2016.09.05

若者の住まいの貧困――定住と漂流

小田川華子 社会福祉学

社会 #若者の貧困#住まいの貧困

働く世代で貧困が広がっている。若いうちから収入が安定しないということは、すなわち、住まいが安定しないということに直結する。本稿では、住まいにスポットを当てて若者の貧困問題をとらえ、家賃補助制度などの施策の必要性について検討する。

若者の貧困

2008年ごろから子どもの貧困率の高さが注目されるようになってきた。実は、男性のなかで最も貧困率が高いのは20代前半の21.8%である。女性では高齢期の貧困が深刻だが、65歳未満で最も貧困率が高いのは、やはり20代前半の19.5%である。図1、図2を見てみると、働く世代のなかでも特に50歳くらいまでの貧困率は1980年代半ばに比べて大きく上昇していることがわかる。

<図1 男性の年齢層別相対的貧困率(1985年と2012年の比較)> 出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)
<図1 男性の年齢層別相対的貧困率(1985年と2012年の比較)>
出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)
<図2 女性の年齢層別相対的貧困率(1985年と2012年の比較)> 出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)
<図2 女性の年齢層別相対的貧困率(1985年と2012年の比較)>
出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)

80年代半ばには、高校や大学を卒業した後、就職して正社員となり、安定的な収入を得る人(主に男性)が多かった。しかし現在では、非正規雇用の増加にともない、そのようなコースを歩む人が減っていることが貧困率上昇の背景にある。終身雇用が当然のように思われていた時代には、新卒で民間アパートに住み、結婚して社宅に移り、そのうち持ち家にという「住宅すごろく」が描かれたが、今やそれは伝説となった。現在のような厳しい社会状況にあって、若者たちは、どこに住んでいるのだろうか?

実家に「定住」する若者

図3は35~44歳の未婚者のうち、親と同居しているものとその割合の推移を示したものである(山田2015)。1990年に急激に増え、その後、増加傾向がつづいている。2010年には300万人弱、16%となり、2012年には305万人にまで増加しているという。そして、彼らの失業率や非正規率は、自立している人々に比べて高いことが指摘されている。このことから、これらの人々は経済的理由で親元に同居していることが推測される。

 <図3 親と同居の壮年未婚者(35~44歳)数の推移―全国(1980,1985,1990,1995-2010年)> 出所:山田正弘(2015)「女性労働の家族依存モデルの限界」小杉礼子・宮本みち子編著『下層化する女性たち―労働と家庭からの排除と貧困』勁草書房、pp.23-44. http://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/pdf/zuhyou/sanko3-2.pdf

<図3 親と同居の壮年未婚者(35~44歳)数の推移―全国(1980,1985,1990,1995-2010年)>
出所:山田正弘(2015)「女性労働の家族依存モデルの限界」小杉礼子・宮本みち子編著『下層化する女性たち―労働と家庭からの排除と貧困』勁草書房、pp.23-44.

2014年に年収200万円以下の20~40代男女を対象に、認定NPO法人ビッグイシュー基金「住宅政策提案・検討委員会」が行った調査(回答者数1,767人)からは、親と同居する若者の5割が自分で住居費を負担できないから親と同居していることが明らかになった。このことは前述の山田の指摘の裏付けにもなるであろう。

(参考:http://bigissue.or.jp/pdf/teiannsyo2.pdf

低収入とはいえ、親と同居している若者は実家という比較的安定な住まいに「定住」することができている。しかしながら、見方を変えると、親の住まいのなかに若者の貧困が隠されてしまっているともいえる。実家から出て独立したいのにできないのであれば、「定住」は必ずしも肯定的な状態とは言えない。委員会メンバーであった藤田孝典氏は報告書のなかで「実家という名の牢獄」と表現しているほどである。

若者自身が収入を得て、生活基盤を固められないままに実家を出ることになれば、とりあえずの居場所を転々とするなどし、住居喪失、いわゆるホームレス状態に陥るリスクも高まるのである。それが次に述べる「漂流」する若者である。

「漂流」する若者をとらえる

 

