市場メカニズムを活用すべき電力不足対策

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東日本大震災によって停止に追い込まれている発電所は、連日注目の的となっている原子力発電所だけではなく、東京電力の主力火力発電所にも広く及んでいるため、東京電力管内では、深刻な電力不足が今後もつづくことが予想されている。

 

 

夏場の電力抑制幅は現在の3倍の可能性

 

とくに危機的な状況が見込まれるのが、夏場の電力需要のピーク時である。東京電力は、今後7月までに、主力火力発電所の復旧や、停止中の古い火力発電所の再稼動、ガスタービン発電機の新設などにより、現在の約3800万キロワットから4650万キロワットまで供給能力を増強する予定であるが、例年の夏場の最大電力需要は5500万キロワット程度であり、差し引き850万キロワットが不足すると見込んでいる。

 

しかしながら、昨年のように記録的猛暑の場合には、最大電力需要は6000万キロワットに達する。また、原油やLNG(液化天然ガス)の調達見込みがいまだ立っておらず、東京電力の計画通りに供給能力増が進むとはかぎらないこと、夏ごろには消費者の節電疲れが出てくることなどを考えると、850万キロワットの不足で止まるという東京電力の見込みは、かなり甘い可能性がある。

 

実際には、経済産業省が見込んでいるように、1500万キロワット程度の電力不足を予定しておくほうが無難であろう。問題は、これだけの電力不足に対応する需要抑制をどのように達成するかである。

 

3月末現在、電力需要のピークは3500万キロワット程度であり、前年の約4000万キロから、計画停電や利用者の節電努力によって500万キロワット程度の需要抑制が行われている。しかしながら、夏場には1500万キロワットの需要抑制が必要であるとすると、単純計算で現在の3倍の努力が必要であることになってしまう。

 

これに対して政府は、(1)4月末を目処に一旦終了する「計画停電」の再開と強化、(2)企業に電力使用量の上限を課す「総量規制」導入、(3)夏の標準時間を1時間程度早めるサマータイム制度の導入などで対応する方針である。

 

しかしながら、現在の3倍の努力ということになると、計画停電や総量規制の実施は相当の厳しいものになることが予想され、生産活動に甚大な被害を及ぼすことは、ほぼ確実である。震災復興の財源確保のため、少しでも早く経済成長率を回復させ、税収減に歯止めをかけたい政府にとって、電力不足による首都圏の生産減少は、致命的な影響となろう。

 

 

計画停電・総量規制は愚の骨頂

 

現在行われている計画停電に対し、首都圏の人々は「東北の人々のことを思えば、これぐらい仕方ない」「国民がひとつになって危機を乗り越えよう」と、不便さによく我慢をしている。病院や老人ホーム、在宅医療をつづける患者にとっては、まさに命の問題が発生しているが、本当によく耐えている。

 

しかしながら、本来、計画停電や総量規制のような「社会主義的な手段」は、命の問題にとっても、生産活動にとっても、非常に「非効率」である。早い震災復興を望むのであれば、こうした手段をつづけたり、大規模に行うことは望ましくない。生産活動にとって非効率というのは、生産性の高い企業も、生産性の低い企業も一緒くたに休業させてしまうからである。

 

たとえば、同じ電力量で10の生産を行う優良企業と、2しか生産できないゾンビ企業(本来であれば死んでいる非効率な企業)があるとしよう。両方とも電力量を平等に半分にされると、各企業の生産はそれぞれ5(優良企業)、1(ゾンビ企業)となり、生産量がそれぞれ半分になる。両者の合計は6であり、元の12から生産量は半減する。

 

一方で、優良企業には休業させず、ゾンビ企業のみ休業させるということであれば、生産量は10である。つまり、優良企業は元の通り10の生産を行い、2しか生産できないゾンビ企業が休業して0になるから、元の生産量12に対して、事後的な生産量は10とわずかな生産減ですむ。

 

問題は、このように効率的な生産を行う企業とそうでない企業をどう選別するかということであるが、計画停電はすべてが一緒くたになるので、選別は不可能である。また、効率性は高くなくても、必要性の高い病院や老人ホームは電力供給をつづけることが望ましいが、そうした重要度に応じた選別も不可能である。

 

総量規制については、原理的には選別を行うことは可能であるが、非効率な中小企業や自営業ほど政治力が強いから(数が多いから)、政治的に効率性に応じた選別を行うことは不可能であろう。

 

 

効率的で弱者に優しい市場メカニズム

 

これに対して、市場メカニズムを活用すれば、効率性の高い企業を自然に選別することが可能である。ひとつのやり方は、池田信夫氏がかなり早い段階で提唱した「電力消費税」(http://news.livedoor.com/article/detail/5412902/)を導入することである。これは、電力需要を抑制するために税を課すというもので、実務的には電力料金を引上げるだけであるから、すぐに実行可能である。

 

この方法では、電力料金を引上げても、利潤が出る効率性の高い優良企業は生産をつづける一方、効率性の低いゾンビ企業は休業をすることになるから、自然に効率性による選別が可能となる。また、病院や老人ホームなど、効率性とは別の観点から重要性が高い施設は、そもそも電力料金を引上げなければ良い。

 

問題は、電力料金を引上げると東京電力の収入になってしまうと勘違いされ、消費者が納得しないという点であるが、最終的に東京電力の売上高から、政府が電力消費税を吸い上げることになるから、東京電力を儲けさせることにはならない。このことをきちんと政府が明言して実行すればよい。

 

また、この経済危機に税を上げるとは何事だという声もあろうが、電力消費税収をすべてて震災復興に使う財源とすれば、消費者の納得も得やすいだろう。もちろん、雇用調整助成金や休業補償のようなかたちで、ゾンビ企業にも何がしかの恩恵があるように税収を補助金で分配すれば、ゾンビ企業側の反対の声も和らぐと思われる。

 

一方、政府が総量規制をどうしても行いたいのであれば、「電力使用権の売買市場」を創設すべきである。現在、政府で検討されている総量規制は、各家庭ではなく、大口の企業に対する総量規制であるが、恐らくは震災前の実績に応じて一律に何%といった電力使用量の減少ノルマを課すことになるのだろう。

 

この場合も、優良な企業とゾンビ企業の双方が平等に同じ割合のノルマを課されることは、効率性の観点から望ましくない。そこで、各企業は自分の課された電力使用量(使用権)を、自由に市場で売買できるようにする。仕組みは、温室効果ガスの「排出権取引市場」と同じである。

 

そうすれば、効率的な優良企業は、市場でお金を払って電力使用権を購入して、その分多く生産を行っても採算が合うので、高い生産水準を維持することができる。一方、非効率なゾンビ企業は、生産量を自ら減らして、その分の電力使用権を優良企業に売った方が得となる。

 

つまり、ゾンビ企業の休業に補助金を出しているのと同じ効果があり、ゾンビ企業は喜んで休業するので、電力需要が抑制されるのである。また、この場合には、東京電力は一切、収益が増えないので、国民も納得がしやすいであろう。もちろん、病院や老人ホームには最初の総量規制の段階で、減少ノルマを課さなければよい。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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