災害多発時代の日本にリスクマネジメントが足りない

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1年ぶりにシノドスに寄稿します。前回の寄稿は北海道ブラックアウトについてでした。今回は、そのほぼ1年後に起こった台風15号による千葉県を中心とした長期広域停電について書くことにします。

 

2019年9月9日に千葉県に上陸した台風15号は、一時90万軒以上の需要家を停電させ、1週間経った執筆時点(9月16日13:00)でも約8万軒が依然停電しています。復旧もまだの段階で原因究明や再発防止の議論もこれからですが、現時点で早急に問題提起しなければならないものがあり、緊急寄稿しました。本稿で取り上げたい重要なキーワードはリスクマネジメント、そしてあまり聞きなれないかもしれませんがクライシスコミュニケーションです。

 

 

北海道ブラックアウトの教訓は生きたのか?

 

1年前の拙稿では、リスクマネジメントについて筆者は以下のように述べました。

 

・電力会社を責めても何も解決しないというのが本稿の結論ですが、一方で、電力会社(さらにはその監督省庁)が早急に改善しなければならない点も別に存在します。それは事故後の情報開示です。今回の行動は、3.11の教訓からきちんと学べた結果になっていたでしょうか?

 

危機管理としての情報開示もリスクマネジメントの中の重要な一つの分野ですが、日本の多くの大企業が事故やトラブルの際の初動を誤り、本来不要な疑心暗鬼を増長させてしまうのも、この情報開示の不備・不足が遠因となります。

 

さて、その1年後、今回の台風15号の長期停電に際して、この教訓は生きたでしょうか?

 

答は残念ながらノーです。表1は9月9日の台風15号上陸以降の記者会見や会合などを時系列で並べたものです。東京電力(ホールディングスおよびパワーグリッド)から公表された発言をみて明らかな通り、停電解消の見通しについて公表された情報は「本日中の全面復旧は非常に難しい」(9/9午後)⇒「明日中の復旧を目指します」(9/10夜)⇒「11日中の全面復旧の見通しは立っていない」(9/11午前)⇒「全て復旧するのは13日以降になる見通し」(9/12朝)⇒「2週間以内でおおむね復旧」(9/13夜)と変遷し、日を追ってずるずると長引く結果となっています。これはとりもなおさず、危機管理としての情報発信に失敗していることを意味します。

 

 

表1  2019年台風15号による広域停電に関わる出来事(筆者作成)

 

 

危機管理はクライシスマネジメントとも言われ、リスクマネジメントの一形態であり(簡単にいうとリスクマネジメントが平時の備えを含む全般的な行動で、クライシスマネジメントが緊急時の行動)、さらにクライシスマネジメントの中でも情報公開や情報発信はクライシスコミュニケーションとも呼ばれます。

 

危機的な状況において復旧期間の見通しなど重要情報が二転三転すると、被災者に失望や心労、疑心暗鬼や不信感を与えることになります。特に、一旦アナウンスされた見通しが後から悪化する方向に修正されると、避難行動や救援計画にも支障が出て、最悪の場合、助かったはずの人命が損なわれる可能性もあります。クライシスコミュニケーションとしては悪手です。

 

 

「見通しの甘さ」が発生する構造的問題

 

案の定、メディアやネットでは当該の送配電会社の「見通しの甘さ」について批判が集まっていますが、筆者自身は、リスクマネジメントの観点から、送配電会社を責めるべきではないし、スケープゴート化は何の解決や再発防止にもならない、と考えています。もちろん、被害状況把握や人員手配・復旧作業の効率化や意思決定方法・広報の改善など、今後の再発防止に向け厳しく検証すべき点は多々あります。しかし、今回のケースのような自然災害とそれに伴う広域二次災害の場合、一民間企業のみに責任を押し付けて溜飲を下げるような風潮は、何ら合理的な解決にならないどころか、むしろ問題の再発を誘引するリスクさえあるといえます。

 

このことをわかりやすく説明するために、図1のような最適化問題の概念図を描いてみました。ボールが谷を転がるように下に行けば行くほど最適な状態を表していますが、山あり谷ありの状況では、探索範囲が狭かったり探索方法が単調(下に転がるだけで坂を上ることを許容しない)だったりすると、途中の小さな谷(局所最適解すなわち不適切解)でボールが引っかかり、より低い位置にある最適解に到達しません。

 

クライシスマネジメントやクライシスコミュニケーションもこの最適化問題の図で説明することができます。今回のケースに照らし合わせると、図の範囲 Aは送配電会社や鉄道会社などのインフラ会社、範囲Bは政府や自治体(県)の権限範囲に相当します。一般に政府や自治体(県)は、民間のインフラ会社より大きな権限と情報収集能力を持ち、より広い範囲で最適解を探索することが可能です。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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