2015.02.03
「LGBTといじめ」を考える
「自分らしくって言うけど、それってなんなんだよ」――。そう言われた少年は、苦しそうに顔をゆがめた。10年ほど前に放映された「真剣10代しゃべり場」(NHK教育)のこの一コマを今でも覚えている。「真剣~」は、10代の若者たちによる討論番組で、その回のテーマは「男らしくなきゃダメですか?」だった。テーマを発案したのは「男らしくないことでいじめられている」という中学生男子。
彼は「自分は自分のままではダメなんだろうか」とスタジオに集まった10代の仲間たちに問いかけていた。仲間たちは「そのとおりだ」と応じた。「いじめられる側にも原因がある」「自分を変えるべき」との厳しい意見が相次ぐ中で、彼はやがてポロポロと涙を流し始めた。番組を観ながら、当時高校生だった私はだんだん重苦しくなった。いじめられても守ってもらえないタイプの子どもっているんだな、と思った。そして、そんな子どもである彼のことを、他人事だとも思えなかった。
「いじめを受けやすい子ども」は存在する。「いじめ被害にあったときに孤立しやすい子ども」も存在する。人種や民族が違っていたり、発達障害があったり、男らしさ/女らしさから外れたり、LGBTであったりする子どもたちは「いじめ被害のハイリスク層」として、欧米諸国では個別のいじめ施策が取り組まれている。しかし、日本のいじめ対策は「いじめはいけない」という一般論にとどまっており、これまで個別のハイリスク層に目を向けてこなかった。
■LGBTについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参考にどうぞ。
本稿では、昨年秋に開催されたシンポジウム「LGBTといじめ~男らしさ、女らしさの圧力を考える」後半に行われたパネルディスカッションの様子を報告する。パネルディスカッションでは、レズビアンであることを公表しているタレントの牧村朝子氏リンクをゲストに迎え、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事の荻上チキ氏、「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」共同代表の大磯貴廣氏、遠藤まめた(筆者)の4名で、性にまつわる「らしさ」といじめの関連について語り合った。
なお、シンポジウム前半では「LGBTといじめ」に関する国内外の調査について紹介がなされた。「いのちリスペクト~」による報告は「大人には話しにくい――LGBTの子どもの学校生活といじめ」にも集約されているため、ご興味のある方は是非ご参照いただきたい。
日本では話題にあがりにくい
牧村 インターネットで「レズビアン いじめ」と検索すると、他国では相談窓口など当事者の役に立つ情報が出てくるのに対して、日本とロシアでは、まずアダルトサイトがヒットしてしまいます(2014年9月調べ、http://www.2chopo.com/article/detail?id=874)。
大磯 日本では、いじめとジェンダー、セクシュアリティについては、まだまだ話題にあがりにくい。
牧村 欧米圏では、結構話題になっています。LGBTに対するいじめに反対しようと、みんなで紫色の服を着るのが「スピリット・デー」。他には「ピンクシャツ・デー」というのもあります。ある学校で、ピンクのシャツを着て登校した男の子が「お前、ゲイなんじゃないの?」「男なのにピンク着るんだ」と言っていじめられたのを見て、周りの生徒たち50人ほどが一斉に、自分たちもピンクのシャツを着て登校した。そのエピソードに由来して、みんなでピンクのシャツを着ることでいじめに反対しようという記念日ですね。
荻上 アメリカやイギリスでは、LGBTといじめに関する調査がたくさん行われているのに対し、日本ではまだまだデータが少ない。研究者の力が必要です。
それぞれの子ども時代を振り返って
大磯 自分もいじめ被害を受けていましたが、一番つらかったのは親や教師から「男らしさ」を強制されたこと。「お前が悪い」と言われたこと。いじめ被害だけでもつらいのに、親や教師、この社会全体が自分のことを受け入れてくれないんだと思いました。子ども時代を振り返って、みなさんご自身の経験はいかがですか?
