なして福島の食はさすけねえ(問題ない)のか――原発事故のデマや誤解を考える

2月1日のNHKの報道で、福島県内在住者が食料品を購入する際に、県産品への回帰が顕著であるとの報道がありました。

 

 

「消費者団体が福島県内の1200人あまりを対象に行った調査で、食料品を購入する際に「県産を購入する」と答えた人の割合が去年より9ポイント増えて87%を超え、県産の食品への回帰傾向がいっそう強まっていることがわかりました。 (中略)「現在の検査体制のもとで流通している食品なら受け入れられる」とした人が県内では年々増えているのに対して、主に県外の人を対象にした消費者庁の調査では受け入れられない人の割合がわずかに増えていて意識の差が広がっているとしています。」(NHKの報道より)

 

 

この報道を詳しく調べようとしてインターネットで検索してみると、ニュースに対して以下のようなコメントが並んでいました。

 

 

「地産地消してフクシマ産を他県に流通させないでくれ 。外食なんかに混ぜられると困る」

「他県の人に迷惑かけて済まないと思ったわけか? そんな訳ないよな。今でもサンプル検査してるのか知らんけど、 どうせインチキな測定方法でしかも事故後にゆるゆるになった安全基準で問題ないとか言われてもな。 誰が食うかよ。」

「いいこと 。他県にばらまくなよ乞食」

「地産地消で、責任持って消費してください」

「たっぷり被曝してるんだし今さら気にしてもしょうがないもんな」

「まあ確かに住んでる時点でそうとうな被ばくだからな。」

 

 

福島に関するニュースが流れるたびに見られるこの手のコメントは、まったく珍しくありません。最近は大相撲初場所で優勝した大関琴奨菊関への副賞として、福島県産米オリジナル品種「天のつぶ」の精米1トンが贈られたときにも、酷い中傷が見られました。他にも、著名人が病気になったり亡くなるニュースが流れるたびに、「食べて応援したことが原因だ」などという根拠のないデマが流されています。

 

「福島での原発事故はそれだけ酷かったのだから仕方がない。政府や東電は信用できないし、情報が隠されているのが悪いんだ。」という言葉も良く耳にしますが、本当にそうなのでしょうか?

 

先ほどのニュースについたコメントの中には、事実とはまったく異なる思い込みが多数見られます。第一に、「事故後ゆるゆるになった安全基準」というのはデマです。実際には事故前に国内に対して基準値は設定されておらず、輸入食品に対してのみ370Bq/kgの基準値を設定していました。

 

また、「住んでる時点でそうとうな被ばく」というのも間違っています。今月には、福島での生活が他地域と比べて外部被曝に差がない、という調査結果が国際論文として発表されました(世界で5万回以上という、論文としては非常に多い数が短期間にダウンロードされています)(注1)。加えて、福島県内の避難指示区域等でない市街地と、県外との外部被ばく線量比較という論文も出されました(注2)。

 

(注1)「「福島の外部被曝線量は高くない」 高校生執筆の論文が世界で話題に

(注2)「福島県内の避難指示区域等でない市街地と県外との外部被ばく線量比較

 

 

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2月20日の福島民友誌朝刊より。このような詳細情報は毎週連載されており、福島県内各地の詳しい空間線量や世界の主要都市との比較を見ることができます。また、これらの数値データは福島県内各地に設置されたモニタリング機器によるもので、このページでも数値を確認することができます。

 

 

また、福島県は生産された農作物を厳しく検査していますが、とりわけ米にいたっては生産されたすべての米に対して放射性物質の「全袋検査」を義務づけています。これをクリアしなければ市場に出荷することはできず、もし基準値を超えた場合はすべて廃棄処分とされるのです。

 

開沼博氏の著書『はじめての福島学』などをお読みになられた方であればご存じかと思いますが、この検査で基準値を超えた米が全体の何%になるのか、実際のデータをご存知でしょうか?(なお、日本の食品に対する放射線量の基準は大変厳しく、アメリカが1200Bq/kg、IAEAが1000Bq/kgであるのに対して、日本は100Bq/kgまでと設定されています。

 

震災前からお世辞にもPRが上手ではなくマイナーなイメージがあるかも知れませんが、福島県は特Aランクの米を当然のように量産し続けてきた地域であり、日本屈指の米どころです。さらに、米を原料とする日本酒でも、全国新酒観評会金賞受賞数3年連続日本一の実績をはじめ、国内外問わず、数々の大会で非常に高く評価されています。日本酒の世界での福島はいわば、ワインで言うところのフランスの名醸造地ボルドーやブルゴーニュに匹敵する可能性を秘めていると言っても過言ではありません。

