝言」についてもサイトで取り上げられていますね。

 

石川 これは学校の道徳教材としても取り上げられた言説です。水を冷やして結晶をつくったときに、水道水だと醜い形になるが、天然水では綺麗な六角形ができる。さらに、水にクラシック音楽を聴かせたり、感謝の言葉を語りかけると、水道水でも綺麗な結晶が作られるという主張です。

 

学校では「感謝の言葉は大事だ」という情操教育の一部として使われたようですが、これはよく考えてみると、過剰な科学主義とも捉えられます。そもそも日常のコミュニケーションにおいて感謝の言葉が大事だというのは当たり前のことです。それを、体内の水への働きという物理的なレベルで効果があるから大事なのだと主張してしまうと、人間より物が大事だという考えを植え付けてしまう恐れもあると言えます。

 

まず科学として誤っているし、人間性を考える上でもおかしい。この問題は重大だと判断すべきだと思います。

 

荻上 一方で「良い話なんだから問題ないじゃないか」という反論もありますよね。僕もよくネット上の流言を検証するサイトを作ったりすると、美談系のデマに関してはそうした反応が多いです。しかし、本当に教育効果を考えるのであれば、何が事実か見極める力を育てることも重要であり、適切な知識ではないものが教育現場で使われていることの是非も問わなければいけませんね。

 

石川 その通りです。

 

荻上 水ビジネスといえば、以前、近所のスーパーで「波動水」というものが売られていました。調べてみると、他の水より電子の波動の力が多く含まれているので健康に良いのだとか。怪しいなあと思ったのですが、結構売れていたのでびっくりでした。

 

石川 実際には電子の波動は確率的な波なので、直接にそれを感知することもできません。それが水に込められているというのは、物理学の成果を誤用し、あたかもそれに則っているかのように見せかける疑似科学であると断言できます。

 

荻上 さまざまな手法で水は疑似科学の温床になっていますね。経済的な観点から考えると、水ビジネスは原価計算がやりやすく、高く売れるということで手をつけやすいという点もあるのでしょう。疑似科学をすんなり信じこんでしまう感覚って何なのでしょうか。

 

石川 科学で検証されているかどうかよりも、日常的な直感を大事にしてしまうことが問題の根源かなと思います。つまり、人間の気持ちというのは日常生活がある程度上手くいけばいいやという感覚が普通になっていて、そのレベルの判断がどうしても優先されてしまうのです。

 

石川氏

石川氏

 

 

拡大する「EM菌」信仰

 

荻上 さて、つづいて取り上げる疑似科学は「EM菌」です。

 

石川 EM菌とは、「Effective Microorganism(有用微生物群)」という造語の頭文字をとったものです。有機肥料に相当するような、土地の改良に効果的な働きを微生物がやってくれるという主張です。この効果については疑う余地はなく、農業用には活用できるだろうと思います。

 

荻上 その効果が過度に誇張されているのが問題なのですね。

 

石川 はい。疑似科学に多いパターンなのですが、部分的に有用な効果が認められると、別のところにも効果があるぞとどんどん拡大していってしまう。EM菌に関しては環境浄化から発展し、抗酸化作用などの健康増進から放射線除去まで効果があると広く伝えられてしまっています。

 

荻上 有用微生物群といっても、その中には効果が疑わしいレベルの微生物が含まれることも考えられますよね。

 

石川 はい。微生物とは刻々と量が変わるものです。この量の問題もかなり重要で、たとえば「EM菌を団子状にしたものを川に撒くと水が綺麗になる」と言われたりしますが、何個撒けば綺麗になるのかは理論化されていません。すると、撒いたけど効果が表れないときに、「もっと撒かなければいけないんです」という話になってしまうわけです。

 

荻上 こんなメールが届いています。

 

「私は医療の現場を離れて10年近く経ちますが、当時から研究者の間ではEM菌のいかがわしさが問題視されていました。しかし、その効果についての論文はなかなか発表されませんでした。メディアの宣伝によってのみ、その『効果』が信じられているという実情でした。現在、東南アジアにまでEM菌信仰が拡大していると聞きます。なぜこれほどEM菌が信じられるのでしょうか。」

 

石川 やはり、科学者の思いが一般の人になかなか届かない、科学コミュニケーション上の問題が大きいと考えられます。科学の成果は私たちの衣食住の安全に大きく貢献していますが、それを一般市民はあまり認識することができないのです。

 

荻上 私も以前、街でパッと目についたのが、クリーニング屋さんの「EMクリーニング」という広告でした。微生物の力でより洋服が綺麗になるというものだそうですが、これを扱うクリーニング屋さんは日本中にあるみたいです。

 

石川 「EM菌」という言葉が一種のキャッチフレーズとして広まっています。名前は商標に登録されていなければ自由につけられるのです。私の調べたところでは、たとえば「草津の湯」という入浴剤があります。これは草津温泉とは何の関係もないんです。

 

こうした部分は企業側の良識や責任の問題であって、あとは消費者がきちんと調べる姿勢が必要ということになります。【次ページにつづく】

 

 

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