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2019.01.15

気候工学は地球温暖化の救世主になりうるのか?

桑田学氏インタビュー

【今月のポジだし!】こうすれば日本の雇用はよくなる!――「出向・留社ネットワーク」を創ろう

常見陽平

ナッジ――働きかけと自発性のあいだで

那須耕介

中欧における「法の支配の危機」――EU内部に深まる亀裂

東野篤子

学び直しの5冊〈東南アジア〉

外山文子

自民党シンクタンク史(3)――東京財団の時期・後編

鈴木崇弘

【知の巨人たち】ロールズ――社会的分断の超克はいかにして可能か

大澤津

新年あけましておめでとうございます。シノドスの芹沢一也です。今年も「αシノドス」をどうぞよろしくお願いいたします。

最初にお知らせがあります。これまで月に2回配信してきた「αシノドス」ですが、今年から月に一度の配信に変更いたします。しかし、一冊のボリュームはこれまでの二冊分と変わりません。一回にまとめて、二冊分のボリュームのなかで「αシノドス」を作成したほうが、よりバラエティに富み、バランスの取れた、より読み応えのある紙面構成が可能になるのではないかと思うに至りました。ぜひ、これからの「αシノドス」をぜひご期待ください!

ということで、「αシノドス vol.259」のラインナップをご紹介します。最初に環境思想史をご専門とする桑田学氏へのインタビュー、「気候工学は地球温暖化の救世主になりうるのか?」です。人類の産業活動が及ぼす地球への巨大な影響力が、もはや不可逆なものになっているのではないかとされるなか、注目を集めているのが気候工学です。気候工学とは、気候を意図的に操作・改変する一連の技術の総称を指しますが、こうしたテクノロジーが出てきた背景には何があるのか、そしてそこにはどのような倫理的問題があるのか、桑田氏に伺いました。

ついで、「今月のポジだし」、労働社会学をご専門とする常見陽平氏にご提案いただきました。論者によって毀誉褒貶が激しい日本の雇用・労働システムですが、常見氏が「こうすれば日本の雇用はよくなる!」と提案するのが「出向・留社ネットワーク」の創出です。しばしば日本の企業の閉鎖性が指摘されることがありますが、「出向・留社ネットワーク」はそのような閉鎖性を打ち破り、人と組織を活性化させるための妙案だと思います。「出向」は必ずしも左遷ではありません。そのポジティブな効用に、ぜひ耳を傾けてください!

お次は、法哲学をご専門とする那須耕介氏による「ナッジ――働きかけと自発性のあいだで」。人々の行動の前提となる文脈、環境の一部を設計、構築、操作することで、強制なしに一定の行動を促そうとする「ナッジ」。それは現在、思弁の領域をこえて、消費者保護、環境、健康、労働、金融・保険、治安・安全等々、各国で制度設計や政策構想に応用され始めています。OECDが世界各国の実践例をまとめた『世界の行動インサイト』から、いくつかの具体例をご紹介します。

ここらで国際政治に目を向けましょう。ヨーロッパ国際政治をご専門とする東野篤子氏による「中欧における「法の支配の危機」――EU内部に深まる亀裂」。みなさんも報道等でご存知かと思いますが、かつて中欧の「優等生」とみなされ、旧共産主義諸国の体制転換のサクセスストーリーを体現する存在であったポーランドとハンガリーの様子がかなりおかしいです。今ではヨーロッパ統合を揺るがせかねない「問題国家」とみなされるようになってしまいました。いったい何が起こっているのか、またEUの理念を裏切るようなこうした国家の存在にEUはどう対処すればよいのか。東野氏にご解説いただきました。

ついで今月の「学び直しの5冊」。タイ政治をご専門とする外山文子氏による「東南アジア」です。ぼくも経験があるのですが、東南アジアについて知りたいと思ったときに、どこから手をつければよいのか、意外に難題です。観光や留学、労働の目的で、東南アジアから多くの人が日本に訪れ、かつてなく東南アジアが身近になっていますが、ではどれだけ東南アジアのことを知っているかといえば、かなり心もとないのではないでしょうか。多様性に富む東南アジアを理解するために、まずはこの5冊を手に取ってみてください。

お次は、鈴木崇弘氏の連載「自民党シンクタンク史」。今回は第三回目、「東京財団の時期・後編」となります。内外で政策シンクタンクとして活躍し始めた「東京財団」、その活躍には目覚ましいものがあります。サミットに先立って、開催国で識者を集めたプレ・サミットの参加者の顔ぶれを見ると、なんと豪華な!と驚嘆します。逆に、ここまで行ったのに、結局は日本に政策シンクタンクが根付かなかったのか、とも思ってしまいます。とはいえ悲観していても仕方がないので、多様な政策構想がしのぎをけずる環境をどう構築していくのか、これを考えていくヒントにしないといけないですね。

最後は「知の巨人たち」。今月は「ロールズ」を、現代政治理論をご専門とする大澤津氏に取り上げていただきました。大学で政治思想や法哲学の講義を履修すれば、必ず出てくるロールズ。しかし、その面白さを感じるためのハードルがとても高いというのも事実かと思います。そうしたロールズのアクチュアリティを現在の読者に伝えるために、大澤氏がとった戦略がロールズ解釈を追うことです。実際に、時代の要請に応えようとする解釈を紐解くことで、わたしたちが「いま」直面している社会の困難と格闘した思想家としてロールズが立ち現れてきます。参考文献も充実していますので、ぜひ今後の読書案内としてもご活用ください。

次号は2月15日の配信となります。次号も圧倒的な情報量と教養を詰め込んでお届けします。どうぞお楽しみに!

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