消費税増税で財政再建は可能か

成り立たない議論

 

―― 社会保障に適していない税ということは分かりましたが、社会保障に使うなら仕方ないのでは、と思ってしまいます。

 

社会保障が大事だから、消費税を増税するという考え方は短絡的だと思います。社会保障の財源の話と、消費税の話は分けて考えるべきです。財源が必要ならば、景気に悪い影響を与えないような取り方もあるわけですよ。

 

消費税を上げて、消費税収があがり社会保障が上手くいったとしても、景気に悪影響を及ぼし、他の税収が下がる可能性があるわけです。人々の所得と雇用が減ってしまうと、貧困者層には大きな打撃が来る。そうなってしまうと増税の意味がありません。しかも消費税は逆進性があって低所得者層に厳しい。

 

いまの議論って、社会保障か、消費税増税か? といった、どちらかが痛みを負わなければいけない、みたいな変なトレードオフの関係になっているわけです。これが「悪魔の選択」というか、不幸な選択になっている。でも、本当にその2択しかないのでしょうか。もっと痛みを負わずに済む方法があれば、それに越したことはないです。

 

一番大事なのは、まず経済が成長することだと思うんです。成長することで税収を増やしていく。実際に13年度に関しては、経済成長のおかげで3.6兆円ほど税収が増えています。

 

 

―― 少子高齢化によって、もう経済は成長しないから、やっぱりどこかで痛みを負わなければいけないと思うのですが。

 

でも、実際、消費税増税前のアベノミクスでは経済成長していたわけですよね。たしかに、少子高齢化の影響が全くないと言うつもりはありません。ですが、少子高齢化するのであれば、その対策を打ちながら経済成長を目指すべきです。

 

経済は成長できない、でも社会保障費は必要だ、という考えに落ち込む必要はないと思います。経済成長できないという議論をあまりにも鵜呑みにしているのではないでしょうか。

 

経済成長がないと、分配をめぐるものすごく熾烈な対立が出てきます。お金をあっちによこせ、こっちによこせとなる。それは、経済が成長しているところでも、起こる話なのだけど、全体が成長していれば、もっと分配は楽になるはずなんですよね。

 

そもそも、仮に経済が縮小していくとします。だとしたら、消費税にしろ何にしろ増税して社会保障費に充てるなんて成り立たない議論です。

 

社会保障を維持することで、むしろ経済を持続させることができる。政府の規模が大きくなっても経済成長はできる。と、いう話だったらまだわかります。

 

でも、経済がしぼんで社会保障関連費を維持できないと思っているのに、増税はする。本当に縮むと思うのであれば、維持ができない年金を見直すなど、制度改革をするべきです。増税をしても、次世代に負担がかかるだけで、何の解決にもなっていません。

 

 

今あるデンジャー

 

―― とはいえ、日本の社会保障は歳出と歳入のバランスが取れていない。つまり、「借金している」ということになりますよね。普通に考えたら、収入を増やすために増税、ってそんな変な話ではないと思うんですが。そして、この借金をはやく返済しないと、ギリシャのように財政破たんしてしまうのではないでしょうか。

 

国の財政を、家計に例えると、そういう話になってしまいますが、良い例えではないですね。国家の場合の借金=国債ですよね。日本の場合、国債の9割を日本国内で保有しています。つまり、日本国民に借金をしていることになりますね。

 

もし、無理やり家計に例えるとするならば、同じ家庭にいるお父さんとお母さんがいて、お父さんにお母さんがお金をかしていると言うこともできます。とはいえ、この例えは完璧ではなく、お母さんはお父さんに借金の返済を要求して、どこか違うところに行ってしまう可能性はあり得るわけです。

 

もっと大事なのは、1000兆円もあると言われているこの借金は何に対して大きいのかということです。ものすごく貧しい国にとって1000兆円は巨額です。

 

ですが、日本にとってみれば、GDPの二倍強にあたります。相対関係が大事なので、額ではなく見込みがあるかどうかが大事だと思うんですよね。

 

 

―― 年収100万円の人がかりる1000万と、年収500万円の人がかりる1000万では、意味が違うということですね。

 

1000兆円というと空前の数字だから感覚としてつかめないわけですよ。日本のGDPは480兆円で、一方で政府の資産は630兆円あります。このまま家計に例えると、この日本国という家計は、借金もありながら、資産も持っているわけです。ですから、ギリシャの例を日本にあてはめるのは適当ではないと思います。

 

日本の場合、財政危機だと言っているわりに、政府の資産をあまり売らないんですよね。イギリスなんかは、持っている軍艦を売ろうかという話までする。資産を売ることは危機の場合仕方なくやらざるを得ないんですよ。でも、日本の場合、それをしません。まだ、余裕があるのでは、と思ってしまいますね。

 

そうすると、家財道具を売るのとは違って、簡単に国有財産を売れるものではない、という意見も出てきます。しかし、売らないでも貸すことはできるし、不動産に関しては家賃収入を得ることもできる。あと、政府には現預金もあるし、出資金もあるわけです。財政学者の中には「売れない」という方もいますが、原則的には売ることが可能ですし、危機になったら売らざるを得ないのではないですか。

 

「財政危機」というのであれば、もっと色んなものを売っているだろうし、膨張している社会保障費を維持できないと訴えることもできると思うんです。ですが、増税の方に舵を取っているのは不思議です。

 

消費税増税の議論を見ていると、増税しなければ、日本の国債の信用があぶなくなるというような、テールリスクを懸念している声が多くあります。テールリスクとは、発生すると大きなダメージを与えることになりますが、起る確率は極めて低いリスクのことです。

 

もちろん、これを考慮することは大切です。でも、やはりテールリスクはテールリスクなのです。問題なのは現状に起きていることで、消費税増税で消費が伸びずに景気が悪化してしまった。しかも財政再建から遠ざかっている。これはリスクどころか、現実化している危険(デンジャー)なわけです。

 

現状をどんどん悪化させているのに、「でも、国債の暴落がなくて良かったね」と言えるのか。起きる可能性が非常に少ないリスクと、現実に起っているデンジャーを比較するなら、後者に対応するべきではないでしょうか。私は現在のデンジャーを悪化させないためにも、今回の増税には反対です。

 

(2014年10月28日 若田部昌澄研究室にて)

 

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