(1)国民生活基礎調査

働く世代(20~64歳)の貧困率を、世帯タイプ別(図4、図5)に見てみると、ひとり親世帯の貧困率が最も高いことは無視できないが、ここで注目したいのは、単身者の貧困率が高いことである。男性単身者では4人に1人、女性単身者では実に3人に1人が貧困である。親元から離れ、単身で暮らす勤労世代の若者の困窮が非常に深刻である。

日本では、働く貧困層に対する社会的支援施策は非常に手薄である。また、実家に頼ることのできないなかで、不安定な仕事と住まいの間を漂うように生活している若者の姿が、次に紹介する調査の結果から見えてくる。

<図4 稼働年齢層の男性世帯タイプ別貧困率> 出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)
<図4 稼働年齢層の男性世帯タイプ別貧困率>
出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)
<図5 稼働年齢層の女性の世帯タイプ別貧困率> 出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)
<図5 稼働年齢層の女性の世帯タイプ別貧困率>
出所:「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006,2009,2012年」貧困統計ホームページ(www.hinkonstat.net)

(2)シェアハウス調査から

困窮する単身の若者が自力でアパートを借りようとした場合にまずぶち当たるのが、初期費用が払えない、家賃が払えない、転居費用が払えない、保証人を立てることができない、といった借り手側の問題だ。そして、家賃滞納リスクが大きいとして貸し渋りをする家主側の問題もある。そこで、初期費用や賃料が安く、連帯保証人不要などで入居契約の敷居が低いシェアハウスの需要が大きくなっている(注1)。

(注1)「シェアハウス市場調査2013年度版」(日本シェアハウス・ゲストハウス連盟・シェアシェア,2014)によると、2013年8月末現在、シェアハウス運営事業者は598社にのぼり、(1ヶ月以上の中長期型滞在向け)シェアハウスは全国に2,744件、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)だけで9割を占める。

大都市(主に首都圏)の低所得の若者の受け皿となっているとみられる、「非常に狭小あるいは窓がない」といった違法なシェアハウス入居者の実態について、2013年に国土交通省が調査している(注2)。

(注2)最低居住面積基準は単身の場合25㎡であるが、シェアハウスの場合、建築基準法上、「寄宿舎」の基準が適用され、最低専有面積は東京都の場合7㎡である。国交省によるシェアハウス調査の分析については拙著(2014)を参考されたい。

ネット調査会社に登録する関東圏の20歳以上の男女を対象とするインターネット調査によると、「狭小・窓無し」シェアハウス入居(経験)者146人の雇用形態は、4割が正社員である。一方で、派遣社員、契約社員、パートタイマー、アルバイト、日雇い労働者といった非正規雇用と自営業・自由業を合わせた収入が不安定な人が4割強である。

入居前と退去後の住居形態(図7)を見てみると、約半数は戸建て住宅または分譲住宅が直前の住居で、おそらく実家とみられる。大きな流れとして、実家から劣悪なシェアハウスにいったん出たものの、また実家に戻るというパターンがあると思われる。

<図7 狭小・窓無しシェアハウス入居前・退去後の住居>
<図7 狭小・窓無しシェアハウス入居前・退去後の住居>

その一方で、2割余りがシェアハウス・ゲストハウス、あるいは寮・社宅、ネットカフェ・漫画喫茶、カプセルホテルといったような非常に不安定なところから「狭小・窓無し」という劣悪なシェアハウスに移ってきている。そして、2割弱の人々がシェアハウス退去後もそういった不安定なところに転居していることが明らかとなった。

直前に実家やアパートに住んでいた人が「狭小・窓無し」退去後に不安定な住居に移ったケースもあるだろうことを勘案すれば、およそ3割が不安定な住居形態を渡り歩いていることが推測される。

(3)不安定就労の若者への聞き取り調査から

不安定な住まいを渡り歩く若者の実態は、筆者が参加した聞き取り調査から具体的にわかってきた。2014年から15年にかけ、首都圏の不安定就業または生活保護受給の賃貸住宅に住む単身の若者を対象に行った、「住まいと仕事の変遷および現在の住まいの実態」についての聞き取り調査だ(注3)。本調査は、市民団体である「住まいの貧困に取り組むネットワーク」と研究者で構成する貧困研究会が行った。

