268

2019.10.15

エンハンスメント論争の行きつくところ――BMIから徳へ?それとも?

植原亮

留学生という名の単純労働者

出井康博

学び直しの5冊〈現代社会〉

堀内進之介

患者が望まない延命治療を行うことは正当化できないパターナリズムか――『死ぬ権利はあるか』出版に寄せて

有馬斉

移動の自由がもたらす不自由――東ヨーロッパを揺り動かす移住・移民問題

穂鷹知美

男性の「ケア」参加はジェンダー平等実現の決め手となるか

多賀太

ローカルな視点からの環境論

吉永明弘

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シノドスの芹沢一也です。「αシノドス」vol.268をお届けします。

最初の記事は植原亮さんの「エンハンスメント論争の行きつくところ――BMIから徳へ?それとも?」です。エンハンスメントについてはこれまでも取り上げてきましたが、改めて植原さんにエンハンスメントと最近の動向、そしてエンハンスメントをめぐる議論を整理していただきました。個人的に「モラルトランスヒューマニズム」に大変関心を引かれました。薬物や遺伝子の改変によって人類の道徳を高めること、ひとつの可能な未来として賛否はあれ、視野に入れておかねばならない議論だと思います。

つづいて出井康博さんへのインタビュー「留学生という名の単純労働者」です。現在、おもにベトナムから出稼ぎを目的とした留学生が多く日本にやってきています。そして、コンビニやスーパーで売られる弁当や惣菜の製造工場、宅配便の仕訳け作業、ホテルの掃除、新聞配達などの労働に従事しています。今後は、彼らのような単純労働者がいないともはや回らない日本社会にあって、彼らは底辺労働者として層として増えていくでしょう。これはヨーロッパが辿った道をトレースすることにほかなりません。

今月の「学び直しの5冊」は堀内進之介さんに「現代社会」でお願いしました。「現代社会」を読み解くための5冊を選ぶのはとても困難な試みだと思いますが、堀内さんは「現代社会」の特色は「脱中心化」だとしつつ、じつに魅力的な5冊を選んでくれました。近代的な価値観に対する「脱中心化」は、今後いかなる可能性を切り開いていくのか。ここであげられた5冊とともに、その可能性をめぐってさまざまな思考に触れることができます。

ついで、有馬斉さんの「患者が望まない延命治療を行うことは正当化できないパターナリズムか――『死ぬ権利はあるか』出版に寄せて」です。『死ぬ権利はあるか』著者による解題的な記事となります。「パターナリズム」と聞くと、条件反射的にネガティブなレッテルとして受け止めがちです。しかし、現実のさまざまな場面で具体的に考えたとき、そう簡単な話ではないことが、この記事によってよく理解できるかと思います。「パターナリズム」の奥行きをぜひ感知してください。

そして、穂鷹知美さんの「移動の自由がもたらす不自由――東ヨーロッパを揺り動かす移住・移民問題」。最近、東ヨーロッパ諸国の権威主義化がニュースをしばしば賑わします。こうした動向の背後には、EU加盟によって可能になった、つまりシェンゲン協定によって可能になった人の自由な移動がある、というのが記事の趣旨となります。東から西に、優秀で若い人材が移動することが、東ヨーロッパ諸国にもたらすのは何か? ここには、「移動の自由」というEUのリベラルな理念がもたらす、きわめて皮肉な事態が生じていることが明らかになります。

ついで、多賀太さんの「男性の「ケア」参加はジェンダー平等実現の決め手となるか」です。この記事は社会調査の重要性を改めて喚起しています。「ケア」に参加する男性を増やすにはどうすればよいのか。おそらく、多くのひとが考えるのは、「リベラルな意識・価値観」の広がりだと思います。ぼくもそう考えていました。では、実際にどのような男性が「ケア」に参加しているのか? 社会調査の結果と多賀さんの分析をぜひお読みください。

最後の記事は、吉永明弘さんの「ローカルな視点からの環境論」です。環境問題を身近な問題としてとらえるためには、各人が実際に住んでいる「地域」における環境問題を考えることが重要であり、またその先に地球規模の環境も視野に入ってくる、といのが吉永さんの主張ですが、環境問題における「ローカルな視点」の確保を、ウォルツァーの枠組みを使って正当化しています。ウォルツァーの思想の射程の広さと可能性を感じさせてくれる記事です。

次号は11月15日配信となります。お楽しみに!

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