牧村 私がレズビアンであることで、弟がいじめられたんだろうなと思った出来事がありました。当時、私は小学4年生で、弟は小学3年生。私は大好きな女の子が出来て、そのことを周りに話していました。私はいじめられなかったけど、ある日、弟が泣きながら「このレズ!!」って言ってきたのね。弟は、その言葉をどこかで言われて傷ついたんだと思います。これはいけないと思って、レズビアンであることを辞めよう、異性を好きになろうとそのときは思いました。辞められるものじゃないんですけどね。
遠藤 自分はトランスジェンダーですが、小学生のとき、隣の席だった子から「おとこおんな」と言われました。「それって何?」と訊くと「世の中には、男と女と『おとこおんな』がいるんだ」と言われた。イヤな気持ちにはなりませんでした。むしろ、言い得て妙だと納得したくらい(笑)。でも「おとこおんな」という言葉を聴いた先生は、怒りました。そこで初めて「おとこおんな」がいけない言葉だと思い知ったんですが、そのとき「この子は『おとこおんな』なんかじゃない。普通の女の子だ」と言われたことのほうがイヤでしたね。「おとこおんな」であることが、そんなにダメなんだろうかと……。
荻上 僕は、小・中学校と、ひどいあだ名をつけられていじめられました。当時の自分は太っていて、体力が無くて、運動よりもマンガが好き。いわゆる「男らしさ」から外れた子どもでした。自分は異性愛男性なのでセクシュアリティに関するいじめはありませんでしたが、「なんで男らしくしないんだ」といった、ジェンダーにまつわる攻撃はあったと思います。
「低年齢化」と今後の課題
遠藤 これから問題になってくることのひとつが「低年齢化」だと思います。アメリカではLGBTに関する情報が広まるにつれ、子どもたちがLGBTであると自覚する時期がどんどん低年齢化している。たとえば、これまでは高校生ぐらいで自覚するパターンが多かったけれど、昨今では13歳でゲイだとカミングアウトした子がいじめられたり、家族から拒絶されて家出に追い込まれたりと、これまでは考えにくかったケースも出てきています。
インターネットが発達した日本でも、同様のことが起きるでしょう。日本では、いじめの発生は小学校高学年から中学校2年生あたりがピーク。この時期に、はっきりとLGBTであることを自覚し、それを名乗る子どもたちが出てきた場合に、周囲が彼らをどう受け止められるのかが、今後の課題になってきます。
荻上 「低年齢化」はそのまま「低学歴化」にも繋がるんですよね。通常、いじめの発生は中学2年生がピークで、3年生になると落ち着くことが多い。でも、「LGBTの学校生活実態調査」によれば、中学3年生になってもいじめ被害は収まっていない。これでは勉強が手につかない、高校進学を前向きに考えられない、不登校になるといった「低学歴化」に繋がってしまいます。
牧村 やっぱり、学校でLGBTのことを教えてほしい。本当に、いつやるのって思う。保健の時間に、いやな笑いが起きたことがありました。「二次性徴が来ると異性が好きになります。そうじゃない人もいるけどね~?」ということを、先生が面白おかしく発言して、教室中がクスクス笑っていた。私は笑えなかった。その笑えなかった理由も、言葉にできなかった。同じ思いをしている人はたくさんいると思う。「男の子と女の子がいて、二人はペアです」というかたちしか教えないけど、そんなのうそじゃない?
荻上 エセ科学ですね(笑)
遠藤 いまの学習指導要領では、小学校の保健・体育に「思春期になるとだれもが、遅かれ早かれ異性を好きになる」といったことが書かれている。2016年に学習指導要領の改訂時期が来る。こういうことをひとつずつ変えていかないといけない。
荻上 2000年代に起きた「性教育バッシング」についても、やはりきちんと検討する必要があります。「七生養護学校事件」では、障がいのある子どもに対して創意工夫をして性教育をしようとした学校側に対して、産経新聞や都議が踏み込んできて「過激な性教育が行われている!」とバッシングを行った。その暴力的なやり方については裁判で学校側の勝訴が認められました。この10年間、一連のバッシングの中で、いったいどれだけの教育ロスがあったのかを明らかにしたいですね。
後記
子どものいじめ問題は、大人社会の「空気感」の表れでもある。お互いの「違い」を認め合うことに対して大人が臆病であったり、無関心であったりする姿を、子どもたちはよく観察している。問われているのは大人社会の姿ではないだろうかと、ディスカッションを通じて筆者はあらためて感じた。
なお、パネルディスカッションの中でも触れられていた、「思春期になると、だれもが遅かれ早かれ異性を好きになる」という学習指導要領の記述については、記載内容の変更を求めるインターネット署名も開始され、2015年1月時点で1万4000人以上の賛同を得ている(http://chn.ge/1u5C1KX )。ご興味のある方は、ぜひチェックしてみてほしい。
プロフィール
遠藤まめた
1987年生まれ、横浜育ち。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をもとに、10代後半よりLGBT(セクシュアル・マイノリティ)の若者支援をテーマに啓発活動を行っている。全国各地で「多様な性」に関するアクションや展開している「やっぱ愛ダホ!idaho-net」代表。著書に『先生と親のためのLGBTガイド もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版)