2017.07.24
スペースデブリ、宇宙のごみ問題の解決策を探る!
JAXAのH2Aロケットの発射を始め、各国が宇宙開発で盛り上がっている。その一方で、使わなくなった人工衛星やロケットの破片がごみとして宇宙空間を漂い、人工衛星に衝突する事故も起きている。深刻化する宇宙ごみ、スペースデブリ問題。その現状と対策について、専門家の方に伺った。2017年1月26日放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「スペースデブリ、宇宙のごみ問題の解決策を探る!」より抄録。(構成/増田穂)
■ 荻上チキ・Session22とは
TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →https://www.tbsradio.jp/ss954/
小さくても危険な宇宙ごみ
荻上 本日のゲストをご紹介します。JAXAでスペースデブリ対策を研究されている加藤明さんと、科学ジャーナリストの松浦晋也さんです。よろしくお願いします。
加藤・松浦 よろしくお願いします。
荻上 加藤さんはいつ頃からスペースデブリの問題に携わっていらっしゃるのですか。
加藤 平成5年からです。当時NASAが宇宙ステーションで有人活動を始めることになりましたが、スペースデブリが宇宙ステーションに当たると大変危険なので、NASAを筆頭にスペースデブリをどうにかしようという動きが世界的に起こりました。それでNASDA(JAXAの前身)でもデブリの発生を防止するための管理要領書をつくろうと、衛星・ロケット製造企業、関連研究機関や大学などから専門家を招いて検討委員会を立ち上げ、NASAに続いて世界で二番目のスペースデブリ発生防止標準を制定しました。
この標準作成の動きを世界的なものにしようと、デブリの国際学会(IADC: Inter-agency Space Debris Coordinating Committee)に同種の国際ガイドラインを作るよう提案し、2003年には制定することができました。この文書をベースに2007年には国連のスペースデブリ発生防止ガイドラインも採択され、関心が高まってきています。現在は国際標準化機構(ISO)にてデブリ関係の国際規格の作成に参加しています。
荻上 松浦さんはスペースデブリの問題に関してはどうお考えですか。
松浦 スペースデブリの問題が国際的に取り上げられるようになったのは、今加藤さんがおっしゃったように、NASAの有人活動計画がきっかけですが、その前にも問題に注目されている方はいらっしゃいました。日本だと1番早くて1990年ごろ、宇宙科学研究所の長友信人先生が研究を始められています。ですから日本だと30年くらいの歴史がありますね。
荻上 そのスペースデブリ、定義のようなものはあるのでしょうか。
加藤 定義上は「宇宙に存在する人工の非機能的物体」、つまり役に立たない物体のことです。大別すると、使用済みの衛星やロケット、そこから放出された部品類、衛星・ロケットが破砕して発生した破片などになります。
破片は爆発事故や何らかの目的で意図的に破壊された時に発生した破片のことですが、これがデブリ全体の64%を占めており、最も多いです。対策としては、破壊行為の禁止や破砕事故の防止が必要になります。
ロケットと衛星を切り離すときに、締結部分の部品がごみとなる場合もあります。これが放出部品とよばれるもので全体の5%程度です。残りの30%のうち、20%が衛星、10%が衛星を打ち上げたときのロケットの機体です。以上を含めて宇宙には地上から観測され、公表されている人工物体が約18,000個あります。このうち機能している衛星は5%ほどと言われています。この他に軍事衛星や発生源が特定できない破片類など、公表されていないものが約6000個以上あると報告されているので、それらを含めると24,000個以上と考えられます。
スペースデブリは秒速7kmという速さで軌道上を回っています。性能のいいピストルの弾が音速(秒速340m程度)をやや超える程度、ライフルでも秒速1000mですから、ものすごい速さです。これが正面衝突でぶつかるとなったらその倍の衝突速度になりますから、どれだけ危険か、ご想像できると思います。例え10cmのデブリでも、衛星を粉々にできるだけの破壊エネルギを持つことになるんです。
