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2019.08.14

平和意識の現在地――〈静けさ〉と〈無地〉の囲い込み

山本昭宏

【知の巨人たち】ユルゲン・ハーバーマス

田畑真一

「みんながマイノリティ」の時代に民主主義は可能か

吉田徹×西山隆行×石神圭子×河村真実

【学び直しの5冊】〈現代ヨーロッパ〉

松尾秀哉

【今月のポジだし】活動を広げよう――不登校支援

木村拓磨

自民党シンクタンク史(10)――「シンクタンク2005年・日本」自民党政権喪失後

鈴木崇弘

毎日、うだるような暑さですがいかがお過ごしでしょうか。「αシノドス」vol.266をお届けします。

最初の記事は、山本昭宏さんの「平和意識の現在地――〈静けさ〉と〈無地〉の囲い込み」。今年の5月、広島の平和記念公園近くにある平和大橋の欄干に落書きしたとして、器物損壊容疑でアルバイト店員の少年が逮捕されました。このニュースに接したとき、みなさんはどのような感想をもったでしょうか? 不謹慎? ところで、1952年の映画『原爆の子』に映し出された原爆ドームの壁には、多くの落書きがひしめき合っています。われわれはこの落差をどう考えればよいのでしょうか? 現在のわれわれが「平和」をどのような境遇に押し込めているのか、この落差はそれを指し示しているのではないでしょうか。

ついで「知の巨人たち」。今月は田畑真一さんがユルゲン・ハバーマスを取り上げました。ハーバーマスというと、「誰しもがコミュニケーションを通じて合意できる」といった楽観的な見通しに基づき、自身の哲学を構築した、という見解が一般に流布しています。しかし、それはまったく違う、と田畑さんはいいます。では、ハーバーマスの哲学の核心はどこあるのでしょうか? 少し難しいところがあるかもしれませんが、いまこそ読むべき文章だと思います。ぜひゆっくりとお読みください。

アメリカにおけるトランプ政権誕生とイギリスのEU離脱を支持し、その原動力となったといわれる「白人労働者階級」の人々。喪失感に苛まれる英米の白人労働者たちの生の声から彼らの政治行動を分析した、ジャスティン・ゲスト著『新たなマイノリティの誕生:声を奪われた白人労働者たち』が出版されました。出版を記念して、訳者たちによる鼎談が実現しました。ポピュリズムはこれからの民主主義の行方にどう影響していくのか? 吉田徹さん、西山隆行さん、石神圭子さん、河村真実さんによる「「みんながマイノリティ」の時代に民主主義は可能か」です。

今月の「学び直しの5冊」のテーマは「現代ヨーロッパ」です。先日、ちくま新書から『ヨーロッパ現代史』を出された松尾秀哉さんにご選書いただきました。幕末・明治以来、ヨーロッパは長い間、日本にとって学ぶべきお手本でした。もちろん、いまでも人権、福祉、環境の先進国として学ぶべきことは多々ありますが、しかし昨今は、ユーロ危機や難民問題、テロなどネガティブな事柄ばかりが話題になっています。混迷のなかを彷徨うヨーロッパを学び直すために必読の図書を、5冊をこえていろいろとあげていただいております。

そして、「今月のポジだし」。木村拓磨さんに「不登校支援」についてご提言いただきました。不登校児童は年々増加しています。2017年度には14万4031名と過去最多となりました。かつては、一部の児童の病理だとみなされていた時代もありますが、もはやありふれた現象だといってもよいと思います。そうなってくると、大事なのは「傾向と対策」です。ご家族、あるいは知人のお子さんが不登校になったときにシェアする情報のひとつとしてご活用いただけますと幸いです。

最後は鈴木崇弘さんによる連載「自民党シンクタンク史」。いよいよ政権交代によって自民党は下野し、自民党の「シンクタンク2005年」も短い活動に終止符を打つこととなりました。いわば歴史のあだ花として、政治に翻弄されたといってもいい「シンクタンク2005年」ですが、この「失敗の歴史」からなにを学ぶかは、次号の最終回に総括されることになります。どうぞお楽しみにしてください。

次号は9月15日配信です。どうぞお楽しみに!

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