 

当然ながら、福島での米の生産量は膨大な量に及びます。たとえば平成27年度に生産された米の量は、30kg袋にして10,403,661点にもなります。この量をすべて検査しているのです。そして、国際的にも極めて厳しい日本の食品に対する放射線量基準で不合格とされた米の量は、実は0袋です。

 

2015年度には一袋たりとも基準値を超えることはなく、すべての米が玄米の段階において、非常に厳しい基準をクリアしています。しかも内訳は、そのうち99.99%が検出限界値である25Bq/kgを下回っています(下回ったからといって、基準値ぎりぎりの24Bq/kg付近であるわけではありません)。しかも、それを実際に食べようとした場合、精米から米を研ぎ、炊飯するまでの過程で放射線の数値はさらに約10分の1程度まで低下することが判っています(注3)。

 

(注3)ふくしまの恵み安全対策協議会HPより

 

これらの情報は誰でも見られるように公開されており、隠されてなどおりません。むしろこうした事実が知られていない原因は「情報が隠されている」ことではなく、「情報が伝達されていない」、あるいは「流れてきた情報を正しく理解するための下地が様々な意味で整っていない」と見るべきではないでしょうか。

 

冒頭で触れた福島県内での県産品への回帰傾向の背景には、こうした検査体制が県内で次第に認知され、信頼されてきたところが大きいのかも知れません。ところが一方では、次のような調査結果もあります。

 

この共同連載でも執筆している菊池誠氏が、「福島県産の米は生産量の何%程度が放射能検査を受けているか」という質問を設けて、選択肢を 100% 50% 10% 1% 0.1%としたところ、正答率は「福島62.5% 関東 37.5% 関西 36% 九州・沖縄 33%」(対象は4地域とも200人)という結果でした(飯田泰之氏と荻上チキ氏による去年の12/22号SPA!に掲載された「週刊チキーダ」のアンケート調査より)。

 

福島県内でさえも3割以上の方が誤答し、他地域にいたってはすべての対象群で誤答の方が多いという散々な有様でした。この事実一つとっても、福島についての情報はいまだ多くの方々に伝わっておらず、そうした方々には震災直後から変わらない誤った理解と先入観が根強く残ったままだと言えるのではないでしょうか。

 

もちろん、たとえ放射線のリスクに漫然とした不安や誤解を抱えた上でも、心から福島を心配して下さる方は非常に多く、最初に紹介したようなインターネット上での心ない言いがかりはノイジーマイノリティだと言ってよいかもしれません。しかしながら、冒頭のNHKの報道は3日程度でリンクが消されてすでに読めなくなっているのに対して、大量のデマや誤解による無責任な言論は増え続ける一方です。ネット上にはとっくに間違いだと明らかになったものも含めて、いつまでも大量に残り続けています。

 

結果として、福島に関するネット上の情報は、下記に貼り付けたグーグル検索に見るように、深刻なサジェスト汚染にさらされてしまいました。まるで悪貨が良貨を駆逐するかのように、悪質なデマが事実とは無関係に広がっています。福島に関する情報を調べようとすると、ほとんどの場合、デマや心ない誹謗中傷を避けることができなくなっていて、正しい情報にたどり着けないことも珍しくありません。

 

こうした悪循環が情報更新を妨げて、「なんとなく不安」である方がまともな情報に触れるきっかけを奪うことが、さらなる二次被害を増やしているのではないでしょうか。

 

 

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そもそも基準値を超えて被曝すると何が起こるのか?

 

とはいえ、そもそも基準値自体が健康被害を防ぐという目的を達成するために設定されている以上、「万が一その基準値を超えたと仮定した場合に何が起こってくるか」がもっとも大切です。

 

基準値制定の理由については厚生労働省のHPに記載があります。「平成24年4月に現行の基準値を施行しました。(従来の暫定基準値は5ミリシーベルト)この基準値は、年間線量の上限値を年間1ミリシーベルトとしています。」として、食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会の基準を根拠としたことなどに言及する一方で、同時に

 

 

「100ミリシーベルト未満の低線量による放射線の影響は、科学的に確かめることができないほど小さなものと考えられています。」

 

 

とも明記しています。

 

