フィクションのなかの女性と労働――〈贅沢貧乏〉が対象にとる距離

同性同士の距離、対象との距離

 

トミヤマ 山田さんは女子の多様性を書くのが本当に得意だなと思うのですが、思春期の頃って、自分はみんなとちがうと思うと、ちょっと孤独を感じることもあるじゃないですか。そういう孤独に山田さんはどうやって対処してきたんですか。女子のコミュニティでどんな女の子だったのかが、気になります。

 

山田 今の自分をかたちづくっているのは中学のときだと思っています。中学生はグループができたり、いじめができたりとか、そういう年頃だと思います。わたしは1年生のときにすごく話の合う、親友みたいな女の子がひとりできて、なぜか幸い3年間同じクラスだったんですよ。ものすごく仲のいい子で、どんな時もいっしょにいました。

 

その子とふたりだけでいることがすごく多かったので、イケイケのチームの人ともしゃべるし、静かにしている子にもわたしは結構しゃべりかけて話していました。あんまり分け隔てなかったんですよ。だからいじめがあったとか、あの子が告白して振られたとかそういう事情を全部遅れて知る。そういう流れに乗らなかったというのはすごく特殊かもしれません。

 

トミヤマ ここで過去の山田さんについておうかがいしたのは、今の大学生って孤独に弱いなと感じるからなんです。大学で教えていると、みんなと違うこととか、孤独であることを恐れすぎているなと思うんですよね。山田さんのように、親友と密な時間を過ごしていた人、みんなとちょっと違う人が、「みんなよるがこわい」みたいな作品を作るかもしれないわけで、みんなと同じならいいってわけじゃない。山田さんからは、孤独に対する恐怖心があまり感じられません。自分と向き合うことを億劫がらないというか。それがおもしろいなと思います。

 

山田 でも向かい合うスキルがあるということ含め、自分独自のことをするということは、私がそうだったわけじゃありません。その親友がそうだったんです。それに対するあこがれがありました。たとえばその子は、自分が食べたいものがあったらみんなが別のものを食べていても「じゃ、私これ食べるから!」ということが言える子でした。それを見ていたというのもあります。

 

トミヤマ わたしは少女漫画を研究していることもあって、女が女を描くときの距離の取り方に興味があるんですよね。少女漫画の特徴って、やっぱり「内面を描く」ことなんです。逆に、少年漫画は「海賊王に、おれはなる!」みたいな感じで、目標なり行動なりを高らかに宣言するのが大事。作中人物がどういう行動を起こすのか、セリフの形で入れ込み物語をドライブさせるのが基本なんです。でも、少女漫画は行動の描写よりも「わたしは今傷ついた」とか「わたしはあなたのことが好き」、みたいな感情をどのくらい描けるかが肝心。つまり少女漫画って、女の気持ちを描くメディアなんですよ。

 

ただ、女の気持ちを描くにあたっては、「わたしは女だし、女のことをわりと詳細に描けるけど、なんかわからないところもあるんだよね」みたいな、余白のある作家さんがおもしろいと思っています。自分の手で生みだしたキャラクターだけど、どこかで「あなたはわたしじゃないし」という「突き放し」がある作家さんが好きなんです。で、山田さんの舞台を観ていると、そういう突き放しを感じることがあって。一体どういうふうに女たちと関わって生きてきたら、この感覚が培われるのかなというのを、一度聞いてみたいと思っていました。

 

 

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トミヤマユキコ先生

 

 

山田 そういう意味ではちょっと離れた目で見ることができていたのかもしれないですね。その中学時代があって、高校、大学は自由にやっていたかもしれません。多くの少女漫画と同じように、わたしも行動より状態を描くのが好きです。逆に行動は、あんまり描きたくないけど、おもしろくするために描いているという部分があるかもしれない。

 

生きている人のありのままの状態を描きたいんですよね。状態を描くだけでものすごく具体的だし、本当は物語をドライブさせなくてもいい、という気持ちがあります。それと格闘しているのが『フィクション・シティー』です。そこに思考が向いて、物語をつくる、起承転結をつけるということとずっと格闘していたところがありました。それがわかりやすさを生んで、具体的なものや、繊細さを取りこぼすんじゃないかと危惧していたんです。

 

 

山田由梨にとってのフィクションと現実

 

トミヤマ 『フィクション・シティー』では、起承転結のあるわかりやすいお話を書く、ということに疑問が生じてきているとのことですが、今現在、フィクションのことをどう思っていますか? 山田さんにとってフィクションとはなんなのでしょうか?

