辺野古移設を強行すれば日本への怒りが広がる──大田昌秀インタビュー

はじめに

 

沖縄の状況が緊迫している。普天間基地の県外移設を訴えて再選を果たした仲井真弘多県知事(当時)が、一転して国による辺野古の公有水面埋立を承認したのが、2013年12月。その後、2014年1月には地元名護の市長選で普天間基地の辺野古移設に反対する稲嶺進氏が再選。そして、その年の11月、移設反対を唱える翁長雄志氏が、3選を狙う現職の仲井真氏を大差で破り、県知事となった。

 

2014年沖縄県知事選は、「国 vs オール沖縄」の闘いだと言われた。もともと沖縄の保守本流に属し、自民党沖縄県連の幹事長まで務めた翁長雄志氏が、沖縄の革新勢力から推されて移設反対を主張した。保守から革新まで幅広い支持を取り付けた翁長氏が、「イデオロギーよりアイデンティティ」「オール沖縄」をスローガンとし、多くの県民の票を得た。

 

これに対し、現職の仲井真氏も、国との太いパイプをかかげ、県内41市町村のうちの31の首長が、そして主要経済団体12団体のうち、7団体が支持したのである。平和か補助金か。日本本土ではめったに見られない、争点の明確な選挙だった。

 

結果としては翁長氏が当選し、「オール沖縄」の勝利だと言われたが、新知事の進む道はきわめて険しい。

 

当選後しばらくアクションを控えていた翁長氏だが、2015年3月23日に辺野古沖のボーリング調査停止を指示。これに対し国は即座に反撃、次の日の午前中には防衛省が林芳正農相に対して、執行停止申立書(知事による停止指示の一時停止、つまり作業続行)および不服審査請求書(知事の停止指示そのものの無効を訴える)を提出した。

 

そして3月30日には、林芳正農相が、翁長知事による沖縄防衛局への海底作業の停止指示の効力を一時的に停止。不服審査請求の結果がいつ出されるかはまったくわからない。そして作業はいまも継続している。辺野古の海では、海上保安庁の船と市民のボートやカヌーがぶつかりあい、けが人や逮捕者が続出している。

 

そんななかで、さる3月11日に、元沖縄県知事の大田昌秀氏に、この間の沖縄の状況についてお話を伺った。

 

大田昌秀氏は1925年生まれ。沖縄師範学校に在学中に鉄血勤皇隊に招集され、戦闘を体験。早稲田大学からシラキュース大学の大学院に進学し、帰国後は社会学者として、琉球大学の教授を勤め、膨大な著作を刊行。その後、沖縄県知事を2期勤めた。

 

知事在職中の1995年に、アメリカ海兵隊員による「少女暴行事件」が発生。その直後、軍用地の代理署名を拒否したことで、大きな注目を浴びた。そして1996年に当時の橋本首相とモンデール駐日大使のあいだで普天間基地の返還が合意されたが、それは返還というよりも、辺野古への移設・強化だった。辺野古では強固な反対運動が起こり、現在でも移設は実現されていない。

 

この間、沖縄県知事として渦中にあり、そしてその後もずっと沖縄から世界に平和を発信し続けてきた大田昌秀氏。彼は今回の知事選やいまの沖縄の状況を、どのように見ているだろうか。

 

以下は、2015年3月11日におこなったインタビューの記録である。インタビュー当日は、翁長県知事がアクションを起こす前だったので、知事を「まだ何もしていない」と批判しているが、大田氏はそもそも国を相手取った法的闘争はきわめて困難な闘いになるだろうと予測している。そして、むしろ県知事はアメリカと直接交渉すべきだと主張する。

 

文中で大田氏は翁長知事を厳しく批判するが、これはむしろ彼なりの知事へのエールだと理解するべきであろう。

 

知事選の結果と辺野古移設阻止の戦略からはじまり、普天間返還が発表された96年当時の状況、そして終わりには「沖縄アイデンティティ」と「沖縄独立論」にまで話が及んだ。まさに「生きる沖縄戦後史」である大田昌秀氏からみても、現在の沖縄の状況は、きわめて厳しいものであるようだ。

 

以下、その語り口を最大限に生かし、語られた言葉をほぼそのまま記録する。そのために語りの編集は最小限に留めたが、読者の理解のために、わかりにくいと思われる箇所には注を付けた。

 

 

知事選について

 

──2013年のはじめ、ちょうどオスプレイ配備(2012年10月)が問題になっていたときですが、大田昌秀さんとお会いしたときに、非常に印象的なことを語っておられましたね。今年は沖縄にとって大変な一年になると。最悪の一年になるかもしれない、とおっしゃいました。その言葉がとても印象的でした。

 