2007年には中国が地上からミサイルで破壊する実験を行いましたが、その時は地上から検知できる10cm以上の破片だけでも3000個以上が発生しています。1cm級になると、米国のレーダが一瞬検知しただけでも、16~17万個発生していると報告されています。1mm級となったら無数に存在するでしょう。
荻上 細かいものでも危険なんですか。
加藤 衛星の構造部の表面は主にアルミニウム製のハニカム・パネルでできていますが、直径100~200μm(0.1~0.2 mm)ぐらいのデブリでも貫通してしまいます。また、太陽電池パネルと衛星本体を結ぶ電源ケーブル等は外部に露出しているので、100μmくらいの微小デブリが衝突しても短絡を起こす可能性があります。
荻上 デブリは半永久的に軌道上を回っているのでしょうか。
加藤 軌道上の物体は大気抵抗で徐々に落下してきます。宇宙は真空状態で永遠に軌道に載ったままだと思っている人もいるかもしれませんが、実は高度800km位までは薄い空気の層があるので、その抵抗で徐々に落ちてきます。高度400kmだと1年くらいで落下します。ですから宇宙ステーションも放っておけば1年ほどで落ちてしまうんです。物体の大きさと質量の関係にもよりますが、高度600kmだと20年から30年、800kmだと100年の単位の時間がかかります。
中国は高度800kmの上空で破壊実験を行いましたので、100年間以上は危険な破片が飛び交うことになってしまっています。その破片が別の衛星に当たってまた破砕が発生すると、倍々で危険なものが増えていってしまう。そうなると宇宙開発どころではなくなってしまうかもしれません。
荻上 実際に衝突した事例もあるんですか。
松浦 衝突の事例として1番ショッキングだったのは、2009年にロシアのコスモスとアメリカの通信会社イリジウムコミュニケーションズの衛星が衝突したことですね。衛星同士の衝突はこれが初めてで、関係者の間には衝撃が走りました。
荻上 これだけの速さで浮遊しているとなると、衝突を予想することは難しいのでしょうか。
加藤 アメリカが宇宙物体の軌道を観測するために、世界中に設置したレーダや光学望遠鏡で構成される宇宙監視網を運営しているので、例えば高度2000km以下の軌道であれば10cm以上の大きさのデブリの軌道は把握できます。その範囲で衝突を予測することは可能です。その軌道データの多くはインターネットで世界に公表されていて、低軌道のものですと、2、3日に1回はデータが更新されます。
また、もし運用中の衛星がぶつかりそうになれば、アメリカが無償で注意報を出してくれます。日本の場合だと、JAXAが米国の宇宙戦略司令部と協定を結んでいるので、物体の接近注意報だけでなく、より危険な場合の衝突警報も発信してもらえ、それら警報が出たら、日本側で持っている衛星の正確な軌道データを米国に送って、より詳細な解析をしてもらい、回避先の軌道を決めて回避します。回避先に別の衛星があったら困りますから、回避先の安全も確認する必要があります。そうした面でもサポートを受けています。この技術も段々習熟してきて、回避に必要な加速量も少なくて良いようになり、負担は徐々に減ってきています。
ただ、先ほど申し上げた通り、衛星は超高速で周回しています。最初の衝突注意報は1週間くらい前には出さないと回避が難しいでしょう。専門家は突然2日前に注意報が出されたのではちょっと遅いくらいだと言っています。
日常生活へ支障の可能性
荻上 デブリの増加によって引き起こされる問題とはどんなものなのでしょうか。
加藤 デブリが増加すると軌道上の物体同士の衝突の確率が上がります。運用中の衛星に事故があれば、例えばGPS衛星が被害を受ければ日常生活にも支障をきたすことになるでしょう。
荻上 SFでは破片と破片がぶつかり更なる破片ができる連鎖反応、いわゆるケスラーシンドロームが起こり、スペースデブリで軌道上を囲まれてしまって、宇宙活動が困難になるといった話もありますが、現実的にありうるのでしょうか。
加藤 このまま何も対策をとらないと、いずれはそうなると懸念されています。国連で制定したスペースデブリ発生防止のガイドラインなどでは、ケスラーシンドロームを未然に防ぐため、使い終わった衛星を混雑する軌道域から除去することなどを求めています。これを遵守するのが重要ですね。
また、日本でも宇宙活動法という法律ができました。その下に認可法ができまして、現在宇宙活動、つまり衛星やロケットを打ち上げるときの認可要綱が練られています。この規定の中に、デブリを発生させないという規定が入れられると、さらなる抑制につながると考えています。