つまり、日本が規制値として設定した数値と、僅かにリスクが確認できる数値までの間には100倍程の開きがあり、少なくとも食品に関して言えば、「たとえ基準値ぎりぎりの食品ばかりを食べ続けていたとしても、科学的に確かめられることができないとされている小さな被曝量の、さらに100分の1以下の被曝量に抑えられる」ということです。(なお、補足として、食品中に含まれるセシウム(単位Bq)を摂取した場合の内部被曝量(単位mSv/年)換算については、学習院大学の田崎晴明教授が作成したページで詳しく解説されています。仮に15歳以上の人がセシウムで年間1mSvの追加被曝量に達するまでには、毎日約178ベクレルの摂取が想定されています。)

 

そもそも、1990年のICRP勧告で、公衆に対して年間1mSvを限度とする被曝量が設定された際も、「ラドン被曝を除いて」1mSvとされています。ブラジルのガラパリ地方やインドのケララ地方など、極端に自然放射線量の高い地域を例に出すまでもなく、ラドンなど自然界由来の放射性物質の影響により、北欧などでは年間の被曝線量が5~7mSvを超える地域も珍しくありません。仮に年間被曝量が1mSvを超えることがあったとしても、これらの地域以下の被曝線量で健康被害が増加することを立証することはできておらず、これから新たに危険性が「発見」される可能性も限りなくゼロであるといえます。

 

被曝による影響は、過去に公害病が「被害発生当時に原因や影響が不明であった」こととは異なり、長年の研究ですでに判っていることばかりです。だからこそ、「100ミリシーベルト未満の低線量による放射線の影響は、科学的に確かめることができないほど小さなものと考えられています」との記述にも繋がるのでしょう。

 

しかし原発事故後の日本における基準設定(米国1200Bq/kg、IAEA1000Bq/kgに対して、日本は100Bq/kg)は、事故後の混乱の中で生活者や消費者に対して「絶対的な安心」(≠新たな安全神話)を確保しようとしたあまりに基準値を極端に厳しくした結果、年間1mSvという言葉だけが独り歩きをはじめました。これは、リスクを判断するための相場観や社会的合意形成を妨げて、かえって不安や被害を拡大させた面もあったように感じます。

 

しかも基準値をそこまで厳しく設定したにも関わらず、実際には、その基準値ぎりぎりの食品自体さえもが市場に出回っていません。先ほど書いたように、たとえば米は検査したうちの99.99%が検出限界値25Bq/kg未満である上に、精米や炊飯の過程でさらに減少します。意図的に摂取しようとしても、市場に流通している食品を食べている限りは、科学的に影響が確認できない基準の100分の1に達することすら事実上不可能なのです。

 

同じ食品摂取による別のリスクとも比較してみましょう。たとえば食塩。60kgの体重の方での致死量がたったの300g、一日辺りの摂取量が男性で8g未満女性7g未満が推奨されています。食塩の方が、基準値以内の放射性物質を含む食品の摂取よりも、遥かに健康への影響の閾値は低く、リスクは桁違いに高いと言えます。塩分は一般的なカップ麺を3食食べただけで、病気のリスク増大どころか致死量の5.5%相当が一気に摂取されてしまいます。

 

 

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スマート・ライフ・プロジェクト 事務局(厚生労働省 健康局 がん対策・健康増進課による運営)HPより抜粋

 

 

なお補足として、ストロンチウムの危険性を訴える声もあるものの、東電原発事故でのストロンチウムの飛散量はセシウムに対しておおよそ1000分の1の比率です。セシウムですらほぼ検出されない状況下において、その1000分の1の危険性を懸念する必要はありません(飛散する前の内容物の比率があらかじめ把握されている以上、飛散した後に比率が激変することはありません)。

 

また、ラドンは自然の放射線である一方で、セシウムは人工の放射線であるから危険性が違うとの指摘も予想されますが、人工であれ自然であれ放射線による影響は同じです。たとえるならば、高所から飛び降りる際に木の上から飛び降りようがビルから飛び降りようが、リスクを考える上で重要なのは高さであって、登っている対象そのものではないことと同様です。

 

さらには、食品に対しての検査方法や機器の信ぴょう性を疑う声も良く聞かれますが、「そもそも、これだけ福島の農作物の危険性を訴えたくて仕方がない方が社会に溢れている中で、市場にはすでに莫大な数のサンプルが流通しているにも関わらず、流通している食品中から100Bq/kgという極めて厳しい基準値を超えたものすら、彼らの誰一人として見つけ出すことができていない」という事実を、まずは重視するべきではないでしょうか。【次ページにつづく】

 

 

 

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