2020年東京オリンピック――「ホームレス排除」のない社会を目指して

2013年9月8日、2020年のオリンピック・パラリンピック競技大会(以下「オリンピック」)の東京開催が決定した。僕はこのニュースを複雑な想いで聞いていた。オリンピック開催ともなると、スタジアムやインフラ設備など、街の再開発の規模は想像を超えたものとなるだろう。これまで歴史的にも、街の再開発と同時に、駅や公園、公共施設などで「適正化」と呼ばれる「ホームレス排除」がおこなわれてきた。

 

近年だと渋谷の宮下公園や、江東区の堅川河川敷などが有名だが、行政機関が、時に荒々しいやり方でそこに起居している「ホームレス状態の方」を追い出してしまうことも頻発している。

 

もちろん、駅や公園、公共施設等に無断で違法な形で寝起きすることは、必ずしも良いことだとは思わない。しかし、当事者の声を聞かずに、またきちんとした代替も用意せずに、ただそこから追い立てていくことは、彼ら・彼女らの最後の「居場所」をも奪ってしまうことだ。

 

僕は、オリンピック開催が決定してから、会場予定地近辺や、都内の公園、河川、高架下などを回り、そこで生活する何人かの「ホームレス状態」の方からお話をうかがった。彼らの言葉から、2020年東京オリンピックの「在り方」について考えていきたい。

 

 

「最近、急に少なくなっちまった」

 

佐藤(仮名・70代)さんは都内の高速道路の高架下に住んでいる。数年前にはそのエリアには10数人が寝起きしていたが、僕が訪れた時には佐藤さんを入れて2人のみ。最近、人数が急に減ったという。

 

―― いつごろからここにお住まいですか?

 

「ここには10年以上前からいるよ。5~6年前に1回、埼玉で仕事があって数カ月そこに行ってたんだけど仕事中に倒れちゃって。そのあと戻ってきてからはずっとここかな。」

 

佐藤さんは東北地方出身。中卒後、上京して配管工として働き、いわゆる高度経済成長期の建築ラッシュを現場で支えてきた。家族はいない。路上生活が長い方には多いが、職人気質で朴訥として話す。いまは古紙回収や古本を集めて生計を立てているが、最近は厳しいという。

 

「いまは景気が良くないから(単価が)安くて大変だな。昔は一日頑張れば数千円にはなることもあったんだが。これでもオレは長くやってて「しのぎ」があるから何とかなってるってとこかな。」

 

―― アベノミクスで景気が良くなったと言われていますが。路上にはあまり影響はない?

 

「そうだねぇ。上のほうはあるのかもしれないけど、俺たちは地べたを這いつくばって生きてるから。建築とか土方とかは景気いいのかもしれないけど、オレはもう年でそういう仕事はできないし、心臓もやってるから。」

 

佐藤さんは5~6年前に狭心症で倒れ、救急搬送された。幸い命に別条はなかったものの、本来では通院が必要な状態。以前の埼玉での飯場の仕事(建築現場での住み込み労働)も体調不良で辞めてしまった。年齢や体調面を考えると早急に生活保護等の支援が必要だが、本人はあまり考えていないと言う。

 

「オレはこれまで好き勝手に生きてきたから、いまさら国のやっかいになることは考えていねぇよ。オレらの時代はそうだったんだ。自分でなんとかやっていくさ。」

 

「でも最近、ここらでも若い、あんたぐらいの年の人が増えてきているよ。それは本当に心配だねぇ。どこに食べるものがあるかとか、どうやって缶拾ったり、雑誌拾ったりするかわかってない。よっぽど教えてやろうかと思うんだけど、みんな下向いて元気がないっていうか、一人でポツンとしていて。そういう新しい若い奴が来てはどっかに行って、また新しいやつが来てってのを繰り返している。これは何とかしないとと思うよ。」

 

―― この辺りを少し歩いてみたのですが、佐藤さん以外には他に路上生活されている方がいらっしゃらないように見えました。いま話に出てきた若い方は、どこに寝泊まりしているのでしょうか?

 

「ここら辺も、最近、急に少なくなっちまった。若い奴はよくわからないな。そこのファミレスとかにいるのかな。転々としているような気がするな。」

 

「元々この辺りにいたやつが何でいなくなったのか、実はよくわからないんだ。でも、最近、役所の人が来たり、はやく出てってくれと言われている。そこの交差点のとこも一人寝てたんだけど、いまはああなっている。(写真1)オレも隙間を見つけて何とか寝てるよ(笑)。最近、居づらいなぁと思ってる。」

 

 

(写真1)ホームレスの方がいられないようにしている

(写真1)ホームレスの方がいられないようにしている

 

 

 

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