荻上 ケスラーシンドロームが起これば、宇宙で活動する宇宙飛行士にも危険が及ぶわけですよね。
加藤 ええ。宇宙ステーションは直径1cmm以上のデブリの衝突には耐えられず、宇宙服も0.1mm程度のデブリで貫通します。
荻上 スペースデブリは年間でどのくらい地球に落下しているんですか。
加藤 年によって違いますが、300~500個くらい落ちています。ほとんどは小さな破片類ですので、大気圏再突入後に溶けてしまいます。衛星、ロケットなどのシステムレベルの大きな物は年に100個くらい落下しています。それらの中には完全に溶けないものもあり、例えばアメリカのデルタ2ロケットは、タンクがステンレス製なのでテキサスの砂漠に落下し、大きく報道されました。他にも個体ロケットのモーターケース、エンジン部品などが地球上で発見されています。幸いにしてそれが誰かにあたって被害を受けたという報告はありません。
各国のデブリの発生防止ガイドラインでは、落下時に人に当たる確率を低くするよう要求しています。衛星やロケットが年に100個落下してきても、100年間は誰にもあたらないくらいの基準が定められています。
荻上 スペースデブリが土星の輪のようになる可能性はあるのでしょうか。
加藤 世界のさまざまな機関が地球を取り巻くデブリの周回状況を画像で発表しています。それらを見ると、高度2000km以下の低軌道域は全体にデブリの雲で覆われているように見え、静止衛星軌道の高度36000kmの付近にはドーナツ状の雲の帯があるように見えます。土星の輪のようにも見えます。
荻上 スペースデブリが隕石から地球を守ったり、紫外線を防止したり、何かメリットになることはないのでしょうか。
加藤 隕石や紫外線を防ぐとなると、よほど分厚くスペースデブリが集積するようにならないといけませんが、そのような事態になったら太陽光線も遮られて、別の意味でもっと大変なことになるでしょう。
進む除去実験
荻上 スペースデブリはどのような方法で除去するんですか。
加藤 まずは除去する対象物を決め、アメリカの宇宙監視網のデータでその軌道を捕捉します。それに向かって除去衛星と言われるものを打ち上げます。除去衛星はじりじりと対象物体に近づき、対象物体の周囲を周回しながら、対象物体の動きや保持し易い部位の位置を探ります。
対象物体の状態を把握できたら、今度はそれを捕獲する行動に出ます。捕獲する方法としては、銛を打ち込む、投網で包みとる、ロボットアームで捕まえるなどいろいろありますが、ここで問題になるのは、対象物体がスピンしている場合です。姿勢が安定していれば検知も捕獲も比較的簡単になるのですが、廃棄された衛星やロケットの多くがスピンしている様子が観測されています。捕獲する衛星は2トンとか、大きいものだと5トンくらいあります。対する除去衛星は500kgもありません。オオカミがゾウを捕まえようとするようなもので、そのままつかみかかっても逆に振り回されてしまいます。ですので賢い除去方法としては、まずは姿勢が安定している物体に狙いを定めてそこから除去していくということが必要です。
荻上 捕獲後はどうするのでしょうか。
加藤 低軌道のものであれば進行方向に対して逆方向の推進力を与えて高度を降下させる、静止軌道であれば運用中の衛星と衝突しないように上空に再投入します。高度を下げる方法としては、JAXAが1月28日から実験を行うテザー方式の他にも、小さなエンジンを噴射して逆推進力で減速する方法や、イオンエンジンという電気的推進装置を使う方法もあります。軌道が低ければ帆を広げて大気抵抗を利用して落下させる方法もあります。こうしたさまざまな方式が各国から提案されていますが、今のところ本格的な除去に成功した国はないです。
荻上 今後の宇宙開発は使わなくなった衛星をどうするのかという観点も含めて計画していかなければならないですね。
加藤 そうですね。軌道に放置してから後で除去するというのは経済的にも技術の面でも大きな課題があります。すでにデブリとなってしまった物体に関しては、除去するしかありませんが、これからの宇宙開発では役目を終えた衛星やロケットはできるだけ早期に落下させるように操作していかなければならないですね。
荻上 さまざまなデブリ対策が検討されているようですが、松浦さんはこうしたことを取材されていて、どのようにお感じですか。
