なぜ、運動で社会は変わらずに、権力によって流されてしまうのか――戦争とプロパガンダの間に

「紛争屋」と、「伝えるプロ」が語り合う――実務家として紛争解決や武装解除をしてきた伊勢崎賢治と、コミュニティ分野での様々な企画を手掛けてきた伊藤剛。共に東京外国語大学大学院「平和構築・紛争予防コース」にて、平和コミュニケーションに携わる二人が、戦争とプロパガンダの関係について議論する(構成/山本菜々子)

 

 

プロパガンダと情報統制はコインの裏表

 

伊藤 今日は、「戦争とプロパガンダ」についてお話しできればと思います。

 

伊勢崎 まず、「特定秘密保護法」について話したいですね。と、いうのもこれは、プロパガンダにも関わって来る大事な話しです。着々と法制定に向けて進んでいますよね。この対談が活字になっている頃は、すでに可決されているでしょうが、これはまずいな、と感じています。

 

伊藤 伊勢崎さんの中で明確な危機感があるということですね。

 

伊勢崎 はい。でも、このままこんなことを許してしまうと日本が第二次世界大戦を引き起こした軍国主義に戻っちゃう、なんて言うつもりはありません。こういうことを言う人がいますが、それもひとつのプロパガンダだと思うからです。ぼくは、日本がアメリカの基地である限りは、軍部が闊歩するような状況にはなり得ないと思うし、アメリカがそれを許さないでしょ。単に与党だけでなく日本全体としても、アメリカに真っ向から楯突くような政治力があるわけないし。

 

ぼくは、憲法9条を護持した方が日本の国益になると主張していますが、たとえこのまま護憲のままでいても、「9条が世界を平和にする」なんて護憲派が言うだけで、リスクをとって世界に進出するはずもなく、一国平和主義の戦後体制がずっと継続するだけだと思っています。護憲派の方が「保守」なんですね(笑)。

 

改憲になっても、そりゃ、北東アジアの隣人たちは一時的に緊張するでしょうが、これから近未来を支配する世界テロ戦に集団的自衛権を掲げて出て行っても、自衛隊が同じアメリカの同盟国としてイギリス、フランス並の軍事的貢献をするには、だいぶ時間がかかると思います。30~50年くらいかかるんじゃないかな。その軍事的貢献も、戦後同じような十字架を背負ってきたドイツを超えることは、まずないでしょうね。国内で歴史に裏付けられた巨大な反対勢力がブレーキをかけ続けますから。

 

だから、日本がどう転ぼうと、国際情勢的には、あまり心配ない(笑)。

 

ぼくの危機感というのは、単にドメスティックで、感情的なものなんですね。ぼくには、戦後ずっとアメリカの軍事的傘下で維持できていた、先進国の中では例外的な日本の平和が、このままずっと続いて欲しいという、一家族人としての一国平和主義がありますが(笑)、同時に、日本が安全保障の拠り所とするアメリカという存在、その同盟が集団的自衛権の行使として開戦するも出口が見えない世界テロ戦、――アフガン戦はアメリカ建国史上最長の戦争になります――その苦悩をちゃんとわかって集団的自衛権を議論しているのか、という、安倍政権というよりも、右も左も、メディアも含めて、日本全体に対するフラストレーションがあります。

 

たぶん、このまま無批判の追従が続くと、アメリカの対テロ戦略でも上位概念としてしっかり捉えられている「火力に頼らない人心掌握」――テロリストの温床となる現地社会へのそれですね――において、たぶん決定的な役割を果たすかもしれない――ホント、希望的観測かもしれませんが――日本の潜在能力を完全に摘み取ってしまうのでは、という危機感です。完全に摘み取るには、惜し過ぎる!

 

伊藤 危機感への思いの丈は伝わりました(笑)。伊勢崎さんの怒りは、何のビジョンに向けてこの法案の議論をしてるんだ、ということですよね。特定秘密保護法案は日本版のNSC(国家安全保障会議)の創設とセットになって出て来ましたからね。日本には、長らくアメリカのCIAのように情報収集をする機関は現在ありませんでしたが、NSC設立とともに、本当に日本にもCIAのような組織が出来るんですかね。

 

伊勢崎 今のところは、そこまでの構想はないと思います。しかし、仮にそれをやろうとしたら、人材育成にお金と膨大な時間と労力がかかるでしょう。情報収集は単に現地の新聞の切り抜きをやっていればいいというものではありません。必要なのは能動的なそれです。普段行けないようなところに敢えて出かけて行って人脈をつくり情報を得る。諜報活動とも言えますね。その恒常的な基地となるのは在外公館ですが、日本人は、大戦の反省から諜報というものを文化的に封印してきました。

 

それが祟ってか、日本の在外公館員は、まず危険な場所には行かない。行かせない。行かせて怪我人や犠牲を出そうものなら、メディアが総出で叩く。何、余計なことやってるんだ、と。特にサヨク系のそれが。官僚組織はそれにビビり引きこもる。でも、能動的な情報収集となると、国益のために危険な場所に行くことも厭わないことを許容する文化形成が必要なのです。

 

伊藤 そうすると、いずれはスパイ活動をする可能性もあるということになりますよね。

 

伊勢崎 日本の公安はオウム事件の時にも潜入捜査をやってましたから……ミイラ取りがミイラになったケースがあったと聞いていますが(笑)、それを海外で、という可能性はあるでしょうね。ぼくは、能動的な情報収集自体を否定する立場ではありません。

