消費税率引き上げの経済への影響をどう考えるか

消費税率引き上げの影響は一時的だったのか?

 

しかし、この中里(2010)の評価は、消費税率引き上げが経済に及ぼす影響を低く見積もっているのではないかと筆者は考える。その理由が、八田達夫(2002)「『90年代の財政運営-評価と課題』コメント」(『フィナンシャル・レビュー』財務省財務総合研究所、第63号 http://www.mof.go.jp/f-review/r63/r_63_073_074.pdf)で指摘されている、消費税率引き上げ後に住宅、半耐久財、耐久消費財の消費が減少したことが、その後の景気後退をもたらす要因になったという指摘である。

 

具体的に統計資料に即して検討してみよう。図表1は家計消費と総投資の動き(前年比)を折れ線グラフで、家計消費及び総投資に影響する各財もしくは各投資の変化(寄与)を棒グラフとして示し、さらに実質雇用者報酬と家計消費デフレーター、有効求人倍率の動きを示したものだ。

 

 

図表1 消費税率引き上げ前後の国内家計消費・総投資・実質家計所得の動向 (出所)内閣府『国民経済計算』、厚生労働省『職業業務安定統計』より筆者作成。

図表1 消費税率引き上げ前後の国内家計消費・総投資・実質家計所得の動向
(出所)内閣府『国民経済計算』、厚生労働省『職業業務安定統計』より筆者作成。

 

 

まず家計消費全体の動きについてみると、97年第1四半期の消費の伸びは前年比4.0%であり、このなかで耐久財消費の伸びがサービス消費の伸びに次いで寄与していることがわかる。そして、消費税率引き上げが行われた97年第2四半期には、前年比-0.3%と低下し、97年第3四半期には0.7%と増加した後に、98年第1四半期にかけて大きく下落していることがみてとれる。

 

たしかに中里(2010)が指摘するとおり、家計消費全体の動きをみれば消費税率引き上げの影響は一時的で、97年11月に生じた金融システム不安定化の影響が大きく寄与しているとみることもできるのである。

 

しかし八田(2002)が指摘するとおり、消費税率引き上げが家計の資金制約に影響して、住宅、半耐久財、耐久財の消費を低下させると考えれば話は違ってくる。図表1の家計消費に影響する各財の消費の寄与に着目すると、耐久財消費の寄与は97年第2四半期にわずかなマイナスとなったが、その後下落の勢いを強めて98年第1四半期にかけて家計消費の減少に大きく影響している。そして半耐久財消費も97年第2四半期以降一貫して家計消費を下押しするかたちで作用している。

 

中里(2010)が指摘する97年第3四半期の消費増はどうか。半耐久財および耐久財消費は下落していることがわかるが、家計消費の増加に影響しているのはサービス消費と非耐久財である。

 

この点について、八田(2002)は家計調査から、非耐久財消費増に影響したのは食料および水道光熱費であり、食料の場合は前年がO-157の影響で食糧消費が低かったことが前年比プラスに影響しており、かつ水道光熱費の場合は前年が冷夏であり電気代が少なかったことが影響しているとしている。

 

サービス消費は図表からもわかるとおり、一貫して家計消費の増加に影響しているが、この主因は携帯電話の通信料の増加と96年に下落した教育費が回復したことの影響であると述べている。

 

つまり、消費税率引き上げが消費に対して一時的か否かを判断する際に問題となった、97年第3四半期の家計消費増加に寄与したサービス消費、非耐久財消費の増加は、消費税率引き上げとは関連性が薄いということだ。

 

住宅消費の低下は住宅投資に影響するため、消費税率引き上げの影響は投資にも影響をもたらす。図表1からは総投資の動きは、97年第1四半期以降その伸びを低下させているが、97年第2四半期までは96年半ば以降に実施された公共投資の削減が、公的固定資本形成(公共投資)の下落というかたちで影響していることがわかる。

 

そして、総投資の下落を加速させたのが、97年第2四半期以降にマイナスとなった民間住宅投資の動きである。その勢いは97年第4四半期にかけて拡大したが、図表からは消費税率引き上げの影響による住宅投資の低下が総投資のマイナスに寄与しつつ、97年11月以降の金融システム不安定化により設備投資の下落を引き起こしながら、さらなる総投資の停滞をもたらしたとみることができるだろう。

 

最後に実質所得と有効求人倍率の動きについてみておこう。まず有効求人倍率の推移をみると、97年第3四半期まで安定的に推移しており、中里(2010)の指摘どおり雇用環境の悪化は生じていないことがわかる。

 

だが実質所得の動きに着目すると、消費税率引き上げにより97年第2四半期から98年第1四半期の家計消費デフレーターは前年比プラスとなり、名目所得は前年比プラスを維持しているにも関わらず、実質所得の伸びは低下していることがわかる。実質所得の動きは消費に影響するが、消費税率引き上げによる物価上昇効果が実質所得を低下させ、消費を下押しさせる効果をもたらしたと考えられる。

 

以上のように、消費税率引き上げの影響を、財別の消費の動きや投資への波及といった観点で検討すると、消費税率引き上げが住宅、半耐久財、耐久財消費に影響することで、消費や投資に下押しの効果をもたらした。そしてこれらの効果が、アジア通貨危機や金融システム不安定化といったイベントにより増幅されて、景気後退を深刻化させたと理解することが可能なのではないか。

 

 

 

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vol.2019.4.15 

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