年金制度改革から生まれた低年金・無年金者の「ばくち」

高齢者の貧困問題・生活保護・年金

 

貧困問題というとその対策の中心は生活保護をめぐる議論の重要度が高くなるが、仕事から引退した高齢世代にとって、所得の保障は生活保護よりも、第一義的には公的年金の重みが増す。しかし、公的年金の比重は貧困救済よりも、現役時代と遜色のない消費水準を多くの高齢者が引退後にも維持することに置かれているため、平均的高齢者像を中心にすえて制度設計が図られる。そうすると、年金制度のなかで低所得高齢者の問題の扱いは年金改革の議論の中心とはなりにくい。

 

しかしながら、社会保障給付費のうち年金が占める割合は半分であり[*1]、高齢者世帯の所得の7割が公的年金による収入でありながら[*2]、依然として無年金・低年金者が存在し、高齢者の貧困率も低くはない[*3]。

 

[*1] 国立社会保障・人口問題研究所「2011年度 社会保障費用統計」http://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/fsss-h23/fsss_h23.asp

 

[*2] 厚生労働省「2012年 国民生活基礎調査の概況」http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa12/index.html

 

[*3] 高齢者の相対的貧困率は19.4%であり、この貧困率は等価可処分所得の中央値の半分を下回る高齢者の割合(OECD基準の相対的貧困率、2010年、OECD Income Distribution database)。

 

そうした状況を反映してか、「最後のセーフティネット」である生活保護の受給者のうち、高齢者世帯が占める割合は45%と高くなっている[*4]。生活保護を必要とする高齢者が少なくはないということは、現在の年金制度では無年金・低年金の発生を十分に防げていないのではないだろうか。確認する必要がある。

 

[*4] 厚生労働省「被保護者調査(2014年1月概数)」http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/hihogosya/m2014/01.html

 

 

日本の年金制度の概要

 

低年金・無年金問題に入る前に、日本の年金制度の概略を一度おさえよう。

 

日本の公的年金は2階建てとなっており、1階部分は全員共通の国民年金(そこから得られる給付は、老齢基礎年金・障害基礎年金・遺族基礎年金)、2階部分は勤労所得を得ている会社員や公務員が加入する厚生年金、共済年金である。その上の3階部分は、個々人がそれぞれの意思で自由に加入したり、あるいは勤め先の会社単位で任意に設置された個人年金や企業年金とよばれる各種の私的な年金保険だ。

 

国民年金にしても厚生年金にしても、保険料を納めた期間、納めた保険料の総額によって将来の年金額が決定されるから、現役時代に所得の低い人は高齢期にも低年金となるリスクにさらされることになる。

 

本稿は、低所得高齢者と年金の問題が中心的な論点であるから、とくに1階部分の年金に注目していくことになる。

 

 

これまでの年金制度改革:年金改革の本流は給付抑制

 

日本の年金制度は、1954年に現在の制度の原型となる厚生年金が、1961年に国民年金がつくられ、以後、給付水準が引き上げられてきた。しかし、給付拡大の流れはすでに1985年の年金制度改革以降転換し、それ以後は給付を抑えていくための改革が行われている。

 

人口構造の変化や経済情勢の変化にもちこたえる持続可能な年金制度にしていくために、年金制度の支出にあたる給付をカットしていくと同時に、あわせて、年金制度の収入にあたる保険料も引き上げられてきた。

 

 

■給付水準の引き下げ:1985年、2000年、2004年

 

年金の水準については、年金額が現役世代の賃金のどの程度に匹敵するかをあらわす所得代替率(所得代替率=年金額÷男性の手取り賃金)が指標になる。夫が会社員で妻が専業主婦で40年間過ごす夫婦世帯の年金額を「モデル年金」として所得代替率の目安としてきた。そんな夫婦がどれだけ存在しているのか、という疑問はさておき、このモデルでは夫が老齢基礎年金(満額)と老齢厚生年金を、妻が老齢基礎年金(満額)を受け取ると想定している。

 

1985年の年金改革当時、従前の仕組みをそのままにしておくと、所得代替率は将来的に83%〜109%(現役世代よりも年金受給者の収入が高いなんてことも!)にもなる状態だった。これを69%水準に抑えるために、給付水準の削減を行った。

 

2000年改革では、厚生年金の水準を5%削減し、その結果モデル年金の所得代替率は59%に下がることになった。さらに、2004年改革では、高齢化のピークを乗り切るために、所得代替率を50%に引き下げ、長期的にこの水準を維持するとした。

 

 

■支給開始年齢の引き下げ:1994年、2000年改革

 

また、給付を抑制するために、年金の支給開始年齢も引き上げられてきた。まず1994年改革で、厚生年金の定額部分(現在の制度では老齢基礎年金にあたる1階部分)を2001年から2013年にかけて、60歳から65歳に引き上げる事が決まった。その後の2000年改正では、厚生年金の報酬比例部分(2階部分)も2025年までに65歳に引き上げられることとなった。

 

最近では、社会保障・税一体改革において、支給開始年齢の65歳以上への引き上げが議論されたが、具体案は提示されなかった。

 

 

 

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