インフレ目標政策を考える

FRBは1月のFOMC(米連邦公開市場委員会)、日本銀行は2月の金融政策決定会合にて、それぞれ「長期的ゴールと金融政策の戦略」(longer-run goals and monetary policy strategy)と「中長期的な物価安定の目途」を打ち出した。これらについて「実質的なインフレ目標政策」であるとの報道がなされている。だが両者は似ているものの、内実は大きく異なると筆者は考える。以下、インフレ目標政策について考えつつ、なぜそうなのかを示すことにしよう。

 

 

インフレ目標政策の特徴

 

まずFRB、日本銀行の政策を判断する前に、インフレ目標政策とは何かという点について示しておこう。インフレ目標政策は、次の5つの特徴を持つ政策である(図表1)。

 

 

図表1 インフレ政策の特徴

図表1 インフレ政策の特徴

 

 

1つ目の特徴は数値目標の設定である。これは明確な数値を設定して、目標達成の有無を明確化するということである。数値目標の設定には、2%といったかたちで目標数値を設定する方法(ポイントで指定する方法)と、1%~3%といった範囲で指定する方法の2つがある。ポイントで指定する方法のメリットは、ターゲットが明確であるために、数値目標の周知が容易であることだ。一方でターゲットがポイント指定であるために、この目標を達成できない場合には中央銀行への信認が失われるというリスクもある。これを回避するのが、範囲で指定する方法である。範囲で指定すれば、ポイントで指定するよりも目標はあいまいとなるリスクがあるが、目標を達成する可能性が高まるために信認を維持する可能性も高まるだろう。

 

2つ目の特徴は、達成期間の明確化である。中央銀行は短期的にはインフレ率と失業率(景気)のトレード・オフがあることを前提にして金融政策を行っている。ただ、原油価格上昇といった要因が企業のコストを引き上げ、それが価格転嫁というかたちで物価上昇に結びつくケース(コストプッシュ要因にもとづく物価上昇)が、インフレ目標値以上の物価上昇をもたらした際には、インフレ目標値を上回るといって中央銀行が即座に金融引き締め策を行うと、それが失業率(景気)の悪化に結びつくリスクを高めてしまう。インフレ目標政策ではこういった場合に目標インフレ率を逸脱する可能性を認めている。ただし、原油価格上昇といった要因がつづくのは短期的な現象であるため、中長期的には目標を達成するというかたちで達成期間を明確化することが必要となる。

 

3つ目の特徴は、数値目標の決定と達成手段の決定の区別である。これは、数値目標の設定は政府が基本的に行い、数値目標の達成手段(インフレ目標を達成するための金融政策)は中央銀行が選択するということである。中央銀行はこのことで、インフレ目標という制約条件のなかで自律的に金融政策を行うことになる。

 

4つ目の特徴は説明責任である。目標となるインフレ率を設定しても、それを達成するためにどのような金融政策を行い、金融政策はどのような効果を持つのかということが明らかでなければ、設定した目標を国民が信認することはできないだろう。後でみるように、各国中央銀行はさまざまなかたちで説明責任を果たすべく努力を行っている。

 

5つ目の特徴は動学的整合性である。これは金融政策によってインフレ率が安定的になり、かつインフレ目標値を達成する前に、政策変更をしないということを意味する。

 

以上のように、数値目標の決定と達成手段の決定の区別といった「政策の枠組み」としての側面がひとつ。そして、数値目標の設定や達成期間の明確化、説明責任、動学的整合性といった要素を通じて、国民に広くインフレ目標と金融政策の理解を促すという「コミュニケーション戦略」としての側面。こと2つの側面を兼ね備えた政策が、インフレ目標政策であるといえよう。

 

 

 

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