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2022.02.16

「戦後民主主義」とは何だったのか――ヒューマニズムの再生を目指して

山本昭宏

ジェンダーの問題を変革するための「仲間」としての教師

寺町晋哉

ウィキペディア――デジタル時代の新しい知の形をさぐる20年のあゆみと現在

穂鷹知美

T.ポッゲの世界正義論とD.ミラーの国際正義論(2)

浅野幸治

今月の1冊――『ひきこもりの真実』林恭子

芹沢一也

01.山本昭宏「「戦後民主主義」とは何だったのか――ヒューマニズムの再生を目指して」
アジア・太平洋戦争の悲惨な経験から、戦後、日本国憲法のもと、民主主義や平和主義の徹底を求める思想や文化が立ち現れました。のちに「戦後民主主義」という名で振り返られることになる潮流です。しかし、戦後民主主義がもっていた輝きは、現在ではすっかり失われてしまいました。戦後民主主義がかかげたヒューマニズムは、現実的なリアリズムを前に文字通り窒息寸前です。かつて丸山眞男は次のように言いました。「私自身の選択についていうならば、大日本帝国の『実在』よりも戦後民主主義の『虚妄』の方に賭ける。」「理想」がリアルかどうかは重要ではありません。ある社会におけるリアリティなど、容易に書き換えられていくことは、歴史が雄弁に語るところです。問題は、それが追い求める価値のあるものかどうかです。『戦後民主主義』の著者、山本昭宏さんにお話を伺いました。

02.寺町晋哉「ジェンダーの問題を変革するための「仲間」としての教師」
驚くべきことに、数学のテストでよい点数をとった女子生徒に、「女の子なのにすごいね」とほめると、ただ「すごいね」とだけいった場合よりも、女子生徒の数学の学習意欲が低くなる傾向にある、しかもそれは一度だけの発言でも影響するとのことです。ことほどさように、ジェンダーにもとづく言動は大きな影響を与えるわけですが、学校でこうしたネガティブな効果を抑えるためには、教員がジェンダー問題に敏感である必要があります。しかし、教員自身もまた、そうしたジェンダーバイアスのある社会で人格形成をしたわけですから、これは容易な作業でないでしょう。寺町晋哉さんは、教師の人生を踏まえながら、地道に仲間を増やしていく必要があると説きます。

03.穂鷹知美「ウィキペディア――デジタル時代の新しい知の形をさぐる20年のあゆみと現在」
何か知らないことを調べようと、ネットでググったときにヒットするのがウィキペディア。2001年にスタートしたウィキペディアは、325の言語版と5800万件の記事を有しする巨大な情報メディアに成長し、現在、300万件以上の新しい記事が毎月、追加されています。昨年はウィキペディアが誕生して20年ということで、ドイツやドイツ語圏の国で20年を振り返る記事や番組がたくさん出たようです。穂鷹知美さんにウィキペディアの歩みと現在を振り返っていただきました。もはや情報の公共インフラといっても過言ではないために、ウィキペディアはこれまでさまざまな批判にさらされてきましたし、また批判を乗り越える試みもされてきました。いずれにしても、集合知でより優れた情報を完成さていくというこの貴重な営みが、今後もつづいていくことを祈ります。

04.浅野幸治「T.ポッゲの世界正義論とD.ミラーの国際正義論(2)」
前号では、ポッゲの世界正義論の基本的枠組みが素描され、ポッゲの世界正義論が具体的に何を言っているかが説明されました。つづく今号では、ミラーがポッゲをどのように批判するかが概観された上で、ミラーの国際正義論が紹介されます。オックスフォード大学で政治理論を教えるミラーについては、「リベラル・ナショナリズム」に関する議論によって日本でもよく知られています。今回、取り上げられる国際正義論でも、ナショナルな義務とグローバルな義務との緊張関係が鮮明ですね。ナショナルな自己決定の要請とグローバル正義の要請とをどう架橋するか、これはきわめて難しい問題だということがよく理解できます。

05.芹沢一也「今月の1冊――『ひきこもりの真実』林恭子」
「ひきこもり」という言葉を耳にしたとき、みなさんはどのようなイメージを抱くでしょうか? ここ20年余り、この言葉をめぐって、さまざまなステレオタイプが生み出されてきました。「働かない」「甘え、怠けている」「若い男性が自室にひきこもってゲームばかりしている」など。しかし、その実態は? 今回、取り上げるのは『ひきこもりの真実』(ちくま新書)。著者の林恭子さは、自身も高校二年生で不登校となり、20代でひきこもりを経験した方です。林さんたちの調査活動によって、はじめてひきこもりの実態が明らかになりました。

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