 

山田 水谷先生の「嘘をつかない」という言葉を借りると、フィクションをつくるというのはそもそも「嘘をつく」ことです。主人公がこういう役で、そのお兄ちゃんをここに置いて……など、登場人物をつくるという当たり前のことにも抵抗を感じるようになりました。そのへんは今は折り合いをつけていて、ポストモダン主義によって物語を解体するという作業が昔行われたように、自分も今そういう軌跡をたどっている、というおもしろさを感じています。元々わかりやすく結論を付けたり、派手な展開をつくるようなタイプではないのですが、それでもそこに抵抗がある自分を見つめて、あえてそこを作品にしている。

 

トミヤマ 演劇の歴史が辿ってきた道を、山田さんが超高速で追っかけているんですね。おもしろいです。ものすごく簡単に言うと「ストーリーよりディテール」ということなんでしょうか。

 

山田 ディテールだとか、わかりそうになったときに解体したくなる衝動があります。

 

トミヤマ ああ。なるほど。でも、解体したいという衝動の根底に、怒りがないのがすごいです。

 

山田 元々はわたしも怒りをモチベーションにしていたような気がします。でも怒ってもな、という気持ちになってきたのかもしれません。

 

トミヤマ 怒らないほうが、みんなが聞く耳を持ってくれるということですか?

 

山田 それはあります。たとえば原発の問題を書くとなったときに、それが説教くさくなったり、主義主張になってしまったときに、作品は一気につまらなくなる。そこに怒りがあればあるほど、そうなってしまいがちだと思うんですよ。そこに当事者としての怒りがあると、熱くなりすぎて台本が説教くさくなってしまう。クールダウンしなきゃという気持ちになるんです。そこへの客観的な意識はあります。

 

やっているのはアートで、演劇であるっていう意識がないと。いろんな問題が起きてきたときに、「いまアートは必要なのか?」という論争が界隈であったような気がします。わたしも「政治の話をしてほしい」って演劇界の人に呼ばれてトークしたことがあって、あのときSEALDsがいちばんのアーティストだったと言われたときに、違和感がありました。

 

それでいいのか、それだけでいいのか。あれがいちばん、アートとしてやらなきゃいけないことをやっていて、アートだったと言われたときの悔しさ。本当はそうじゃないんじゃないかという気持ちもありました。

 

トミヤマ 震災直後って「芸術にできることは何もない」みたいな空気があったじゃないですか。明るい音楽なんか聞いたら不謹慎だ、みたいな。

 

山田 逆に、それこそが必要だという声もありました。

 

トミヤマ 確かに! 音楽こそが力だ、といって募金をつのるような動きもありました。なんか、価値観がグラグラしていましたよね。

 

山田 みんなわからなかったんですよ。でもやっぱり現代の日本を書かなきゃいけない、となったときに、フィクションだから人がねずみになったりヘンテコなことが起きてもいいんだけど、そうなったときに無視できないこととして社会問題はあると思います。

 

トミヤマ フィクションだから基本的にどんな嘘をついてもいいけど、「ここは!」と思うところでは、嘘をつかずに書くということですね。

 

山田 作品によりますけどね。でも『ハワイユー』は、結構資本主義批判しています。急にテレビつけると胡散臭いCMが流れてきて、幸せな家庭の写真や会社の写真を出しながら、「まだお持ちじゃないんですか? かなりやばいかも!」みたいな購買意欲を駆り立てるというCMを流しつづける。

 

トミヤマ 気づいてないかも知れないけどあなたはぜんぜん満たされてないんですよ、という呪いをかけ続けるあのCM……。

 

山田 そうです。「あなたは普通より劣っている」というテロップがCMに出る。でもそれは、上昇志向がすごく強いルリさんには、そういうふうにCMが見えていたということです。あんな大きい家に住んでいて、幸せな家庭がデフォルトみたいな呪い。何のCMでもそうじゃないですか。たとえば洗剤のCMを見ても、一軒家に住めて当たり前で、わりとみんな身なりがいい。でも現実は実際そうなのか。それが基準みたいにされているから、自分はそれに比べたら不幸だとか思ってしまう。そういう押しつけがあるんじゃないかと考えていたんです。

 

トミヤマ 逆に、社会人としては頼りない田井さんがめちゃくちゃ満たされてる感じが印象的ですよね。田井さんは自分に何かが欠けているとか足りないとか、思ってないじゃないですか。

 

