スペースデブリ、宇宙のごみ問題の解決策を探る!

JAXAのH2Aロケットの発射を始め、各国が宇宙開発で盛り上がっている。その一方で、使わなくなった人工衛星やロケットの破片がごみとして宇宙空間を漂い、人工衛星に衝突する事故も起きている。深刻化する宇宙ごみ、スペースデブリ問題。その現状と対策について、専門家の方に伺った。2017年1月26日放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「スペースデブリ、宇宙のごみ問題の解決策を探る!」より抄録。(構成/増田穂)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →https://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

小さくても危険な宇宙ごみ

 

荻上 本日のゲストをご紹介します。JAXAでスペースデブリ対策を研究されている加藤明さんと、科学ジャーナリストの松浦晋也さんです。よろしくお願いします。

 

加藤・松浦 よろしくお願いします。

 

荻上 加藤さんはいつ頃からスペースデブリの問題に携わっていらっしゃるのですか。

 

加藤 平成5年からです。当時NASAが宇宙ステーションで有人活動を始めることになりましたが、スペースデブリが宇宙ステーションに当たると大変危険なので、NASAを筆頭にスペースデブリをどうにかしようという動きが世界的に起こりました。それでNASDA(JAXAの前身)でもデブリの発生を防止するための管理要領書をつくろうと、衛星・ロケット製造企業、関連研究機関や大学などから専門家を招いて検討委員会を立ち上げ、NASAに続いて世界で二番目のスペースデブリ発生防止標準を制定しました。

 

この標準作成の動きを世界的なものにしようと、デブリの国際学会(IADC: Inter-agency Space Debris Coordinating Committee)に同種の国際ガイドラインを作るよう提案し、2003年には制定することができました。この文書をベースに2007年には国連のスペースデブリ発生防止ガイドラインも採択され、関心が高まってきています。現在は国際標準化機構(ISO)にてデブリ関係の国際規格の作成に参加しています。

 

荻上 松浦さんはスペースデブリの問題に関してはどうお考えですか。

 

松浦 スペースデブリの問題が国際的に取り上げられるようになったのは、今加藤さんがおっしゃったように、NASAの有人活動計画がきっかけですが、その前にも問題に注目されている方はいらっしゃいました。日本だと1番早くて1990年ごろ、宇宙科学研究所の長友信人先生が研究を始められています。ですから日本だと30年くらいの歴史がありますね。

 

荻上 そのスペースデブリ、定義のようなものはあるのでしょうか。

 

加藤 定義上は「宇宙に存在する人工の非機能的物体」、つまり役に立たない物体のことです。大別すると、使用済みの衛星やロケット、そこから放出された部品類、衛星・ロケットが破砕して発生した破片などになります。

 

破片は爆発事故や何らかの目的で意図的に破壊された時に発生した破片のことですが、これがデブリ全体の64%を占めており、最も多いです。対策としては、破壊行為の禁止や破砕事故の防止が必要になります。

 

ロケットと衛星を切り離すときに、締結部分の部品がごみとなる場合もあります。これが放出部品とよばれるもので全体の5%程度です。残りの30%のうち、20%が衛星、10%が衛星を打ち上げたときのロケットの機体です。以上を含めて宇宙には地上から観測され、公表されている人工物体が約18,000個あります。このうち機能している衛星は5%ほどと言われています。この他に軍事衛星や発生源が特定できない破片類など、公表されていないものが約6000個以上あると報告されているので、それらを含めると24,000個以上と考えられます。

 

スペースデブリは秒速7kmという速さで軌道上を回っています。性能のいいピストルの弾が音速(秒速340m程度)をやや超える程度、ライフルでも秒速1000mですから、ものすごい速さです。これが正面衝突でぶつかるとなったらその倍の衝突速度になりますから、どれだけ危険か、ご想像できると思います。例え10cmのデブリでも、衛星を粉々にできるだけの破壊エネルギを持つことになるんです。

 

2007年には中国が地上からミサイルで破壊する実験を行いましたが、その時は地上から検知できる10cm以上の破片だけでも3000個以上が発生しています。1cm級になると、米国のレーダが一瞬検知しただけでも、16~17万個発生していると報告されています。1mm級となったら無数に存在するでしょう。

 

 

加藤氏

加藤氏

 

荻上 細かいものでも危険なんですか。

 

加藤 衛星の構造部の表面は主にアルミニウム製のハニカム・パネルでできていますが、直径100~200μm(0.1~0.2 mm)ぐらいのデブリでも貫通してしまいます。また、太陽電池パネルと衛星本体を結ぶ電源ケーブル等は外部に露出しているので、100μmくらいの微小デブリが衝突しても短絡を起こす可能性があります。

 

荻上 デブリは半永久的に軌道上を回っているのでしょうか。

 

加藤 軌道上の物体は大気抵抗で徐々に落下してきます。宇宙は真空状態で永遠に軌道に載ったままだと思っている人もいるかもしれませんが、実は高度800km位までは薄い空気の層があるので、その抵抗で徐々に落ちてきます。高度400kmだと1年くらいで落下します。ですから宇宙ステーションも放っておけば1年ほどで落ちてしまうんです。物体の大きさと質量の関係にもよりますが、高度600kmだと20年から30年、800kmだと100年の単位の時間がかかります。

 

