「いい絵本」って何だろう?

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荒井裕樹さん(障害者文化論)と「いろいろなアーティストの話を聞きに行こう!」というシリーズ。第6弾となる今回は、『しろくまのパンツ』『パンダ銭湯』が数々の絵本賞を受賞して、いま最も注目を集めている絵本作家のtupera tuperaさん(ツペラ ツペラ:亀山達矢さん・中川敦子さんによるユニット)にお話をうかがいました。身近だけれども、実はとても奥が深い絵本の世界。お二人が考える「いい絵本」の条件とは? tupera tuperaさんの大ファンだという荒井さんと語り合ってもらいました。(構成/金子昂)

 

 

絵本を選ぶ「親目線の期待」

 

荒井 今日はお忙しいところ、お時間を作っていただいてありがとうございます。図々しくも、アトリエにまでお邪魔してしまいました。「はじめまして」とご挨拶しなければならないのですが、わが家では毎晩のように、3歳の息子とtupera tuperaさんの絵本を読んでいるので、なんだかはじめてお会いする気がしません。

 

中川 ありがとうございます。

 

荒井 子どもに絵本を買うときって、純粋に「楽しい」「面白い」というよりは、「これは子どものためになるかな」「これを読んで、こういう子どもになってほしいな」なんてことを考えてしまうことが多いんですよね。「道徳心をはぐくむ」とか「学習効果」とか、そこまで大げさではなくても、「親目線の期待」みたいなものを込めて、子どもが読む本を親が選んでしまう。正直、私もそういった動機で息子が読む本を選んでしまうことがあります。

 

でも、tupera tuperaさんの絵本はちょっと違うんですね。まず、読んでいて単純に楽しい。そして、とにかく絵が綺麗です。お二人が最初に手がけられた『木がずらり』(ブロンズ新社)なんて部屋に飾っておきたいくらいですね。まさに「絵」の「本」という感じがします。

 

それとtupera tuperaさんの絵本には「男子」の発想がありますよね。それも「中学男子」的な発想です(笑)。『うんこしりとり』(白泉社)なんてまさに(笑)。

 

亀山 「うんこしりとり」は中学生のとき一人でよくやっていたんですよ。ぼくにとって絵本作りは、駄菓子屋に集まってお菓子を食べたり、公園で自分たちが考えた遊びをしたりしていた小学生の感覚の延長線上にあるような気がします。

 

荒井 この「男子」的な世界観がちょっと織り交ぜられているところが、私には心地よいんです。というのは、絵本ってやっぱり「お母さんが読む」ことを前提に描かれているものが多いような気がするんですね。息子に読み聞かせをしていても、「うーん……」と、ちょっとした違和感を飲み込みながら読む本もあります。

 

でも、お二人の本は、男親である私でも読むのが苦しくない。そこが、お二人の絵本が気になり出したきっかけです。ですので、今日はお会いできることを本当に楽しみにしていました。

 

 

photo9

tupera tupera さんのアトリエにて

 

 

「多くの目」で読む絵本

 

荒井 子育てしてると、本当の意味で「親と子が等しく楽しむ」ことって、意外に少ないんですよね。

 

私はバラエティ番組が好きで、何気なく見ていると、隣で息子も見ていることがあります。それで私が笑っていると一緒に笑うんですね。タレントが何を言っているのかなんてわかってないはずなのに。たぶん、楽しそうな私を見て、息子も楽しんでいるんだと思います。逆に息子がディズニーの映画なんかを楽しそうにみていると、私は映画の内容には興味はないんですけど、やっぱり楽しくなる。

 

「楽しそうな親」を見て子どもが楽しんだり、「楽しそうな子」を見て親が楽しむことはたくさんあります。でも、子どもと親が同時にポンッて楽しめる瞬間は少ない。

 

中川 言われてみるとそうですね。私たちにも7歳の娘と2歳の息子がいるんですけど、息子がおかしなことをやっているのを娘と見ながら笑う瞬間ってけっこう好きですね。「いま同じ感覚が通ったな」っていうのは嬉しい。

 

荒井 親と子が同じ方向をみて、同じように楽しんだり、夢中になったりすることって、実は珍しいことかもしれませんね。tupera tuperaさんの絵本を読んでいると、そういった瞬間があるんですね。

 

『いろいろバス』(大日本図書)のなかで、バスに乗り遅れそうになって必死に追いかけるカメがいますよね。息子に「このカメはバスに乗れたのかな?」って何気なく聞いたら、「乗れなかったよ」って断言するんです。「えっ? なんで?」って聞いたら、終点についたバスからいろいろな乗客が降りてくるシーンがあって、そこにカメがいない。だから「ほらいないでしょ?」って。

 

亀山 ああ、それ、みんな悲しむんですよ。

 

