若者の住まいの貧困――定住と漂流

(3)不安定就労の若者への聞き取り調査から

 

不安定な住まいを渡り歩く若者の実態は、筆者が参加した聞き取り調査から具体的にわかってきた。2014年から15年にかけ、首都圏の不安定就業または生活保護受給の賃貸住宅に住む単身の若者を対象に行った、「住まいと仕事の変遷および現在の住まいの実態」についての聞き取り調査だ(注3)。本調査は、市民団体である「住まいの貧困に取り組むネットワーク」と研究者で構成する貧困研究会が行った。

 

(注3)大都市の住まい実態調査プロジェクト(2015)「生活困窮者の住居の在り方に関する実態調査報告書」2014年済生会生活困窮者問題調査会調査研究助成事業.(恩賜財団済生会ホームページで公開)

 

分析対象となった28人から聞かれたのは、次のような事例である。まず、非正規の仕事を転々としながら所持品や生活費を極力抑え、シェアハウスからシェアハウス、あるいは社宅へと転居を繰り返した経験。または自力でアパートを確保したものの、だんだん仕事が減って収入も少なくなり、家賃が払えなくなって寮付きの派遣の仕事に移った経験や、寮付きの正社員の仕事を転々とした経験などである。事例を2つ紹介しよう。

 

 

<事例1>「シェアハウスを転々と」30代前半、女性、首都圏出身、大卒

 

大卒後、IT関連会社に正社員として就職し、アパートに住んだが、職場でのハラスメントに悩み、退職。業務委託の家庭教師と派遣の販売の仕事をすることにしたが、収入が減ったのでシェアハウス(ベッドスペースのみ)へ。しかし、家主とシェアハウス運営会社がもめ、水道が使えなくなったため、別のシェアハウス(ベッドスペースのみ)に転居。

 

仕事がだんだん減ってしまったので、派遣の事務職に転職。その間に同居人とのトラブルで、別のシェアハウス(個室)に転居。「そこに居られるだけ居たい」が、引っ越しでお金がかからないよう荷物はなるべく増やさないようにしている。手取り収入13万円、家賃4.2万円、残り8万円ほどで税金、保険料支払い含め、やりくりしており、生活は「ちょっと厳しい」。

 

 

<事例2>「寮付き正社員を転々と」40代後半、男性、東海出身、大卒

 

大卒後、IT関連会社に正社員として就職し、社宅住まいだったが、仕事がうまくいかず退職。その後、寮付きの正社員の仕事(飲食業・ホテル業など)を転々とした。寮がなく、シェアハウスに住んだ時もあった。職場の紹介でアパートに入居したこともあったが、職場でカツアゲされて困窮し、家賃滞納、債務問題を抱え、8か月で追い出された。この時に「実家に迷惑をかけ、縁を切られた」。

 

その後、寮付きの建設アルバイトをしたが、翌朝の仕事場に合わせて前日のうちに近くまで移動し、ネットカフェで寝泊りするようになった(月6万円)。しかし、「寝床が欲しかった」ので、ネットで検索し、支援団体のシェアハウスに入居できることになった。

 

貯金も引っ越し荷物もほとんどない状態で、家族とも縁が切れていたので、アパート入居は無理と思っていた。手取り収入は月によって異なり、平均25万円程度だが、借金返済もあったので社会保険料は滞納している。住民税を払うのが厳しい。現在の仕事は体力的にいつまで続けられるか不安。

 

 

これらの人々は仕事と住まいの両方が定まらないため、生活の基盤が非常に弱い。いったん「漂流」のサイクルに入ってしまうと、そこから抜け出すのは容易ではない。けがや病気、解雇などをきっかけとして住居喪失状態に陥ってしまうリスクも高い。

 

 

シェアハウスと社宅・寮の間で漂流

 

聞き取り調査から、働きながら仕事と住む場所を転々とする、「漂流」する人々の姿が捉えられたわけだが、彼らがどこで「漂流」しているかというと、シェアハウスや社宅・寮、あるいは職場(寝泊り)であった。

 

シェアハウスは貯金がなくても何とか手が届く(狭い居室、設備共用ゆえの安さ、安い初期費用)。家具家電が備え付けなので購入しなくてもよく、転居の際、身軽である(転居費用を抑えられる)。また、職探しや職場にアクセスしやすい立地にあることが多いので、交通費が支給されない通勤や求職活動で負担感が少ない。