中国は高度800kmの上空で破壊実験を行いましたので、100年間以上は危険な破片が飛び交うことになってしまっています。その破片が別の衛星に当たってまた破砕が発生すると、倍々で危険なものが増えていってしまう。そうなると宇宙開発どころではなくなってしまうかもしれません。

 

荻上 実際に衝突した事例もあるんですか。

 

松浦 衝突の事例として1番ショッキングだったのは、2009年にロシアのコスモスとアメリカの通信会社イリジウムコミュニケーションズの衛星が衝突したことですね。衛星同士の衝突はこれが初めてで、関係者の間には衝撃が走りました。

 

荻上 これだけの速さで浮遊しているとなると、衝突を予想することは難しいのでしょうか。

 

加藤 アメリカが宇宙物体の軌道を観測するために、世界中に設置したレーダや光学望遠鏡で構成される宇宙監視網を運営しているので、例えば高度2000km以下の軌道であれば10cm以上の大きさのデブリの軌道は把握できます。その範囲で衝突を予測することは可能です。その軌道データの多くはインターネットで世界に公表されていて、低軌道のものですと、2、3日に1回はデータが更新されます。

 

また、もし運用中の衛星がぶつかりそうになれば、アメリカが無償で注意報を出してくれます。日本の場合だと、JAXAが米国の宇宙戦略司令部と協定を結んでいるので、物体の接近注意報だけでなく、より危険な場合の衝突警報も発信してもらえ、それら警報が出たら、日本側で持っている衛星の正確な軌道データを米国に送って、より詳細な解析をしてもらい、回避先の軌道を決めて回避します。回避先に別の衛星があったら困りますから、回避先の安全も確認する必要があります。そうした面でもサポートを受けています。この技術も段々習熟してきて、回避に必要な加速量も少なくて良いようになり、負担は徐々に減ってきています。

 

ただ、先ほど申し上げた通り、衛星は超高速で周回しています。最初の衝突注意報は1週間くらい前には出さないと回避が難しいでしょう。専門家は突然2日前に注意報が出されたのではちょっと遅いくらいだと言っています。

 

 

日常生活へ支障の可能性

 

荻上 デブリの増加によって引き起こされる問題とはどんなものなのでしょうか。

 

加藤 デブリが増加すると軌道上の物体同士の衝突の確率が上がります。運用中の衛星に事故があれば、例えばGPS衛星が被害を受ければ日常生活にも支障をきたすことになるでしょう。

 

荻上 SFでは破片と破片がぶつかり更なる破片ができる連鎖反応、いわゆるケスラーシンドロームが起こり、スペースデブリで軌道上を囲まれてしまって、宇宙活動が困難になるといった話もありますが、現実的にありうるのでしょうか。

 

加藤 このまま何も対策をとらないと、いずれはそうなると懸念されています。国連で制定したスペースデブリ発生防止のガイドラインなどでは、ケスラーシンドロームを未然に防ぐため、使い終わった衛星を混雑する軌道域から除去することなどを求めています。これを遵守するのが重要ですね。

 

また、日本でも宇宙活動法という法律ができました。その下に認可法ができまして、現在宇宙活動、つまり衛星やロケットを打ち上げるときの認可要綱が練られています。この規定の中に、デブリを発生させないという規定が入れられると、さらなる抑制につながると考えています。

 

荻上 ケスラーシンドロームが起これば、宇宙で活動する宇宙飛行士にも危険が及ぶわけですよね。

 

加藤 ええ。宇宙ステーションは直径1cmm以上のデブリの衝突には耐えられず、宇宙服も0.1mm程度のデブリで貫通します。

 

荻上 スペースデブリは年間でどのくらい地球に落下しているんですか。

 

加藤 年によって違いますが、300~500個くらい落ちています。ほとんどは小さな破片類ですので、大気圏再突入後に溶けてしまいます。衛星、ロケットなどのシステムレベルの大きな物は年に100個くらい落下しています。それらの中には完全に溶けないものもあり、例えばアメリカのデルタ2ロケットは、タンクがステンレス製なのでテキサスの砂漠に落下し、大きく報道されました。他にも個体ロケットのモーターケース、エンジン部品などが地球上で発見されています。幸いにしてそれが誰かにあたって被害を受けたという報告はありません。

 

各国のデブリの発生防止ガイドラインでは、落下時に人に当たる確率を低くするよう要求しています。衛星やロケットが年に100個落下してきても、100年間は誰にもあたらないくらいの基準が定められています。

 

荻上 スペースデブリが土星の輪のようになる可能性はあるのでしょうか。

 

加藤 世界のさまざまな機関が地球を取り巻くデブリの周回状況を画像で発表しています。それらを見ると、高度2000km以下の低軌道域は全体にデブリの雲で覆われているように見え、静止衛星軌道の高度36000kmの付近にはドーナツ状の雲の帯があるように見えます。土星の輪のようにも見えます。

 

荻上 スペースデブリが隕石から地球を守ったり、紫外線を防止したり、何かメリットになることはないのでしょうか。

 

加藤 隕石や紫外線を防ぐとなると、よほど分厚くスペースデブリが集積するようにならないといけませんが、そのような事態になったら太陽光線も遮られて、別の意味でもっと大変なことになるでしょう。【次ページにつづく】

 

 

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