そしてその通り、その年のおわり(2013年12月28日)に、辺野古の公有水面の埋め立てを当時の仲井真知事が承認してしまいました。沖縄県知事として新しい基地の建設を認可したのは、初めてのことだったのではないでしょうか。

 

そのあとの2014年も激動の一年でした。まず名護市長選(1月19日)で稲嶺進さんが再選を果たしましたが、沖縄市長選(4月27日)では保守派新人の桑江さんが当選しました。そして11月の知事選では、現職の仲井真さんに大差を付けて翁長さんが勝利しました。2013年のはじめに大田さんが「激動の年になる」と言われた通りの、この2年間でした。

 

まず、この知事選についてお伺いします。この結果についてどうお考えですか。

 

革新系が、那覇市長をしていた翁長さんを推したということは、革新の力が急激に衰えているということです。翁長というのはもともと自民党の幹事長をしたり、県会議員のときには、いちばんの基地容認論者だったわけです。それを革新系が推すということは、僕たちからすると考えられない。革新がいかにもだらしない。自派の候補者も出し切れない。自民党の幹事長をしていたひとを推すとはね。

 

しかも県議のときに、僕への攻撃を一番していた人物だったわけ(笑)。まあ、それはどうでもいいけど(笑)、ただ、革新4党がおこなっていることは、僕は革新が弱くなったということだと考えている。もし翁長が、革新が期待するようなことができなければ、誰がいったい責任を取るのだろうか。

 

いまいちばんの喫緊の課題は、辺野古の問題の解決だ。それで懸念していたら、案の定、もう当選してから3カ月ぐらいになりますが、まだアメリカにも一度も行ってない[※1]。

 

[※1]翁長県知事は、2015年4月以降に訪米する予定になっている。

 

そして、アメリカ総領事館にいた職員が、県のアメリカ駐在員として送り込まれることになった[※2]。それもおかしな話で、駐在員は、知事でも県の部長クラスでもない。アメリカは駐在員のレベルのひとしか会ってくれないだろう。国防長官とか国務長官とかは絶対会わないはずです。だからこそ知事本人が、当選したらまっさきにアメリカに行って交渉すべきなのに、それをやっていない。

 

[※2]「沖縄県の駐在員に平安山氏 米側 歓迎と戸惑い」2015年1月9日 

 

 

──自民党県連の幹事長や仲井真前知事の選対本部長までやった、保守本流であった翁長さんを、革新が推して「オール沖縄」という形を作ったのは、その前の建白書[※3]と東京行動が大きかったのでしょうか。

 

[※3]「『建白書』から2年 沖縄の『民意』政府まで遠く」2015年1月28日 

 

彼は那覇市長で、県下の市町村長会の会長だったから、そういう意味で建白書の中心人物と見られているけどね、必ずしも彼自身が積極的に建白書のために動いたわけではない。

 

それよりもむしろ、中城とか嘉手納、それから北谷、沖縄市とかの基地を抱えている中部地域の市長たち、それから名護の稲嶺市長が、このままじゃいかんということですすめたことだ。その市長たちは連絡会議を持っていて、基地に反対する会議を絶えずやってきたわけですよ。翁長さんは市町村会の会長をしていたから、彼が中心になったみたいに思われてるけどね。

 

 

──だとすると、最初に翁長さんを候補にという話は、どこから出てきたのでしょうか。

 

だから、革新4党も労働組合も、資金もなくて、力が極端に衰えているわけです。今は。そうすると、勝ち馬に乗ったら資金もろくに出さないでいいということになる。

 

それと、うまいこと「イデオロギーよりアイデンティティ」という言い方をして、これがヒットしたわけですよね。そういうことがうまくいった。しかし、沖縄のアイデンティティというが、アイデンティティという言葉の意味をわかっているのか……。

 

 

──オール沖縄の話ですが、仲井真さんは31市町村長と同時に、経済界のほとんども後援しましたね。あれは知事時代からのつながりでしょうか。

 

それもあるしね、結局お金が欲しいわけですよ。

 

 

──今回得票率が、北部と離島で仲井真が翁長を上回ってましたね。これはやっぱり公共事業に頼っている地域なんでしょうか。

 

そうそう。要するに、国から金もらうのが仲井真だからね、特に離島の市町村長たちが、仲井真についてきたわけです。

 

 

──それでは、今回の翁長さんは「オール沖縄」ではなかったと。

 

オール沖縄って、口では言ってもね。できっこないというのが僕の判断だったわけです。つまりね、離島の市町村長とかね、そういうところはもう、金が欲しい。一括交付金というのがあるからね。これは自由に使える金だから、これが欲しくて、現職を推すわけです。

 

 

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(写真:大田氏)