 

契約時に保証人不要など審査がゆるく、すぐ入居可の物件が多いので、転職などの急な転居に対応しやすい。このように、シェアハウスは生活が不安定、低所得な人々にとって、選択肢がないなかでの「選択」となっているのである。

 

一方、社宅や寮は、仕事と住まいを同時に失うリスクを常にはらんでおり、また、住宅を手玉にとって労働者を搾取する構造にもつながる。そのため、国際労働機関(ILO)は1961年にすでに、「労働者住宅勧告」にて「使用者がその労働者に直接住宅を提供することは望ましくない」との勧告を出している。

 

日本では、大企業が従業員の福利厚生として提供してきた社宅に、住宅保障機能を依存してきた政策的経緯があり、その時代の社会状況はこの勧告が前提としているものとは異なっていた。しかしながら、グローバル化などを経て社会状況は大きく転換し、非正規雇用を増やすことで経営を成り立たせる企業が増えるなか、住宅を手玉にとって労働者を搾取する構造が現代日本の根底にはびこりつつある。

 

若者が仕事を失っても、住まいを失わないこと、住まいを足掛かりに再起できるようにすることが重要である。それには、安価な寝場所を提供する企業に放任していてはならない。また、アパートからじわじわと押し出され、悪魔の碾き臼のような不安定就労、不安定居住で心身をすり減らす生活に陥るのを防止するセーフティネットが必要である。

 

仕事をしている低所得者が利用できる住宅支援策を適切に講じなければならない。これは、一億総活躍社会の大前提として、必要不可欠な施策である。

 

 

住宅政策で若者に着地点を

 

前節でみた低所得の若者がおかれている状況は、根本的には、雇用政策と住宅保障政策で対処されるべき問題である。雇用政策としては、非正規雇用が増加し続ける構造にメスを入れて正規雇用を増やし、若者が安定した収入を得て目標や夢をもって生きることを支える施策が求められる。

 

また、不安定就業の広がりが所与の社会的条件であるとするなら、住まいだけでも安定的に確保できる施策が必要である。数年前から、民間賃貸住宅の空き家を活用した住宅支援施策が行われてきている。

 

しかし、貸し手と借り手が直接賃貸借契約する形式をとる場合に難しいのは、低所得者や収入が不安定な人、家族との縁が切れている人は滞納などのリスクが高いとして、家主(貸し手)のおメガネにかなわず、契約に至りにくい点である。住宅支援策と位置付けられてはいるものの、困窮する勤労者や保証人や緊急連絡先などを立てられない、「つながり」の希薄な人々は排除されがちである。よって、こうした人々をも受け入れる賃貸住宅の供給が求められる。

 

もう一つの住宅供給施策は、自治体が民間住宅を借り上げ、入居者は自治体と賃貸借契約を結ぶ仕組みをつくるものである。こういった借り上げ公営住宅は準公営住宅とみなすことができ、困窮リスクの高い若者の住宅確保、住環境の改善が期待できる。低所得の若者が入居でき、なおかつ住宅としての最低限の質を備えた賃貸住宅の供給を増やすことは非常に重要な政策課題である。しかし、量的、立地的ニーズに柔軟に対応することは困難である。

 

そこで、個人に対する経済的な支援策が重要になる。その一つは、低所得者に対する家賃補助制度である。家賃は通常、家計支出のもっとも大きな部分を占める費目であることから、家賃補助は生活保護に陥る手前のセーフティネットとして非常に重要である。

 

家賃補助が得られることにより、収入が逓減した際に家賃滞納をしなくてすむようになる。アパートはそのままで、収入面の立て直しを図ることができる。住居喪失のリスクも減る。転居する場合にもアパート契約のハードルが下がる。

 

準公営住宅や家賃補助など、若者向けの住宅支援策を整備、充実させることにより、漂流する若者、実家に定住せざるを得ない若者が、安定的な生活基盤を築くための住居という選択肢をもてるようになる。そうすれば、希望が湧いてくる。若者向けの住宅支援策は、希望を抱く若者を増やし、社会に活力をもたらすことにもつながるはずである。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

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シノドス国際社会動向研究所

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