山田 田井さんは仕事ができなくて、アルバイトの日を間違えて行ってしまったり、間違えて仕事がある日に行かないと怖いから、不安だったらとりあえず行くという不器用なキャラクターです。でも毎日を満たされて生きていて、プランターの植物を育てていたりする。逆にもうちょっと立場が上に見えるルリさんがそれを見てイライラする(笑)

 

トミヤマ ルリさんが田井さんに、もっと上昇志向を持てというようなことを言っているのを見て、すごく現代的だなと思いました。偉そうなことを言っている方が、実は満たされていないという逆転現象が皮肉ですよね。

 

 

ヨーロッパ・アジアでの反応の違い

 

山田 CMもそうだし、テレビに映る人はきれいで細い人で、という状況に私たちはずっとさらされている。『みんなよるがこわい』は、社会的に弱い立場におかれる孤独な女性を描いているんですが、海外のお客さんにも観てもらったところ、ヨーロッパの女性にはあまり受けなくて、アジアの女性には受けたんです。そういう広告の観念にもろに影響を受けている人が日本には特に多いんじゃないかなと思うんです。

 

自分にもそういうところがあるけど、客観的に見る視点も作家としては持っているので、そういうものをどう受け流してどう付き合っていくかということは作品のなかでは考えています。だからもろにそれに影響を受けている人を描くっていうよりは、そういうものがあってそれとどう付き合っているかという視点があるかもしれません。

 

トミヤマ 海外の話が出ましたが、やっぱり自分は日本の劇作家だなと思いますか?

 

山田 『みんなよるがこわい』は誰にでもある夜の孤独だと思っていました。女性のなかにはそうやって自分を追いつめてしまったり、自分なんて、と自己評価が低すぎて思い悩んでいる人もいる。でもそれを演劇として開いたことで、みんなで笑ったことで、自分だけじゃないんだって思えた、という感想が多くありました。

 

だけど海外に住んでた経験のある人に話を聞くと、少し違うようです。長くドイツに住んでいた人の話を聞いたときに、「こういうことでくよくよ悩んだり、あんまりしないかもね」と言っていました。もうちょっと立場が強いというか、もうちょっと違う悩みなのだろうと思います。女性の貧困や労働の問題を考えるときに、日本人の属性として自己評価が低すぎるんじゃないかということを思いました。

 

中国の女の子たちももっと楽観的です。今度中国で公演をするんですが、下見で中国に行ったときに感じたのは、パワフルさでした。全然慎重じゃないし、そんな話してないよ!みたいなことがどんどん決まってたりするんだけど、「いいよね、楽しいよね!」「これで行こう!」って、すごくはっきりしている。

 

 

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山田由梨さん

 

 

トミヤマ その元気さ、いいですよね! でも、そういう女性を見ても、山田さんは「この人たちのことを描きたい」とは思わないでしょう? 山田さんの作品に出てくる女の人たちって、元気ハツラツ、って感じじゃないから(笑)

 

山田 そうですね、わたしはやっぱり日本人だし、くよくよするし。でもわたしが女性像として描いていたのは、日本の女性像だということはちょっと意識しました。男女差別の問題に関しても、日本は認識が遅れていると言われるじゃないですか。でもわたしたちはそれが当たり前で生きているから、当たり前になってしまっている。けれど、海外に出るとそうなのかもしれないなとも思います。少し視野を拡げて考えると、みんな自己評価が高くなったりするかもしれません。

 

今度仕事をする中国の劇場は女性スタッフばっかりで、男性は数人しかいないんですよ。そこで働く女性たちにはわたしたちがこの劇場を切り盛りしているという自負やプライドがすごくあって、それもすてきだなと思います。日本は日本ですてきに働いている人はいるけど、中国の女性はアジアのなかでも比較的強いんじゃないかと思いますね。わたしが体験して感じたことの主観でしかありませんが、本当にパワーをもらいました。細かいこと気にせず、がんばろう、とりあえずやろうという感じですね。

 

今までは稽古がうまく回らなかったらどうしようとか、様々なことを気にしてた部分がありました。わたしも人の目を気にするところがあるので。だけど次の作品をつくる時は一回そういうのをやめて、役者のことを信頼して、演出家としての自分のことも信頼して、あまり考えずに無責任に脚本を書いて、あとは稽古場にいるわたしに任せたぞ、と自分のなかでも役割分担をしてつくっています。

 

トミヤマ 山田さんのなかでも「働き方改革」が起きているわけですね(笑)

 

山田 わたしはほっとくと自分に対してブラックになってしまうのですが、だいぶホワイトになってきています(笑)

 

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