(注3)大都市の住まい実態調査プロジェクト(2015)「生活困窮者の住居の在り方に関する実態調査報告書」2014年済生会生活困窮者問題調査会調査研究助成事業.(恩賜財団済生会ホームページで公開)

分析対象となった28人から聞かれたのは、次のような事例である。まず、非正規の仕事を転々としながら所持品や生活費を極力抑え、シェアハウスからシェアハウス、あるいは社宅へと転居を繰り返した経験。または自力でアパートを確保したものの、だんだん仕事が減って収入も少なくなり、家賃が払えなくなって寮付きの派遣の仕事に移った経験や、寮付きの正社員の仕事を転々とした経験などである。事例を2つ紹介しよう。

<事例1>「シェアハウスを転々と」30代前半、女性、首都圏出身、大卒

大卒後、IT関連会社に正社員として就職し、アパートに住んだが、職場でのハラスメントに悩み、退職。業務委託の家庭教師と派遣の販売の仕事をすることにしたが、収入が減ったのでシェアハウス(ベッドスペースのみ)へ。しかし、家主とシェアハウス運営会社がもめ、水道が使えなくなったため、別のシェアハウス(ベッドスペースのみ)に転居。

仕事がだんだん減ってしまったので、派遣の事務職に転職。その間に同居人とのトラブルで、別のシェアハウス(個室)に転居。「そこに居られるだけ居たい」が、引っ越しでお金がかからないよう荷物はなるべく増やさないようにしている。手取り収入13万円、家賃4.2万円、残り8万円ほどで税金、保険料支払い含め、やりくりしており、生活は「ちょっと厳しい」。

<事例2>「寮付き正社員を転々と」40代後半、男性、東海出身、大卒

大卒後、IT関連会社に正社員として就職し、社宅住まいだったが、仕事がうまくいかず退職。その後、寮付きの正社員の仕事(飲食業・ホテル業など)を転々とした。寮がなく、シェアハウスに住んだ時もあった。職場の紹介でアパートに入居したこともあったが、職場でカツアゲされて困窮し、家賃滞納、債務問題を抱え、8か月で追い出された。この時に「実家に迷惑をかけ、縁を切られた」。

その後、寮付きの建設アルバイトをしたが、翌朝の仕事場に合わせて前日のうちに近くまで移動し、ネットカフェで寝泊りするようになった(月6万円)。しかし、「寝床が欲しかった」ので、ネットで検索し、支援団体のシェアハウスに入居できることになった。

貯金も引っ越し荷物もほとんどない状態で、家族とも縁が切れていたので、アパート入居は無理と思っていた。手取り収入は月によって異なり、平均25万円程度だが、借金返済もあったので社会保険料は滞納している。住民税を払うのが厳しい。現在の仕事は体力的にいつまで続けられるか不安。

これらの人々は仕事と住まいの両方が定まらないため、生活の基盤が非常に弱い。いったん「漂流」のサイクルに入ってしまうと、そこから抜け出すのは容易ではない。けがや病気、解雇などをきっかけとして住居喪失状態に陥ってしまうリスクも高い。

シェアハウスと社宅・寮の間で漂流

聞き取り調査から、働きながら仕事と住む場所を転々とする、「漂流」する人々の姿が捉えられたわけだが、彼らがどこで「漂流」しているかというと、シェアハウスや社宅・寮、あるいは職場(寝泊り)であった。

シェアハウスは貯金がなくても何とか手が届く(狭い居室、設備共用ゆえの安さ、安い初期費用)。家具家電が備え付けなので購入しなくてもよく、転居の際、身軽である(転居費用を抑えられる)。また、職探しや職場にアクセスしやすい立地にあることが多いので、交通費が支給されない通勤や求職活動で負担感が少ない。

契約時に保証人不要など審査がゆるく、すぐ入居可の物件が多いので、転職などの急な転居に対応しやすい。このように、シェアハウスは生活が不安定、低所得な人々にとって、選択肢がないなかでの「選択」となっているのである。

一方、社宅や寮は、仕事と住まいを同時に失うリスクを常にはらんでおり、また、住宅を手玉にとって労働者を搾取する構造にもつながる。そのため、国際労働機関(ILO)は1961年にすでに、「労働者住宅勧告」にて「使用者がその労働者に直接住宅を提供することは望ましくない」との勧告を出している。

