世界一の投資家ジョージ・ソロスが2か月で10億ドル稼いだ投資法入門

投資で勝つ人の特徴とは

 

安達 我々のようなエコノミストやアナリストといわれる人たちは、将来の見通しを正しく予想しようと日々、苦闘しているわけですが、予想の精度というのはなかなか向上していかないという側面が強いと思います。特に、1980年代後半以降、世界のいろいろなところで経済危機が断続的に発生していますが、このような経済危機のあとというのは、伝統的な経済学の考え方が有効に機能しないことが多いように思います。そのため、実際の投資の成功の鍵は、ある一定の考え方やロジックにこだわらず、臨機応変に対応して、短期で勝負を決めるというところにあると思います。

 

浜田 投資で勝つ人の特徴というのは、あるのでしょうか。

 

安達 一概には言えませんが、マクロ経済と市場全体の大きな動きの方向性を正確に把握しつつも、あまり自分の考えに固執せず、深追いは絶対にしない人だと思います。たとえばソロスは、2012年12月、数兆円規模の日本株を買ったといわれていましたが、翌年の1月にはすべて売って利益を確定させていたという話でした。それは、彼らが目標のリターンをあらかじめ低いところに設定しておき、達成するといったん離れ、また次の大きな投資機会に備える、といったことを何度も繰り返しているということなのだと思います。

 

アベノミクスは、確かに日本の経済政策の一大変革で、これを見て「日本の株式市場も大きく変わり、これまでの停滞をいっきに覆すような上昇局面に入る」と考え、思い切って買いに入った投資家もいたと聞きます。しかし、ソロスなどのヘッジファンドの投資家は、決して過大評価せず、冷静に対応したということなのではないでしょうか。私見ですが、今投資の世界で成功しているのは、そういう人たちなんだろうと思います。

 

浜田 「投資とギャンブルは似て非なるもの」なんて言われたりしますが、やはり博打打ちのような人は投資の世界では勝てないのですね。

 

安達 少なくとも、長期的に利益を上げ続けることはできないでしょう。ソロスなど特に顕著ですが、儲かっている人というのは、外に向けては哲学めいた持論を展開して煙に巻いたり、後づけの理論で尊敬を集めたりしますが、自らの投資については、かなり現実的に行っているのだと思います。

 

 

ソロスは日本の金融緩和が効くことを知っていた

 

浜田 私が内閣官房参与になったあと、ソロスからニューヨーク郊外の自宅に遊びに来ないかと誘われ、家内などは「運転手としてでもいいから行きたい」と興味を示したのですが、私の時間がとれなかったので、逆に彼にイェール大学まで足を運んでもらったことがあります。それでイェールの卒業生に所ゆかり縁がある「モーリーズ」というレストランでごちそうになりました。

 

安達 ソロスにお会いになったとは興味深い話ですね(笑)。

 

浜田 今の安達さんの話を聞いて、ソロスが私に会いに来た理由がよくわかりました。彼は、アベノミクスがどれくらいの確かさで実行に移されるのかを探りに来ていたんですね。経済政策が大きく転換する時、そこに大きな投資機会が生じることを彼がよく理解している証拠でしょう。

 

その後、ソロスのパートナーから、「アベノミクスをちゃんとやれるような(たとえば黒田さんのような)人を日銀総裁にしないと、日本経済は破綻するよ」という旨の怖い手紙が送られてきたんです。これは内閣官房参与である私に対する脅迫状みたいなものです(笑)。

 

安達 徹底していますね。

 

浜田 重要なのは、我々日本のリフレ派が長年主張していた「日本経済の回復のためには大規模な金融緩和政策が必要」ということを、少なくともソロス自身は理解していたということです。「金融緩和を行うとハイパーインフレになる」「スタグフレーションに陥る」「財政破たんが起こる」なんて言っていた日本の市場関係者たちとは大違いですね。

 

安達 そう思います。私自身、海外の市場関係者と話すにつけ、日本の市場関係者の通説がいかにガラパゴス的でおかしいものかを実感しています。

 