松浦 基本的に回収や引きずりおろしは技術的に非常に難しいんです。だから最初からデブリを出さないことが重要になってきます。ロケットも衛星も設計段階からデブリを出さないように設計し、運用するべきです。実際日本のH2Bロケットでは、軌道に入る際に補給船を切り離してから、ロケットはもう1回逆噴射をかけて、あらかじめ設定した海域に落としてしまうということをやっています。
荻上 1月28日からはJAXAが「こうのとり」を使ってデブリ除去の実験を行うそうですね(1月26日放送時点)。
加藤 ええ、今回の実験では、先ほどご紹介した、テザー方式で高度を下げる技術の一環で、テザーと呼ばれる導電性の長い紐を伸展させて種々の機能を確認する実験です。
荻上 どのような方法で高度を下げるのですか。
加藤 導電性テザーで逆推進力を与える方法です。「こうのとり」からテザーと呼ばれる長いひもを降ろし、そこに電流を流します。地球には地場がありますから、地場の中で電流が流れると、テザーには「ローレンツ力」と言われる力が働きます。その力を利用して大型デブリに逆推進力を与えて、落下させようというものです。
荻上 ローレンツ力の利用、ですか。
加藤 高校の実験などで、向かい合った磁石の間にブランコのように電線を垂らし、そこに電流を流すとローレンツ力でブランコが揺れるという実験をされた方もいらっしゃると思いますが、その原理です。
荻上 もう少しわかりやすく説明願えませんか?
松浦 いわばブレーキです。衛星の動きとは逆向きのローレンツ力が働くので、衛星の速度は徐々に落ちていく。そうすると衛星の軌道が下がっていって、最後は落下するんです。
加藤 とはいえ今回の実験は、そのための準備段階のようなもので、テザーに電流を流す機能や、そもそもテザーがちゃんと伸びるのか、といった技術的な実験を目指しています。
松浦 宇宙空間でひもを伸ばすのはすごく難しいんですよ。アメリカはイタリアと共同で実験を行いましたが、途中でひもが引っかかって失敗しています。現段階では伸ばしたあとに無重力の宇宙空間でひもがどう挙動するかもわかっていない。JAXAは2025年くらいに除去衛星の実用化を実現したいとしているそうですが、道のりは厳しいですね。
加藤 今回の実験では700mの放出を目指していますが、実際にデブリ除去に使うとなると10km近い長さのひもを伸展させなければならなくなります。それを伸ばしきるというのはそれだけでかなりの技術で、今後も事前実験を必要とします。こうした実験が進むことはデブリ除去に向けた大きな進展だと感じています。
荻上 デブリが小さいと回収しやすかったりするのですか。
加藤 10cmくらいの小さいものに関しては降下させるのではなく、レーザーで焼くというアイディアも出ています。もっと小さなデブリは、寒天のような大きな面積の吸着物体を軌道に展開してくっつけてとってしまうというアイディアもあります。しかし、小さなデブリは何万個もありますから、焼石に水のように思います。それよりも衝突事故を起こすと多量のデブリを発生する恐れのある大型の衛星やロケットの残骸を除去する方が効率的だと思います。
これ以上ごみを出さない
荻上 ごみを出さないためにはどうしたらよいのでしょうか。
加藤 国連のスペースデブリ低減ガイドラインの中では7つの提言を行っています。まず1番目が意図的に部品類を放出しないこと。例えば衛星とロケットの結合部を宇宙空間に残さないように設計するということですね。
2番目は破砕事故を起こさないこと。破砕事故で1番起きやすいのはロケットの推進系です。例えば一つの推進剤タンクに、酸化剤と燃料が1枚の隔壁で仕切られて搭載されている構造になっている場合、隔壁に亀裂が入ると酸化剤と燃料が接触して爆発を起こしてしまうことがあります。酸化剤と燃料はそれぞれ独立したタンクとして設計するといった対策が可能です。
3番目が衝突事故を起こさないこと。衝突警報がでたら確実に回避行動をとる。このために衛星に軌道変更能力など回避機能を持たせることが推奨されています。
4つ目は意図的に破壊しないことの徹底。衛星は安全保障面でも非常に重要な役割を果たしますから、それを破壊しようとする試みがあるかもしれません。そうしたことをしないように徹底するということです。
