国境を越える舞台芸術――移動するアーティストと変化する舞台表現

移動を通じて、作品も演出家も成長する

 

――日本の舞台芸術と移動性の現状についてはどうでしょうか。

 

日本人アーティストの移動は、まだ「点」ですね。ヨーロッパと比べると内にこもっている印象があります。

 

日本のアーティストの場合、大分変わってきていますが、やはり外国語が出来ないんですよ。外国語が出来ないと、意思疎通に通訳を介さなければなりません。しかしそうすると、演出家の微妙なニュアンスや感覚的に理解して欲しい絶妙な指示が伝わらなかったりする。

 

それと関係してきますが、第二の理由に同じ集団でやりたい、という傾向があると思います。常に同じ成員で作品を作るということは、演出家も俳優も、お互いの特徴を理解しあっているということです。もちろんこれこそ、演劇創造の王道であり、ドイツの公共劇場もそうですが、たとえば、長年劇団制やその集団性にこだわってきた演出家の鈴木忠志さんなら、鈴木さん自身の演技メソッドを理解して、それを身につけた俳優と作品を作ることこそが、強度のある舞台になると考えている。

 

しかし、こうした認識は少しずつ変化してきているようにも見えます。演出家の岡田利規さんや、演劇集団の範宙遊泳などは海外でも活動し、現地のアーティストとコラボレーションする企画も増えてきています。彼/彼女たちは本当にフットワークが軽い。誘われて、サッと行っちゃう。

 

たとえば岡田さんは、当初日本のメインストリームの演劇界ではあまり評価されませんでした。2004年に初演された『三月の5日間』は2005年に岸田戯曲賞を受賞し、新国立劇場から新作を委嘱されて発表までしましたが(『エンジョイ』(2006))、いわゆる既存の演劇評論家からは総スカンを食らいました。しかし、『三月の5日間』が2006年にベルギーのクンステン・フェスティバル・デザールという演劇祭で上演されたら、大ブレークしたんです。ヨーロッパ中から上演のオファーが来たそうですよ。それで作品を国外で上演したり、海外から作品の委嘱を受けるようになっていった。

 

今年はさらに活動の領域を広げて、タイでもコラボレーションの企画があるそうです。こうした小規模ですが個々人のレベルで国際的ネットワークを築いて移動を続け、活躍するアーティストは増えてきていますね。

 

 

――まだまだ限られているんですね。

 

そうですね。ただ、日本でもTPAM(国際舞台芸術ミーティング)など、ヨーロッパ、アジア、アメリカ各地から演劇関係者が集まりネットワークを作るイベントは開催されています。元は日本の舞台芸術を海外の人に買ってもらう、マーケット的な意味合いで始まったのですが、今は世界各国地域の舞台芸術をつなぐ、国際的かつ、既存の劇場ネットワークに変わる新たなプラットフォームとして機能しています。

 

しかし、TPAMの参加者はフリーのキュレーターやプリゼンターが多く、いわゆる「業界の人」、つまり大手の劇場関係者はほとんど参加していません。観客もこうした新しい演劇に興味のある人が多く、そういう意味では、移動性を持つアーティストと、そうでない舞台芸術が分断されてしまっているとも言えるかもしれません。

 

 

――移動性はなぜ必要なのでしょうか。

 

必要というより、必然的に起こっているもの、起こっていくものだと思います。そしてそれに伴って変化が出てくる。こうしたオルタナティブな演劇が主流になるのか、ならないのか、それは私にはわかりませんが、変化は確実に起きている。個人的には、その変化は面白いと思っています。

 

国外に出ることで、アーティストが受ける影響はとても大きなものです。国内でファンに囲まれていたら、説明をする必要はありませんし、似たような作品の中にいれば、自分自身の作品を相対的に見ることもできません。しかし外に出たら、自分が何をやろうとしているのか、ちゃんと伝えられなければならない。自分の意思を内省して、言語化して、説明することが必要なんです。自分の作品を客観的に認識し、意思を自問自答することで、作品やアーティストは成長していく。海外に限らずこうした機会はありますが、国内では同質性が高いですからね。外に出るインパクトはより大きなものでしょう。

 

また、一つの国の中にあると、公的な規制や自己規制で上演できない作品が出てきます。これまで演劇に関してはあまり厳しい規制はありませんでしたが、助成を受ける以上、一定の人々から評価されうるものでなければならなくなりますし、結果として、ある種の内容は上演できなくなることもある。

 

アーティストの移動は経済難民的な面があるんです。自分の仕事がある、自分の表現を認めてくれる人がいる、そういうところを渡り歩いているんですね。そうすることで国家の枠組みや、狭い共同体の価値観に取り込まれることなく、しがらみから自由になって表現することができるようになります。移動性があがったことで、自由に発想され、作品が練られ、舞台芸術がより良いものになっていくのではないかと期待しています。

 

 

――変化する舞台芸術の表現が今後どう進化していくのか、興味が湧いてきました!内野先生、お忙しいところありがとうございました。

 

 

※本稿はα-Synodos vol.216からの転載です。

 

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