日本では、大企業が従業員の福利厚生として提供してきた社宅に、住宅保障機能を依存してきた政策的経緯があり、その時代の社会状況はこの勧告が前提としているものとは異なっていた。しかしながら、グローバル化などを経て社会状況は大きく転換し、非正規雇用を増やすことで経営を成り立たせる企業が増えるなか、住宅を手玉にとって労働者を搾取する構造が現代日本の根底にはびこりつつある。

若者が仕事を失っても、住まいを失わないこと、住まいを足掛かりに再起できるようにすることが重要である。それには、安価な寝場所を提供する企業に放任していてはならない。また、アパートからじわじわと押し出され、悪魔の碾き臼のような不安定就労、不安定居住で心身をすり減らす生活に陥るのを防止するセーフティネットが必要である。

仕事をしている低所得者が利用できる住宅支援策を適切に講じなければならない。これは、一億総活躍社会の大前提として、必要不可欠な施策である。

住宅政策で若者に着地点を

前節でみた低所得の若者がおかれている状況は、根本的には、雇用政策と住宅保障政策で対処されるべき問題である。雇用政策としては、非正規雇用が増加し続ける構造にメスを入れて正規雇用を増やし、若者が安定した収入を得て目標や夢をもって生きることを支える施策が求められる。

また、不安定就業の広がりが所与の社会的条件であるとするなら、住まいだけでも安定的に確保できる施策が必要である。数年前から、民間賃貸住宅の空き家を活用した住宅支援施策が行われてきている。

しかし、貸し手と借り手が直接賃貸借契約する形式をとる場合に難しいのは、低所得者や収入が不安定な人、家族との縁が切れている人は滞納などのリスクが高いとして、家主(貸し手)のおメガネにかなわず、契約に至りにくい点である。住宅支援策と位置付けられてはいるものの、困窮する勤労者や保証人や緊急連絡先などを立てられない、「つながり」の希薄な人々は排除されがちである。よって、こうした人々をも受け入れる賃貸住宅の供給が求められる。

もう一つの住宅供給施策は、自治体が民間住宅を借り上げ、入居者は自治体と賃貸借契約を結ぶ仕組みをつくるものである。こういった借り上げ公営住宅は準公営住宅とみなすことができ、困窮リスクの高い若者の住宅確保、住環境の改善が期待できる。低所得の若者が入居でき、なおかつ住宅としての最低限の質を備えた賃貸住宅の供給を増やすことは非常に重要な政策課題である。しかし、量的、立地的ニーズに柔軟に対応することは困難である。

そこで、個人に対する経済的な支援策が重要になる。その一つは、低所得者に対する家賃補助制度である。家賃は通常、家計支出のもっとも大きな部分を占める費目であることから、家賃補助は生活保護に陥る手前のセーフティネットとして非常に重要である。

家賃補助が得られることにより、収入が逓減した際に家賃滞納をしなくてすむようになる。アパートはそのままで、収入面の立て直しを図ることができる。住居喪失のリスクも減る。転居する場合にもアパート契約のハードルが下がる。

準公営住宅や家賃補助など、若者向けの住宅支援策を整備、充実させることにより、漂流する若者、実家に定住せざるを得ない若者が、安定的な生活基盤を築くための住居という選択肢をもてるようになる。そうすれば、希望が湧いてくる。若者向けの住宅支援策は、希望を抱く若者を増やし、社会に活力をもたらすことにもつながるはずである。

プロフィール

小田川華子社会福祉学

首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター特任研究員(博士・社会福祉学)。花園大学専任講師、横浜国立大学等非常勤講師を経て現職。主な著書に、「低所得層の住まいの保障の課題: 賃貸住宅へのアクセス阻害要因の観点から」社会政策学会編『社会政策』No.6-1、ミネルヴァ書房(2014)/「不安定な住まいに滞留する生活困窮者:狭小・窓無しシェアハウス調査からみえるもの」『貧困研究』13、明石書店(2014)/「住宅困窮問題と生活保護および住宅政策」橘木俊詔・宮本太郎監修・埋橋孝文編著『生活保護:福祉+α』4、ミネルヴァ書房(2013)など。

この執筆者の記事