5番目は、運用終了後の破損事故の防止。衛星は運用終了後に破砕事故を起こすことがあります。この原因は例えば残留推進薬が爆発するといったことです。そうしたことが起こらないよう、運用終了後は推進薬を排出するなどの対策をとることが推奨されています。バッテリーの過充電による破裂事故も考えられるので充電ラインを遮断するなどの対策も行われています。
6つ目は、低い軌道、具体的には高度2000km以下の軌道で運用する衛星は運用終了後は25年以内に落下させるように設計すること。ただし、地球上の人や財産、環境に害を及ぼさないように設計する必要があります。
最後が、静止衛星についてですが、高度36000kmで運用を終了する静止衛星は静止高度より約300km上空に移動させること。これはITUという世界の無線を管理する団体の規定にもありますから、世界のほとんどの衛星が守っています。ロケットも静止軌道と干渉しない飛行経路を設定する必要がります。
更なるデブリを生まないためにはこの7項目を守る必要があります。
荻上 リスナーからはスペースデブリの回収は世界各国で役割分担が決まっているのか、それとも自国の分は自国で回収するのか質問が来ています。スペースデブリの除去をビジネスチャンスと考えることもできるのではないかとのことですが、いかがでしょうか。
加藤 そうした国際ビジネスへの参入の狙いがあるのは事実ですね。日本が導電性テザー方法にこだわっているのは、コストが安いからです。これならば国際競争に勝てるだろうという思惑があります。いずれは衛星を1機打ち上げるごとに国連などが打上げ国から税金のようにお金を取り立て、それで基金を設置し、その基金で除去作業をどこかの国に委託するという方式がとられるようになるかもしれません。そのような状況になれば除去ビジネスが成立するかもしれません。
荻上 今後除去を実行していく中で注目していくポイントはありますか。
松浦 まず重要になってくるのは全世界が足並みを揃えることができるかということですね。2007年に中国が破壊実験を行った話もありましたが、ようするに中国はガイドラインを守らなかったわけです。今北朝鮮もミサイル実験を重ねていますが、彼らが国際基準を守ってくれるようにできるのか、そこがカギだと思います。
デブリは基本的にはこれからの問題です。すでに出てしまったごみについては、これから導電性テザーのようなもので一つずつ、徐々にですが片付けていかなければならない。しかしなによりも、今後出さないことが重要です。中国だけなく、過去にはアメリカやソ連も爆破実験をやってきました。実際に衛星破壊兵器を打ち上げていた時期もあるくらいです。しかし、もう今後そうしたことはしてはならない。少しずつ回収しながら、今後ごみを増やさないことが何より重要だと考えています。
荻上 ガイドラインの存在を多くの人が認知して、世界の宇宙開発状況をチェックしていくことが必要ですね。加藤さん、松浦さん、ありがとうございました。
はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査 (講談社現代新書)
スペースデブリ: 宇宙活動の持続的発展をめざして(地人書館)
加藤明(著)
プロフィール
加藤明
昭和50年、JAXAの前身の宇宙開発事業団(NASDA)に入社後、ロケットエンジンの開発、研究開発計画の企画調整などを担当。平成5年からスペースデブリ問題に係り、NASDAのデブリ発生防止標準を制定した後、これを国際デブリ関係学会(IADC)のスペースデブリ低減ガイドラインに発展させた。これは国連ガイドラインのベースとなった。平成25年定年退職後は、JAXA非常勤職員としてデブリ問題の専任として国際標準化機構(ISO)のデブリ関係規格の提案・審議、JAXA内デブリ関連文書の制定、解析ツールの整備などを担当している。工学博士、日本技術士会会員(航空宇宙部門)、APECエンジニア(Mechanical)、IPEA国際エンジニア、日本大学非常勤講師(電子工学科)。
松浦晋也
1962年生まれ。慶應義塾大学工学部機械工学科卒業。慶應義塾大学大学院メディア・政策研究科修了。日経BP社記者を経て、航空・宇宙関係を専門とするノンフィクション・ライターとして活躍。『恐るべき旅路 -火星探査機「のぞみ」のたどった12年』『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』など著作多数。
荻上チキ
「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。