 

 

知事はアメリカと直接交渉すべき

 

──知事はどうするべきなのでしょうか。

 

知事になってもう3カ月も経つのに、まだアメリカにも行ってない。さっき話したように、こともあろうにアメリカ総領事館にいたひとをね、アメリカに送った。アメリカの総領事館は当然、基地賛成ですよ。(だから駐在員も)容認しようということばかりやってきた。

 

そういう人をアメリカに連れてって、立場を変えさせて、反対と言わせる。アメリカ人から見ると人間的に不信をかうわけですよ。こんなのがどうして役立つかと。

 

 

──具体的なことを言うと、翁長さんには打つ手はあるんでしょうか、辺野古に関して。実際に辺野古を止める手だては。たとえば、ひとつあるのは、埋立許可を取り消すことですよね。でもそうすると、普通に考えたら、国から行政訴訟をされますよね。それはひとつの手段になりますか、埋立の取り消しは。

 

結局ね、いまの憲法は、国と地方自治体は平等だということを言っているけど、ところが日本は中央集権がずいぶん長く続いたものだから、日本の政府自体はね、決してそんなふうには思っていないわけです。だから、機関委任事務といってね、県庁の仕事の大半は、国の仕事なんですよ、本来は。

 

そういう問題もあってね、だから仲井真なんかは、国の官僚だったものだから、そのまま国の言いなりになるしかないという発想。それでカネを余計もらったほうがいいという発想になったわけなんでね。

 

 

──国からの行政訴訟を恐れずに、たとえば辺野古の埋立の申請取り消しをするべきだとお考えですか?

 

これは国の事業だからね、もし県が反対すると国から訴えられる。そうすると負ける。僕も最高裁で負けちゃったでしょ[※4]。あの、いまの日本の司法というのはね、僕らからすると独立していない。政府の行政機関のね、いわば下部組織みたいな。

 

[※4]「最高裁、県の上告を棄却 代理署名訴訟」1996年8月28日 

 

──仲井真前知事が埋立申請を許可してしまった以上は、沖縄県知事のレベルで止めることは難しいですか?

 

ほとんど不可能。もし知事が受け入れないとしたら、国から訴えられるわけです。

 

 

──難しいですね。じゃあ例えば、誰が知事になったとしても、やっぱり辺野古は止められないということですか。

 

いや、それはだからアメリカに行って、交渉によって、アメリカがもう沖縄に基地は要らないからどっかに移せって言えば、問題は簡単なんですが。

 

 

──じゃあ、ひとつの選択肢として、アメリカに行って直接交渉するのも、可能性としてはあると。沖縄県知事が。

 

いちばん大事なことはね、アメリカの上院に行って、沖縄の基地問題を議題とさせることです。

 

アメリカには基地閉鎖統合委員会という組織があります。そして、アメリカ国内の大きな基地を、400くらい減らしているわけです。そしていま、小さな基地もね、あと200くらい減らそうとしている。

 

その委員長がね、ジム・クーターといってね、有名な弁護士だったんです。僕はアメリカに毎年7年間(知事時代に)通い続けたときにね、彼に毎年会っていた。

 

そしたら、彼も沖縄にやってきて、基地を見たんです。ところが、(知事時代の)いちばん最後の年になって会ったときに、同席していた秘書に、席を外しなさいと言って二人だけで話した。それで、知事が当事者としてアメリカに来て訴えるのはね、まともな話で、大変大事なことだけど、残念ながら自分の目で見たら、あんまり効果はないと。

 

どうしてかというと、アメリカ国内の基地は、閉じようがどうしようが、自分が権限を持っている。ところが国外の基地は、上院の軍事委員会が権限を持っていると。だから上院の軍事委員会にロビイストを投入して、議題にさせて、そこで議論させない限り解決つかないと。それをね、もっと前のときに言ってくれたら良かったんだけどね、最後の年になって言われても、時間切れでできなかったんです(笑)。

 

だからね、もっと前にそういうことを聞いていたら、全国に呼びかけてお金を集めてロビイストを雇って、それもできたんだけどね。

 

 

──アメリカと直接交渉せよ、というわけですね。僕たちの普通の感覚でいうと、日本政府が動かないのに、ましてアメリカ政府が動くわけがないと思い込んじゃうんですよね。

 

いやいや、いちど、太平洋軍の副司令官のスミスというひとに会ったんだけど、日本政府が要求さえすれば、いつでも在日米軍は撤退すると、はっきりと言っていたわけです。ただ、いまの日本政府は動くことをしないからね。アメリカの上院の軍事委員会で議題にさせるような、そういう交渉をしたらね、効果的なことができるわけですが。 【次ページに続く】

 

 

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