荒井 なんか得意げにいわれてちょっと悔しいので「途中のバス停で降りたかもしれないじゃん!!」って言い返しました(笑)。まさか、絵本の内容をめぐって自分が3歳児とそこそこ本気で言い合うとは思いませんでした(笑)。

 

亀山 そういう反応が返ってくるのが一番うれしいですね。

 

荒井 ちょっと語弊があるかもしれませんが、tupera tuperaさんの絵本って「不便」なときがあるんです。わが家は共働きで、私も妻も、正直かなり精一杯の毎日を過ごしています。それで、どうしても子どもをかまってやれないときに「時間稼ぎ」として絵本やDVDを使うんでけど、tupera tuperaさんの絵本だと「時間稼ぎ」にならない。

 

中川 ああ、呼ばれちゃうんですね。

 

荒井 そうです。「一緒に読もう!」「これなーに?」って。絵本のなかに細かい仕掛けがいくつもあるので、一人で読むよりも二人で読んだ方が発見が多くて面白い。なるべく「多くの目」で読んだ方が面白い絵本ですね。

 

 

『いろいろバス』の原画

『いろいろバス』の原画

 

 

0歳から100歳まで楽しめる

 

荒井 絵本って裏表紙に「ひとりで読むなら○歳から。読み聞かせるなら□歳から」という形で「対象年齢」が描かれてるものが多いですけど、tupera tuperaさんの絵本ってその表記がないですね? それは意識して書いていないのですか?

 

中川 対象年齢を書かないのは半分意識していますね。

 

亀山 ぼくたちはよくワークショップを開くんですけど、そのときも対象年齢は決めてません。

 

荒井 ああ、よくありますね。「参加資格:○○歳までのお子様」とか。

 

中川 「6歳まで」って書いてあると、「なんで7歳は駄目なんだろう?」って思っちゃう。

 

亀山 性格上、主催者にチラシ作りをまかせるんですけど、できあがるチラシにはだいたい「小学校6年生まで」「親子同伴で」とか書いてあるんですよね。それは面白くない。社会と一緒だと思うんですけど、いろいろな人がその場に集まって、コミュニティができて、そして離れていくから楽しいんだと思うんです。先に参加者を限定しちゃうのはもったいない。

 

あと、子どもは勝手に楽しんでくれるので、大人にこそ楽しんで欲しいんですよね。おじいちゃんやおばあちゃんも大歓迎です。

 

荒井 背広でネクタイのおじさんとか?

 

亀山 来てくれたら最高ですね~。その横で子どもが作ってたりしたらなお面白い。人って「年齢」も含めて個性ですから、変に限定しちゃうのはつまらないと思います。たまにカップルが参加してくれたりして、「なに作るー?」とかイチャイチャ話しながら作っていて楽しいんですよ(笑)。

 

荒井 いろいろな要素をもった人たちがごちゃごちゃっと混じっている方が、化学反応みたいに予想外のものが生まれそうで面白いですね。刺激もあるでしょうし。

 

亀山 絵本もそうです。誰が誰と一緒に読むのかがわからないから面白いんですよ。読んでくれる人、読まれる人によって、作品が変化するのが楽しいなあと思っているし、結局絵本はどういう読み方してもいいものだと思う。

 

荒井 絵本も、子ども「だけ」に向けて描いているというわけではないんですね?

 

亀山 そうですね。

 

荒井 実は、そこをお聞きしたかったんです。tupera tuperaさんは絵本を描かれるときに「子どもはこうしたら楽しむだろうなぁ」というような「子どもの感性」みたいなものをどれだけ意識していらっしゃるのだろう、と思っていたのですが……。

 

亀山 意識はしないですね。というより、できないですね。

 

中川 以前は「絵本は子どものためのもの」と思われていたと思いますが、いまは絵本好き女子がブームになったり、絵本雑誌が出版されていたり、大人向けの絵本も出版されていますよね。絵本は子どもだけのものじゃない。だから、私たちが絵本を作り始めるときも「絵本は子ども向けのもの」という感覚がもともとなかったんです。

 

亀山 そもそも、ぼくたちはいろいろな活動をしていくうちに、なんとなく「絵本」というものにも着地しちゃったって感覚があります。絵本がどうしても作りたかったわけじゃなくて。

 

中川 いろいろなつながりの中で、結果的に絵本に辿り着いたんです。

 

絵本という媒体はとても面白くて、活字の本と違って0歳から100歳の方まで、国籍も越えて同じように楽しめますよね。画家の場合、自分の絵を見せる機会って気軽には持てないと思うんですけど、絵本の場合は小脇に抱えて「はい、どうぞ」ってプレゼントできちゃうんですね。いろんな人とコミュニケーションがとれる、すごくいいツールなんです。【次のページにつづく】

 

 

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