日本の購買力平価は高くない

実質実効レートが安定していたのはデフレだから

 

日本は円高で大変だというが、実質実効為替レートで見ると円高ではないという人もいる。実質為替レートとは、各国間の物価上昇率の違いを調整した為替レートだ。為替レートが上昇しても、自国の物価が他国に比べて下がれば、国際競争力は低下しない。だから国際競争力は、実質為替レートで見るべきで、実質為替レートで見れば日本の為替は上がっていないのだから心配することはないと言うのである(なお、実効為替レートとは日本の貿易相手国のウエイトを勘案して調整した為替レートである。だから、実質実効為替レートとは、日本の貿易相手国のウエイトを勘案しながら、これらの国と日本の物価上昇率の違いを調整した為替レートということになる)。

 

しかし、実質実効為替レートが上昇していないということは、物価が下がっているということである。なぜ物価が下がったかと言えば、国際的に競争しているのだから、価格を下げないかぎり売れないからだ。設備投資を止め、研究開発を行わず、配当を払わず、賃金を下げ、首を斬り、必死の努力の結果、価格を下げたのだ。価格が下がっているから競争で不利になっていないとは、価格が下がって大損し、将来のために投資もできなくなっていることを無視している。

 

1990年から現在まで、名目実効為替レートが100から200にまで上昇したのに、実質実効為替レートが100のままとは、この20年間余りに、他の国に比べて日本は物価が半減したということである。これが日本経済になんの影響もないとは考えられないことである。

 

 

円レートは構造ではなく金融政策で決まる

 

円が上昇するとき、円高という歴史的、構造的変化に、小手先ではない抜本的な対応をしなければならないなどという議論が盛んになるが、まったくの誤りである。円高とは、円という通貨とドルなど他の国の通貨との交換比率において、円の価値が高くなるということである。

 

どんなものでも供給を増やせば価格が下がり、減らせば上がる。通貨も同じである。歴史的でも構造的でもなんでもない。これはハリー・ジョンソン、ジェフリー・フランケルなどの経済学者が1970年代に、厳密に示したことである。前日本銀行総裁の白川方明氏も、このことを、30年以上も前になるが、両氏の論文を引用しながら認めている(白川方明「マネタリー・アプローチについて」『金融研究資料』第3号、1979年8月)。

 

円レートが金融政策で決まることは、安倍総理の掛け声による金融緩和で円安になったことで明らかである。もっとも、現在まででは大して緩和していないのだが、将来十分に緩和するだろうとの期待で円安になったのである。新しい日銀総裁、副総裁は、大胆な金融緩和をするだろう。だから、実際にそうなる前に円を売っておかなければならないと、市場が読んだことで円安になったのである。

 

 

為替切り下げ競争は起きない

 

各国が競って金融緩和をして、自国通貨を切り下げれば、為替切り下げ競争が起きて大変だという議論もある。しかし、そんなことにはならない。

 

まず、全世界で金融緩和競争をすれば、景気が良くなりすぎて、過度のインフレになる国が出てくる。そのような国は自国の利益のために金融を引き締める。インフレは国民の嫌うものだからである。実際、先進国が為替切り下げ競争をしていると非難していたブラジルで、インフレ率が高まっている。インフレのときに自国通貨が高まることは、国内需要を犠牲にせずにインフレを抑える効果がある。

 

さらに、為替切り下げ競争など起きないという、もうひとつの理由がある。輸出が増えるときには必ず輸入も増えるということである。しかも、輸出が増加したときには、輸出額から輸入額を引いた純輸出は減少し、輸出が減少したときには純輸出が増加する傾向がある。なぜなら、長期の輸出拡大は、設備投資の拡大をももたらすからである。投資の拡大は内需の増加で、当然、輸入の拡大ももたらす。

 

 

経済はゼロサムゲームではない

 

経済はゼロサムゲームではない。輸出を増やすためには、日本は原材料を輸入しなければならない。また、輸出が増えれば景気が良くなって、人々は支出を拡大する。グローバル経済となった現在では、日本人がお金を使えば、必ず輸入が増えるのである。輸出増加は日本の景気を回復させ、さらには世界の需要も拡大させる。金融緩和で輸出が増加しても、何も心配することはない。ドイツや韓国が不満であれば、自分たちも金融緩和すればよい。インフレが怖くてできないのなら自分の国の都合である。

 

一部の歴史の教科書では、大恐慌期に為替切り下げ競争が起きて、世界恐慌が激化したとなっているが、これは間違った歴史の解釈である。全世界が金融緩和すれば全世界の景気が良くなるだけだ。良くなりすぎてバブルやインフレになりそうな国があれば、そんな国から引締めを始めればよい。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

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