もう一度「一般理論」に挑戦する

ケインズ経済学の伏流

 

山形 その後、だんだん時流は逆転していって、赤字出動をするとインフレにはなるけど、景気も回復しないし失業はそのままだし、いいことはないという、今の日本によく言われるのと同じような状況になった。

 

もうひとつは「公共が事業をいろいろやると効率が悪いじゃん!」というもの。知っている人はわかると思うけれど、昔の電電公社はやっぱり効率が悪いし、態度が横柄だし、殿様商売するし、「もう少しましなやり方もあるんじゃないの?」と言ってたら、いろんなことが民間でできるようになってきた。「ほら見ろ。だから政府があれこれしなくてもいいんだ」という状況が現実に起きたし、理論の側でも「もっと市場に任せればいい」という話になった。

 

飯田 さらに70年代、アメリカが固定相場制を放棄しました。そうすると、マンデルフレミングモデルで考えると、先進国にとって財政政策が効かない条件が全部そろってしまったことになりますよね。たとえば、日本に東名高速がなかったときに東名を通したほうがいいというような、馬鹿でもわかるというような案件もなくなり、変動相場制になり、財政政策が無効になる条件が整ってしまった。

 

山形 そういうこともあるかもしれませんが、ちょっと言っておきたいことがあります。東名高速や名神高速、あと新幹線を造るとき、当時日本は敗戦国で後進国だったので、世界銀行の金が借りられたんです。でもそのときに世銀のエコノミストは「あんな敗戦国に、そんなもの要るわけねえじゃん。貸しても無駄だよ」という報告書を書いていやがるんですね。結局、日本は「でも、敗戦国だから貸してよ」といって借りて、ちゃんとすべてお金を返したし、今は出す側に回ったことがある。つまり新幹線や東名は今から見れば「造って当然でしょ!」と思うけれども、当時はそんなこともなかった。

 

飯田 なるほど。昔から公共投資は難しかったのかもしれないですね。

 

山形 とはいうものの、多分、今よりは簡単でしょうね。第二東名を造るのと、第一東名を造るのとどっちがいいですかという話だったら、第一東名のほうでしょう。

 

飯田 その意味でいうと、ケインズからはちょっと外れてしまいますが、今は東北を中心に壊れたインフラを直すという、収益性が高い公共事業があることはたしかですよね。

 

話を戻すと、その一方で、一気に「新古典派じゃないと経済学じゃない」という雰囲気になっていったのですが、その間にアメリカでは長期の停滞があったり、それこそクリントン政権のほどほどのインフレと安定的な好景気という「すばらしき十年」があったり、いろいろなことがあった。ところが、日本国内の流行はなぜか一方通行なんですよね。海外だと必ず伏流水があって、ミルトン・フリードマンが雌伏何十年を経て、やっと新古典派として復活、ということがあるのですが、日本ではそういうイメージがないですね。

 

山形 それはやっぱりマル経(マルクス経済学)が強くて、さっき話が出た昔のケインズの解説書を読むと、「ケインズにおいては階級理論はあるか」といった話がされているんですね。『コンメンタール』でも、「『一般理論』の中では、一般に働く人と、アニマルスピリットを持って事業をする人と、金利生活者が描かれている。これは社会における階級でなくて何であろうか。金利生活者の死は階級闘争に比肩するもので、つまりケインズにもマルクス的な要素はあるんだ」というのをかなり一生懸命説明しようとしています。マルクス経済学に擦り寄らなきゃいけない面もありつつ、でもあまり擦り寄るとレーゾンデートルがなくなるから、古典派と共存もしないといけない。そういう力学もあったんじゃないかと思うなあ。

 

飯田 たしかに日本の場合、マルクス経済学の影響は大きくて、今でさえもじつはだいたいの大学は近代経済学とマル経プラスマル経崩れが半々ぐらいだと思うんですよね。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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