 

でも、何のために情報収集するか、その上位目的いかんで意味合いが変わってきます。戦争のために情報収集するのと、戦争を回避するために情報収集するのでは全然違いますからね。

 

例えば、アメリカは「大量破壊兵器」があるという情報を収集して、イラク戦争をはじめました。CIAのようなトップクラスの情報機関が言っているんだから間違いないと、みんなを納得させてしまった。まぁ、実際には発見されなかったわけなんですが。開戦をするという上位目的下では、情報は諜報機関により捏造さえ、されうる。

 

一方で、戦争を回避するための情報収集もあるはずです。どうしようもなく危険な敵国に見えるけど、中には穏健派もいて、そこをつつくことで信頼をなんとか醸成できそうだ、とか。こんな諜報活動は、先に言った対テロ戦での人心掌握では、決定的に重要です。

 

といっても、まあ、目的が正反対でも、現場の諜報活動の手法自体はほとんど同じですから、要は、上位目的を堅持する力、つまり、国家としての「政治の心がけ」次第、ということになります。だから、日本では憲法9条がそれを縛る決定的な力になるはずなのです。ぼくは、憲法9条下の諜報活動は大いにやるべき、という考えですが、一国平和主義の護憲派は、ここが理解できず、それをも封印してしまった。そして、漠然と諜報能力がないという劣等感だけが残り、それが今俄然勢いを得て、「こうなったのは9条のせい」ということになってしまっている。すべて、護憲派がいけないのです(笑)。

 

今、安倍政権がやろうしているのは、9条改憲を上位目的とした特定秘密保護法であり日本版NSC構想ですから、戦争を上位目的とした諜報と比べても、悲劇的にチンケです。

 

伊藤 お気持ちはお察しします(笑)。いずれにしても、諜報活動は大事だけど、その情報が何に使われるか分からないこわさがあるということですね。その活動とのセットで「特定秘密保護法」が出てきましたが、これによってはたして本当に外交関係が円滑になったりするんでしょうか。

 

伊勢崎 この法律をつくらないとアメリカから情報がもらえないというのが、特定秘密保護法の弁護によく聞かれます。「口が堅い」ことは大切ですが、――だから現状でも公務員法、自衛隊法にもそれがあるわけですが――それがあるだけで情報が多くもらえるというのは、チョット……、と思います。

 

例えば、アメリカの情報がウィキリークスで漏れたからといって、別にアメリカに対する態度がどうこうというのではなく、まあ、一つの革命的な事故ですよね。この情報環境のご時世で、情報漏らしたヤツはこんなにシバくんですよ、って自慢してもあんまり意味ないと思うんですが。ぼくが過去、アフガニスタンでアメリカ軍、そして一部のCIAと関わった時の経験から言うと、口が堅かろうがなかろうが、情報をやった後のそいつの行動がアメリカの国益になるか否かでアメリカは判断する、という感触をぼくは持っています。

 

伊藤 非常にビジネスライクということなんですね。

 

伊勢崎 そりゃそうでしょ(笑)。

 

ぼくは、国連平和維持活動で多国籍軍を統括しながら、現地で活動するユニセフなどの国連下部組織やNGOのスタッフ、そして地元社会の安全の責任を負う地位にいたのですが、やはり、伝えられない情報は存在します。「知る権利」は大切ですが、どうしても言えない情報と時期はあるんですよね。

 

伊藤 民間企業でも一緒だと思いますよ。トップレベルの企業秘密を全社員で共有していることはありえませんから。

 

伊勢崎 そうですよね。だから、「知る権利」をあまり振り回されても困るわけです。情報源をさらすことで、その人が危なくなってしまうこともありますし。管轄する多国籍軍の武器の使用基準、つまりいつ撃てるか、は敵に知られたら困るから通常言いませんし、治安を脅かす“敵”の捜索や奇襲情報なんか言えるわけがありません。作戦そのものが成り立たなくなりますから。でも、事後、できるだけ早くその結果を伝える努力はしますが。

 

伊藤 単に全部公開することが良いわけではない。けれど、ずっと秘密のままでも良くないと。

 

伊勢崎 そうです。どういう情報を保護するのか、なぜそれが保護すべき情報なのかをポリシーとしてチェックするような機関が決定的に必要だというのは、ぼくの現場感覚でも直感的にわかります。

 

伊藤 アメリカの場合は、諜報活動も盛んな一方で、情報公開制度もしっかり整備されている印象がありますよね。国立公文書館をはじめ、国家機密を保全していても一定の期間が経てば、誰でも閲覧できる権利が与えられている。国民の側も積極的に情報公開を望む声が強いような気がします。

 

ある意味で「知る権利に対するピュアさ」みたいなものがアメリカにはあると思うんですよね。でも、日本の場合は情報公開の部分が非常に曖昧です。たとえある時期秘密にしていたとしても、時間が経ったら見られるようにしないと、本当に危険ですね。

 

伊勢崎 今日のお題は「戦争とプロパガンダ」ですが、なぜ、特定秘密保護法の話をしようと思ったのかというと、プロパガンダと情報統制は、コインの裏表のような気がするからです。政府と世論が開戦に向かっているとして、それを回避する情報収集でも、単に政府の言っていることを検証するにしても、もし非政府の主体の能力が封印されてしまったら、もうプロパガンダのやり放題ですね。【次ページにつづく】

 

 

 

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