浜田 それは市場関係者だけでなく、日本の経済学者にもまったく同じことが当てはまります。ところでソロスの話は、市場関係者にとってはとても示唆的だと思います。なぜなら、マクロ経済の仕組みを知り、各国政府の、その時々の経済政策によって何が起こるかを把握できれば、大きな収益の機会になるということなのですから。ソロスは、「金融緩和を行った国では相対的に自国通貨安が起こる」としたソロスチャートでも有名です。

 

安達 おそらくソロスが株や為替の市場動向を見定めるために使っているのは、マクロ経済学の教科書にのっているような理論ではないかと思います。

 

たとえば、今現在、変動相場制を採用している日本の為替相場において、いまだに「このままだと、ポンド危機のように円が暴落する」などと言っている人がいます。しかし、「ポンド危機やアジア通貨危機が起こった原因は、それらの国々が固定相場制を採用していたから」だと知っていれば、変動相場制下にある日本で、円の暴落が起こり得ないことは容易にわかるはずです。

 

逆にいえば、「通貨の暴落は変動相場制の国では起こらない」という、マクロ経済学において極めて基礎的な事実すら知らない人たちは、危機をあおって自分の本やレポートを売りつけようとする人たちのカモになるか、投資の世界から撤退を余儀なくされるしかないでしょう。

 

浜田 然り、ですね。ソロスチャートのようなことも、経済学の世界では、すでに18世紀にデイヴィッド・ヒュームという哲学者が言っていることなんですね。ヒュームは、ある国で貨幣がたくさん発行されたら、為替レートの世界で、その国の通貨が下がる(通貨安が起こる)のは仕方がない、と言っています。

 

安達 そうですね。そもそも金融政策を行っているFRB自体が、極めてオーソドックスなマクロ経済学の理論を用いることで経済の分析をし、施策を打っているわけですから。投資家であったとしても、マクロ経済学の基本的な部分を把握しておかなければ、勝ち続けることは難しいでしょう。(略)

 

 

ソロスは金融政策に呼応した投資をしている

 

 先に少しだけ触れましたが、ソロスなどがグローバル・マクロ運用を行う場合にやっているように、一般の投資家の人たちであっても、本来はまず株や為替の動きをマクロ経済学の視点で眺める必要があると思います。(略)

 

安達 実際、米「ウォール・ストリート・ジャーナル」の2013年2月14日の記事で、ソロスが2012年11月以来の円安に賭けた取引において、10億ドル(約930億円)近い利益を得たと報じられています。この例を考えると、少なくともソロスは、アベノミクスによって大幅な円安が起こることは、完璧に把握していたことになります。

 

また、内閣官房参与になられた浜田先生にコンタクトをとり、なおかつ安倍首相自身にも会っているところを見ると、ソロスは金融政策の動きを真剣に探っているということです。どれぐらいの規模の金融政策が行われ、それによってどれだけ為替や株が動くかの推計値は絶対に持っているでしょうから、マクロで見た場合の理論値と、実際の株と為替の理論値の乖離には、常に注意を払っているのは間違いないと思います。(略)

 

浜田 結局、日本人が投資の世界で適正なリスクがとれるようになるには、マクロ経済についてきちんと勉強することが必須のようですね。そのうえで個別株の動きを勉強するといった方法が正攻法になるでしょうか。

 

安達 そう思います。様々な経済政策が与えるマクロ経済への影響を知らずに投資を続けるのは、収益の機会を運に任せるようなもので、非常に危険だと思います。とはいえ、マクロ経済の動きを正しく読めたとしても、必ず投資に勝てるという話でもないのが玉に瑕ですが、マクロの動きを知らずに投資を続けるのは非常に危険で、痛い目にあうのは時間の問題でしょう。

 

浜田 だとしたら、本書がそういった、あまりマクロ経済を勉強してこなかった投資家の人たちにも役に立てると一番いいですね。この対談で、株式投資をほとんどやらない私にも、株式と為替に関する最新の理論と市場のノウハウを教えていただき、とても勉強になりました。

 

■本記事は『世界が日本経済をうらやむ日』(浜田宏一・安達誠司著、幻冬舎)の第7章「株と為替で確実に稼ぐことは可能なのか」より一部転載したものです。

 

 

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