世界一の投資家ジョージ・ソロスが2か月で10億ドル稼いだ投資法入門

莫大な利益を得る投資の方法

 

浜田 私は、アベノミクスの初期に油揚げを海外に持っていかれた日本の投資家たちに、今度こそおいしい思いをしてほしいと思っています。したがって実際の投資の現場において、大きな成果を上げている人たちの話をお聞きしたいと思います。

 

投資で大きな成果を上げている人たちといえば、ジョージ・ソロスなどが運営するヘッジファンドでしょう。規模の大きい投機的なファンドが、金融の世界では幅を利かせているように見えるのですが、ヘッジファンドというのはどういった手法でそれだけの利益を上げているのですか。

 

安達 簡単に言えば、彼らはマーケット自体が「必ずしも『効率的市場仮説』の通りに動いているわけではない」という前提で動き、それをうまく利用して利益を得ているのだと思います。

 

「効率的市場仮説」とは、株式市場でいえば「現在の株価は、あらゆる情報を織り込んだうえで形成されているため、世間にすでに流布された情報をもとに投資をしていたら、投資家たちは恒常的に利益を上げることはできない」という考え方のことです。つまり、経済や企業に関する情報、およびチャートをいくら利用しても、必勝法のような投資法は存在しないという考え方なのです。

 

しかし、現実の市場はそこまで効率的ではなく、どこかに歪みが生じているものだから、「必ず利益を上げられる機会があるはずだ」と彼らは考えています。その市場の歪みを見つけて儲けるというのが、ヘッジファンドの投資手法の基本的なスタンスだと思います。

 

たとえばソロスなど、メディアに頻繁に登場するヘッジファンドマネージャーの多くは、「グローバル・マクロ運用」という投資手法を用いて収益を上げています。この運用方法は、世界の金融市場をマクロ経済の見通しにもとづいて眺め、その見直しによって考えられる価格から、マーケットが大きくかけ離れた時に集中的に投資するものです。

 

典型的なのは、彼が大成功したイギリスのポンド危機のような例です。ポンド危機が起きたのは、端的に言って、当時のイギリスが固定相場制を無理に維持しようとしていたことが原因でした。

 

当時のイギリスは、中央銀行であるイングランド銀行が、ECU(エキュー、ユーロの前身)/ポンド相場が変動しないように為替市場に介入して、ECU/ポンドレートを固定させていました。とはいえ、そもそも為替市場には多数の参加者が取引に参加しているので、イングランド銀行が頑張って為替市場に介入したところで、ECU/ポンドレートをいつも一定の値に維持できるはずがありません。それまでこれを維持できていたのは、イギリスの景気とアメリカの景気が、たまたま同じような動きを見せていたからです。

 

そのため、ECU/ポンドレートを大きく変動させることで利益を得ようという取引を試みる投資家がいなかったのです。そのように「仕掛け」たところで他に誰もついてこなければ、損失を被るだけですので。

 

浜田 でも当然ながら、その「たまたま」は永遠には続かなかった。

 

安達 その通りです。アメリカの景気とイギリスの景気が違う動きを見せた時が問題だといわれていましたが、それは実際に起きました。この場合、米英は別々の金融政策をとらざるを得なくなるため、固定相場の維持が不可能になったのです。為替相場を固定化させるという制度自体が永続性がなく、そのため為替市場に歪みが生じていたのです。その制度上の歪みを認識し、制度が破たんするタイミングを見計らって、大きく仕掛けたのがソロスでした。

 

ソロスはイギリスの固定相場制が崩壊し、大きなポンド安が起こった時に大きく利益をとれる方向で、大規模な投資を事前に行いました。しかも投資資金にかなりのレバレッジをかけ、先物取引の手法を駆使し大量の取引をすることで、相場が崩壊の方向に動くよう誘導すらしました。結果、イギリスの固定相場制は崩壊し、大きなポンド安が起こったため、ソロスは莫大な利益を得たといわれています。

 

これが、グローバル・マクロ運用というヘッジファンドの投資戦略の一つで、政府の経済政策とマーケットの間に生じる歪みを利用した投資の方法です。

 

 

ヘッジファンドの投資戦略

 

安達 とはいえポンド危機のように、経済政策とマーケットの間に大きな歪みが生じている事態というのはそうそうありません。そこで、多くのヘッジファンドが比較的リスクをとらずに収益を稼ぐ手段として、「ロングショート戦略」という投資方法があります。

 

この方法は、株式市場においてロングポジション(買い持ち)とショートポジション(売り持ち)の両方を同時に保有し、そこから利益を得ようとするものです。何らかの評価基準から判断して、割安だと思われる資産を買い持ちし、値上がりしたら売る投資方法と、割高だと思われる資産を空売りし、値段が下がった時に買い戻す投資方法を同時に行うため、この名がついています。(略)

 

この手の投資戦略は、ある2つの資産を組み合わせた時、長期で見て安定的な関係が統計上確認できるものであれば何でもいいため、株式の個別銘柄だけではなく、いろいろな組み合わせで行われています。将来の予想など必要なく、あくまで過去における資産の価格変動の関係と、一時的な乖離を利用したものなので、「予想が外れて大損を被る」という事態は回避できます。

 

ただし、何らかの理由でこの2つの資産の間の統計的関係が変わってしまうと、投資戦略として機能しなくなるので注意が必要です。この関係を見誤ると、ポジション次第では、とんでもない損失を被ることになりかねません。かの有名なLTCM(ロングタームキャピタルマネジメント)は、これを新興国の債券で行っていたヘッジファンドでしたが、アジア通貨危機やロシア通貨危機で、これまでの債券価格の変動パターンが大きく変わったために、多額の損失を被ってしまいました。

 

浜田 まさに安達さんの説明で、ヘッジファンドの秘密が手にとるようにわかりますね。【次ページにつづく】

 

 

 

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