「共働き社会化」の光と影――家族と格差のやっかいな関係

人口減少社会の課題

 

人口減少社会において、社会保障制度を支える労働力を確保する必要性が叫ばれるなか、あらためて女性の労働力参加が課題として浮き彫りになっている。現状で「共働き」世帯は増加傾向が続いているが、多くの場合女性はパートタイム労働などの非正規雇用に就きつつ就労調整をしているため、女性の労働は「男性の所得の不足を補う」ものではあっても「社会保障制度を支える」ものにはなっていないという問題がある。

 

他方で女性の労働参加の促進には、いくつか気をつけるべき点がある。のちに述べるように、世帯間の格差の拡大が懸念事項の1つである。

 

■この記事は、筆者の新刊『仕事と家族』(文末に掲載)で論じた「共働き社会化」に伴ういくつかの論点を短くまとめたものである。

 

 

共働き社会は進んでいるか

 

「共働き」世帯の割合が増えている(参照)。しかしほんとうの意味での共働き社会はいまだに実現していない。

 

というのは、この間の共働き世帯の増加は、一部には両立支援制度や保育の充実の成果ではあるだろうが、基本的には既婚女性がパートタイムをはじめとした非正規労働を増やしていることによるものだからだ(図を参照)。

 

 

労働力調査長期統計より作成

労働力調査長期統計より作成

 

 

女性の労働力参加率が過去最高になっているのも女性の非正規雇用の増加によるものだ。ここで、「非正規でも労働力参加が増えているならそれでいいのでは」という意見もありうるかもしれない。しかし、「そうでもない」と考える理由もいくつかある。

 

ひとつは出生力との関係である。「共働き」と出生力の関係についてバランスよく理解するためには、時間的・空間的に少々広いスパンで考える必要がある。

 

1960年代までの「福祉国家黄金時代」、先進国の社会保障体制は多かれ少なかれ「男性稼ぎ手」モデルを想定したものだった。ところが1970年代に入り先進国が経済不況に直面する中、「共働き社会」化の方向に進んだ国があった。アメリカに代表される自由主義の国と、スウェーデンに代表される社会民主主義の国である。不安定な男性雇用を女性が補うかたちでカップル形成がなされるようになったため、これらの国では相対的に出生力も高いレベルにある。

 

ドイツなどキリスト教民主主義が強い国では家族主義のイデオロギーが浸透しており、むしろ「男性稼ぎ手」の地位を政府や職業団体が保全する方向性が目立った。これに対して日本では、男性稼ぎ手を企業が守り、政府はそれを間接的にバックアップするという「企業福祉」の方向性に舵を切った。これがいわゆる「日本型福祉社会」である。同じ家族主義なのにドイツでは社会保障支出が高く、日本では低いままであったのは、ドイツでは労働市場から退出した男性(とそれに扶養される家族)を政府が年金で支えたのに対して、日本ではあくまで企業に雇用されることが生活保障の中心にあり続けたからだ。

 

公的に扶養されるのか企業に守られるのかの違いはあったにせよ、男性稼ぎ手モデルを壊して共働き社会に移行しなかった国(性別分業を維持した国)では、ほぼ例外なく深刻な少子化が進んでしまった。

 

以上を鑑みるに、「手厚い両立支援制度が実施された国では女性の労働力参加と出生率の維持が実現できた」というよりは、「共働きカップルの形成が出生力を維持させ、各種制度はそれに伴う問題に対応したものだ」と見るほうが現実に近いだろう。この二つの見方は、一見些細な違いしかないようにみえるが、実はそうでもない。

 

というのは、「男性稼ぎ手モデル」に「両立支援制度」を付け加えるだけでは、あまり意味がないからだ。筆者は、両立支援制度はどちらかといえば共働き社会化のコンフリクトを緩和するものであって、それ自体で共働き社会化を積極的に生み出す力は弱いと考える。

 

日本が正にそうだった。日本の両立支援制度は、すでに他の先進国のそれとあまり遜色がない水準に達している。それでも女性の本格的な労働力参加が伸び悩んできたのは、「男性的働き方」(要するに長時間労働)に手を付けないまま、そこに女性を引き入れようとしてきたからだ(参照)。【次ページにつづく】

 

 

 

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