なぜアベノミクスで庶民の給料は上がらなかったのか?

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給料はすでに上がり始めている

 

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また実際に、庶民の給料が上がり始めていることは上の図23からわかる。賃金の統計として一般的に用いられる「毎月勤労統計」で給料を見ると、2013年半ば頃から給料は上がり始めているが、上昇は極めて緩やかで、これに多くの人は不満を持っているようだ。

 

だが、「GDP統計」のなかの「雇用者報酬(名目)」を見ると、賃金は「毎月勤労統計」よりも大きく増加しており、しかも安倍政権成立直後から、両者の差が拡大し続けていることがわかる。

 

私は、日本全体の賃金動向を見る際には、「毎月勤労統計」よりも「GDP統計」のなかの「雇用者報酬」のほうがよいと考えている。その理由は、「毎月勤労統計」はすでに雇用されている雇用者(正規も非正規も含まれる)の1人当たりの賃金(月給)の動きであるが、「雇用者報酬」は支払われた給料総額を示したものだからだ。

 

つまり、「毎月勤労統計」はあくまでも、すでに企業から雇用されていた人の1人当たりの賃金の動きを示したものであり、そこには雇用が増えたかどうか(新たに雇い入れた人数)は反映されていない。一方、「雇用者報酬」は、その時期に働いていた人がもらった給料の総額である。すなわち「毎月勤労統計」が1人当たり賃金の動きであるのに対し、「雇用者報酬」は「雇用者数×1人当たりの賃金」であらわされる。

 

このことから、「毎月勤労統計」と「GDP統計」の「雇用者報酬」に差が生じているのは、「雇用者報酬」には「毎月勤労統計」に反映されていない雇用者数の増加(失業者の減少)が反映されているからだということがわかる。どちらがより正確に、日本人全体の給料(名目賃金)の動きをとらえているかといえば、これまでの理由から「雇用者報酬」のほうであると考える。

 

これらが理解できると、2014年12月の衆議院総選挙の時に、野党がアベノミクスを批判する根拠として主張していた「アベノミクスの発動以降、非正規雇用は増えたものの、正規雇用は減っているため、アベノミクスは格差を拡大させている」という話のおかしさもわかるだろう。

 

 

アベノミクスは金持ち優遇ではない

 

「アベノミクスは株高を通して金持ちを潤わせるだけで、庶民を潤す効果はない」などと言う識者がいる。確かにアベノミクスは、株高を通して資産家を潤わせているが、同時に経済的弱者である失業者たちが新規に雇用されるという波及効果を持っている。アベノミクスはそういう意味で、資産家と経済的弱者の両方に恩恵がもたらされることで、中間にいる一般庶民にも、その効果が上下から及ぶ政策である。

 

「アベノミクスの効果は、我々庶民にまでは回ってこない」などと多くのメディアが吹聴するため、不安に思うのも無理はないが、心配する必要はない。このまま適切な経済政策が続けられ、完全失業率の低下が順調に続けば、徐々に一般の人の給料が増え始めることは間違いない。「非正規雇用者」の一部もやがて正社員として登用され始める時が訪れるのは、データからも明らかである。

 

アベノミクスの効果は、株高や円安をもたらしたと同時に、経済的に最も弱い人たちを失業から救い出すところから始まっている。そして、雇用できる人を雇用しつくし、「これ以上、雇用を増やすことによって生産を増加させることはできない」というところまで行きついた(完全雇用が達成された)その時こそ、給料(名目賃金)が増加し始める形で、一般庶民も実感できる本格的な景気回復が始まるのである。

 

■本論考は、『世界が日本経済をうらやむ日』(浜田宏一・安達誠司著、幻冬舎)の第5章「なぜこれほど金融緩和が効くのか」からの抜粋です(一部省略あり)。

 

 

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アベノミクスにより、株価は約2倍、円安にもなり、景気は回復しつつある。とはいえ、いまだに「賃金が上がっていない」「生活はよくなっていない」など、アベノミクスに懐疑的な人もいる。そこで本書では、イェール大学名誉教授、兼、内閣官房参与である著者が、「経済の真実」について、経済が苦手な人にでも理解できるよう、わかりやすく伝授。

 

 

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